六月

休日、お昼頃。

「なんだかハンバーグが食べたい」

それは食品、日用品のお買い物に出ていた私の脳内に突然現れた。
一度気づいてしまうと、なかなか頭から離れない欲望(ハンバーグ)。
その欲は一秒、また一秒、時間が経つことに風船が膨らむように大きくなっていきました。
お昼ご飯を何にするかは特に考えていなかったからそれでもいいかな、と私の思考はハンバーグの方へ引き寄せられていく。
都合のいいことに、パン粉や卵、ひき肉は部屋の冷蔵庫の中に入っており、付け合わせやソースなどを揃えれば難なくハンバーグが食べられる。
点と点が繋がって一本の線になるみたいに、朧気に見えていた道筋が明確になったことで、私のその日のお昼ご飯が決まりました。

決まるや否や、おもちゃを目の前にした子供のように目を輝かせながらブロッコリーにじゃがいも、玉ねぎ等の必要そうなものをカゴに入れていきました。

あらかた買うものも集まりきった頃、ありきたりなアニメーションなどではお決まりでございますが、順調に進んでいるところに難所が現れるものです。

「おろしポン酢にするかデミグラスにするか」

調子良く素材を集める私の目の前に現れたのは本日最大の敵、もといハンバーグにかけるソースでございます。

普段であればおろしポン酢一択ですが、今日は少し濃い味が食べたい。

一つでも選択肢を間違えたらそこで試合が終了してしまうような、謎の緊張感がよぎり額に汗が浮かぶ。
優柔不断というわけではないけど、最高に美味しいハンバーグを作ろうとすると、簡単には決めきれない問題だ!

 

などと、ここまで書いていながら、私は結局卵と鶏のそぼろを白米と一緒にいただきました。

卯月くんは部屋に戻り食材や日用品の片付け整理をしていたら調理がめんどくさくなってしまったようです。

色々考えて、たくさん用意しても、上手くいかないことなんて生きていればざらにございます。

だからこそ、失敗しても次(回以降の自分が)頑張ればいい、その学びの日だったと思うことにいたしました。

もしも今、お嬢様やお坊ちゃまで悩んでいる方がいるならば、あまり頭を抱えず、少し力を抜いてみるのもいいのではないでしょうか。

お嬢様、お坊ちゃまであれば何であれきっと上手くいくのだろうと卯月は思います。

けれど、もしも今日のお昼ご飯で悩んでしまうのなら、使用人一同、美味しい食事と温かい紅茶と一緒にお待ちしておりますので、ご帰宅くださいませ。

5月

お嬢様、お坊ちゃま、ご機嫌麗しゅうございます。

普段歩いている何気ない道でも角度を変えて見てみると少し変わった顔をしていることをご存じでしょうか。

先日、まだ日が登る前、月明かりと街灯だけを頼りに心赴くままに歩いておりました。

明るい時に見えているものが暗がりだと見えない。当たり前のことであるけれど、しかしながら、実際に見てみることで、理解できるものがございます。

ここには小さい花が咲いていたと、ここには少し古びた看板があるなと、ここには少し小洒落た絵が書いてあると、思い返しながら歩く道は普段の道よりも楽しいものがあります。

その少しの変化を知ることで改めて目に見える情報を確かめる楽しさを、今まで目についていなかった新発見を教えてくれることでしょう。

何気ない幸せはいつも近くに潜んでいると聞いたことがありますが、どうやら私は身近な幸せを見つけるのが上手なようでございます。

お嬢様、お坊ちゃまも、普段の道を少しだけ角度を変えて見てはいかがでしょうか?

もしかしたら小さな幸せがそこに潜んでるかもしれません。

四月

お嬢様、お坊ちゃま、ご機嫌麗しゅうございます。

読書が大好きな卯月でございます。

さて、春は出会いの季節と申しますが、お嬢様、お坊ちゃまは良き出会いはございましたか?

私は、素敵な作品に出会うことができました。

主人公は、舞台に立つ役者の卵でございます。
幼い頃に憧れたステージに立つ為に努力を惜しまず、仲間と一歩ずつ成長できる真面目な性格で、壁にぶつかり苦難することがあっても決して諦めることはない熱意あふれる青年でございました。

一つの目標に向かい真っ直ぐ走り続ける、自分の全てを賭けてしまえるその青年に憧れを抱きました。

私も彼のようになりたい、と。

しかし、現実はそう甘くはございません。
困難を乗り越え成長を遂げた彼であっても足を止めてしまい、自身が描いた道のりの遠さに気圧されて、後ろを振り返ってしまうことがございました。

簡単に言えば、新しい舞台の練習中に自身の実力不足に気づいてしまい、さらには周りとの圧倒的な差を目の前で見せつけられたのです。

涙を流しました。

私も、彼も。

しかし、そこで諦めるような主人公ではありませんでした。

まだまだ駆け出しの自分の実力が足りないのは当然のこと、ここで挫けているようでは憧れたステージは夢のまた夢。

挫折するなら出来ることを全部試してから挫折する。

足を止めてしまった主人公がまた一歩前に踏み出した時、私はこの作品の虜になっておりました。
正確にはこの作品の主人公に、でございます。

物語は舞台の大成功で幕を閉じました。

手に汗握る、だけでなく頬を涙で濡らす作品に出会えたことは私にとって何よりも素敵なことでございます。

春は出会いの季節と申しますが、お嬢様、お坊ちゃまは良き出会いはございましたか?

ぜひお屋敷にご帰宅の際は、素敵な出会い(物語)をお聞かせくださいませ。楽しみにお待ちしております。

三月

お嬢様、お坊ちゃま、ご機嫌麗しゅうございます。

お散歩とお星様が大好き卯月でございます。

まだまだ寒い日が続く今日この頃でございますが、お嬢様、お坊ちゃま、いかがお過ごしでございますか?

私は散歩に出かけたり、少し遠くまで羽を伸ばしてみたり、はたまた自室にこもって読書をしたり、自由気ままに過ごしております。もちろん大事なお給仕もお給仕のためのお勉強も怠ってはおりません。

先日、大旦那様より頂いたお休みの日、夕暮れ頃からお月様が頭上に登るまで時の流れに身を任せてぶらりといろんな景色を見に行きました。

頭上には少しばかりの星の輝き。

あいにくオリオン座を見ることは叶いませんでしたが、細々と光り輝き、私はここにいるよと主張するお星様を見れて私は満足しました。

たとえ今日がいい日ではなくても明日は良い日になるかもしれない。

まだまだ一人前には程遠い私でございますが、立派な使用人になる日まであの時見た星のように少しずつでもしっかりと精進して参ります。

お嬢様、お坊ちゃま、
お早いご帰宅をお待ちしております。

ご挨拶

お嬢様、お坊ちゃま、ご機嫌麗しゅうございます。

この度、大旦那様より命を賜り
ティーサロンにてお嬢様、お坊ちゃまに
仕えさせていただくことになりました。

卯月(うづき)と申します。

社会勉強に励まれるお嬢様、お坊ちゃまに優雅なティータイム、ディナータイムをお過ごしいただけますように精一杯お給仕いたします。お早いお帰りをお待ちしております。