太陽の下で輝くものは

八十八夜を過ぎ、いよいよ緑の美しい季節となりました。
ダージリンもセカンドフラッシュを待つ時期です。
暖かい日が続くからといって油断はなりません。こうした季節の狭間は喉を傷めたりしやすいものですからね。
いかがお過ごしでございますか、伊織でございます。

当家の象徴でもあるバラの盛りもこれからの時期でございます。
様々な園芸種のあるバラでございますが、その原種をご覧になったことはございますか。

ご存知の通り、古くからバラは特徴的な香りを様々な用途に用いられてまいりましたが、それ以上に観賞用としても多くの手を加えられてきた、まさに花の女王でございます。

より美しく、より新しい花色を、また時にはより大きく――。

多くの改良により美しい姿をほこるバラでございますが、その原種は豪奢で優美な今日の姿からは離れた、非常にひかえめでかわいらしいものです。
花弁の多さもバラに豪奢な印象を与えている1つの要因でございましょうが、8種あるというバラの原種の多くは花弁の数が少なく、また咲いた際に大きく開くのが特徴のようです。
いちごの花をご覧になられたことのあるお嬢様でしたら、その姿からご想像いただきやすいでしょう。

美しくあるべくして作られた完璧な姿も良いですが、わたくしは、ありのままで人の手の加えられていない花により魅力を感じてしまいます。
「きれいになれ!」と作られた物がきれいなことはあたりまえです。そんな努力や意識すらすることなく、自然の望むままに生まれてきた姿がきれいであったのなら、それこそ本当にきれいな物、美しい物と呼べるのではないかと考えてしまうのです。

美しい物をより美しくしようという努力や技術を疎むわけではございません。
ダイヤモンドの美は、自然の奇跡と人の技術があってこそ生まれるものであることをわたくしは理解しているつもりです。
それでも、寸分違わぬカットの施されたダイヤモンドより、長く雨風にさらされた、いびつな匂いガラスの破片に胸を躍らせてしまうのは、わずかながら残された少年心のなすものでございましょうか。

さぁ、お嬢様。雨の時期が参ります前に、この暖かな日差しを楽しみにお外へ参りましょう。
今日もお出かけ日和です。