Turritopsis nutricula

春眠暁を覚えず、処処啼鳥を聞く、に続く節をどうも思い出せません。

ランニングを習慣にしたからか、朝の目覚めがよい能見でございます。

お嬢様、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

 

しばらくで、お屋敷が創立して二十年の月日が経とうとしております。

その歳月の中で一言では申し上げられぬ、様々なドラマがありました。

私のいち使用人としての身を置く場所の変容も多くございました一方、

お屋敷自体が、そして世間を取り巻く環境が大きく変化いたしました。

 

その日ごとに変わりゆく時代の容赦ない濁流に飲み込まれることなく、

今もなおこちらのティーサロンを存続することができておりますのは、

まぎれもなく、お嬢様がお屋敷を愛してくださったからでございます。

 

改めましてこの場をお借りいたしまして、深く深く感謝申し上げます。

 

お嬢様が安心してお戻りいただける大切な居場所をお守りするために、

これからも使用人一同、誠心誠意お仕えいたします。

 

二十一年目を迎えるお屋敷を、そしてそこでお仕えする使用人を、

どうかあたたかく見守ってやってくださいませ。

 

歴史の節目に立ち会うことができまして、幸甚に存じます。

誠にありがとうございました。そしてこれからも。

 

能見

arca ludorum

木漏れ日に暖かさを感じ、庭園で読書できる日を待ち遠しく思いました。

日が長くなるのを感じて、意味もなくそろそろかと呟く能見でございます。

お嬢様、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

 

街を歩くとあちらこちらで発するカカオの香りが鼻腔を刺激してきますね。

大人になってからというもの、なるべく甘味の摂取を控えているのですが、

昔はどちらかというと甘党だったなあと、幼少の頃を振り返っております。

 

自分で初めて作ったお菓子は「大学いも」でございました。我ながら渋い。

小学生の頃に、ひとつ歳の離れた、当時兄のように慕う存在がおりました。

長男の私を可愛がってくれる、とても面倒見のよい好少年でございました。

遊びに行ったときにおやつで作ってくれたのが、「大学いも」でございます。

 

お芋のカットがスティック状だと火が入るのに時間がかかってしまいます。

薄い輪切りにして水にさらして、シュガーバターでじっくり炒めたら完成。

小学生でも簡単にできる、美味しさも兼ねた安心安全レシピでございます。

四苦八苦しながら見様見真似で作ったことを今でも鮮明に覚えております。

 

小学校を卒業してからは親交が途絶えて、連絡を取る手段もありませんが、

どこか同じ空の下で、元気に生きていてくれたらなと切に思います。

 

先日一時的に浪花へ帰省した際、変わらない実家のキッチンを見たことが、

幼少期のお菓子作りの光景を思い出す、とても大切な引き金となりました。

 

糸口がないと思い出せないことが、大人になるとますます増えてゆきます。

しかし、きっかけがあるとしっかりと覚えているものだな、とも思います。

 

お嬢様にとりましても、そのような記憶の端緒はございますか。

 

能見

La quête

あけましておめでとうございます。能見でございます。

年末年始の時候。お嬢様、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

 

幕を開けましたこの2026年。どのような一年になるのかは神のみぞ知る。

大海原が待ち受けている波乱万丈か、それとも湖畔ような波風立たぬ凪か。

誰にも見当がつかないからこそ未来を想像することが楽しゅうございます。

 

そして、本年はお屋敷にとりましても大変特別な節目の一年でございます。

2026年3月24日をもちまして、ティーサロンは創立20周年を迎えます。

私がお屋敷の門戸を叩きまして、給仕することを許されたのが、2014年。

随分と長い間、この屋敷とともに過ごしてきたと振り返ってございました。

 

歩幅は狭いながらも、一歩一歩、前へ進んできたという実感がございます。

信じて歩んでこられたのも、ひとえにお嬢様がそばにいらっしゃったから。

培ってきた今までの日々が、現在のお屋敷の、そして私の礎でございます。

この場をお借りいたしまして、深く深く、感謝申し上げます。

 

お嬢様とご一緒に過ごすこの一年が、さらに光り輝くものとなりますよう、

様々な挑戦と経験を通じて、お屋敷に還元することができればと存じます。

 

先日、なるほどなと納得できる、非常に興味深いお話を耳にいたしました。

人間は楽しみなことがあると時間を長く感じる、という理論でございます。

幼少の頃を思い出してみると、遠足や運動会や音楽会やクラス替えなど、

心待ちにしている行事が多いため、体感として長く感じるのだそうです。

 

お嬢様にとりまして、その日が楽しみだなと思っていただけることを、

少しでも、ひとつでも、多く探していけたらと思います。

 

末尾とはなりましたが、本年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。

 

能見

Icarus

両手両足ぶんでこと足りるくらいの朝を迎えると、もう新しい年なのですね。

どれほどドラマティックな初夢を見られるか期待している能見でございます。

お嬢様、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

 

本年もあと残すところ僅か、ポインセチアが美しく映える季節でございます。

シナモンとジンジャーの紅茶の香りが執務室をあたたかく満たしていきます。

本邸での執務を終えて、一日を振り返りながら日記をしたためておりますと、

お屋敷の厨房から何やらシェイカーと氷がぶつかる音が鳴り響いております。

 

毎年の恒例行事となりました能見&八幡のオリジナルカクテル「雨の御堂筋」。

私の生まれ故郷でございます浪花の古き良き風情を感じていただけますように、

西の地に存在しておりますソウルドリンク「ひやしあめ」を使用いたしました。

八幡とともに思案いたしました「雨の御堂筋」を例年通りにご用意いたします。

 

昨年までは私がカクテルレシピの開発を一貫して執り進めておったのですが、

本年は打って変わりまして、八幡がいちからオリジナルで思案しております。

英国の陶器ブランド「ウェッジウッド」が東洋の世界を表現するかのごとく、

私には見えなかった浪花の魅力をグラスの中で表現してくれることでしょう。

 

これぞ、今まで積み上げてまいりました共同制作の楽しさ、でございますね。

どのようなご感想を賜ることができるのか、今から心躍る思いでございます。

 

少し早いご挨拶となりますが、お嬢様。本年は誠にありがとうございました。

現状維持は衰退という言葉を胸に様々な挑戦をしてきたと自負しております。

ときには手を伸ばしすぎて、蝋の翼が溶けそうになったこともございました。

それでも幾度も飛び立つことができたのは、紛れもなくお嬢様のおかげです。

 

この感謝の気持ちを胸に、来年もあなたのお傍でお仕えさせていただきます。

次は、私がお嬢様の背中をそっと支えることができますように。

 

よいお年をお迎えくださいませ。

 

能見

V.V.

秋風吹く空を見上げて、北新地へと向かう黄金色の銀杏並木を思い出しました。

その落ち葉を踏み締めた感覚が起因となり郷愁の想いに耽る能見でございます。

お嬢様、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

 

ソムリエが年に最もそわそわするボジョレー・ヌーヴォーの季節でこざいます。

本年の新酒には一体どのようなキャッチコピーがつけられているのでしょうか。

こちらの日誌がお嬢様の目に留まる頃には、文言が決まっているとよいですね。

 

今年は時任とともに、2025年のボジョレー・ヌーヴォーをお届けいたします。

五年以上も前、時任とワインバーに立っていたことを非常に懐かしく感じます。

味覚のプロフェッショナルでございますので、選定したワインが楽しみです。

 

本年の新酒は、昨年とラインナップを少し変えてご用意する予定でございます。

入れ替わりのあったボジョレー・ヌーヴォーを、簡単にご紹介いたしましょう。

 

Gaspard et Lisa Beaujolais Nouveau 2025

リサとガスパール ボジョレー・ヌーヴォー 2025

僭越ながら私が選定いたしましたこちらはお屋敷に初登場の一本でございます。

可愛らしいタッチで描かれました、何とも言えない表情の動物たちが愛おしい。

お嬢様が幼少期によくお読みになっていた絵本を彷彿とさせるエチケットです。

デザインとは裏腹にワイン自体は本格派。優美なエレガントを纏っております。

 

Lou Dumont Beaujolais Nouveau Vieilles Vignes 2025

ルー・デュモン ボジョレー・ヌーヴォー ヴィエイユ・ヴィーニュ 2025

こちらは、時任が選定いたしましたボジョレー・ヌーヴォーでございまして、

日本人醸造家の仲田晃司さんがフランスに渡り開いたワイナリーの一本です。

ヴィエイユ・ヴィーニュ、通称「VV」。古樹に成ったブドウから造られました。

新酒でありながら、ワイン通好みの複雑なアロマを愉しめそうでございます。

 

11月も始まり、様々な生産地のたくさんの新酒がお屋敷に届いてまいります。

ソムリエが浮き足立つ季節、お嬢様も本年の味わいをご期待くださいませ。

 

能見

Rêverie

執務室の椅子の上、深いまどろみの中で何か夢を見たようでございました。

心地よい風の吹く秋の夜長に、読書を存分に満喫したい能見でございます。

お嬢様、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

 

国際博覧会閉幕のニュースを耳にする度、郷愁という言葉が想起されます。

実際にその地におりますと、中々足を運ぶ機会はなかったかと思いますが、

遠く離れた慣れ親しみのある場所ならば、せめて一度は赴いてみたかった。

そう感じるほどに、人間心理というのは誠に都合のよいものでございます。

 

振り返るのには少し早いですが、浪花に所縁のあった一年でございました。

舞台の上での自分の発する言葉、そして様々な報道で見る画面越しの風景。

そういえば、私が度々赴いていた商店街は今どうなっているのでしょうか。

逡巡の末、知ることの恐怖からその好奇心に蓋をすることにいたしました。

 

マンデリンのシティロースト。私がずっと愛してやまない嗜好品のひとつ。

その焙煎香が部屋全体に広がっていき、壁一面に染み込んでいくようです。

最後のドリップを見届けて机に戻りますが一向に思考が進んでくれません。

きっと本日は諦めろということでしょう。そういう日もあっていいのです。

 

肌寒い秋風の撫でるこの執務室で。

もう少しだけ、瞼を閉じていようと思います。

 

能見

Mabon

季節の変わり目、庭園の植物が移り行く様に趣を感じるようになりました。

幼少の頃に体験した秋の行楽を懐かしく感じております能見でございます。

お嬢様、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

 

誠に残念ながら暦の上では、私が愛してやまぬ夏が終わってしまいました。

お嬢様はこの夏、心の中に暖かく灯るような素敵な思い出はできましたか。

残暑と申します言葉通り、残り香を感じることができる時候でございます。

今のうちに、この夏の記録として日記帳に記してみてはいかがでしょうか。

 

さて来月の上旬。影山とともに特別なエクストラティーをご用意いたします。

影山と紅茶を製作いたしますのはお屋敷にまいりまして初めてでございます。

執事歌劇団入団の同期としてパフォーマンスで切磋琢磨してまいりましたが、

ティーサロンでともに一つの作品を作る機会には、心躍る感情がございます。

 

この度は「霊峰富士」をモチーフに、2種類のアレンジをご用意する予定です。

我々はスワロウテイル登山部(仮)として僅かな頻度ながら活動してございます。

日本で最も高い場所で見た、日常生活から隔絶されたこの世とは思えない景色。

忘れられないアルバムのひとページを、お嬢様と一緒に眺めてみたい。

 

そのような想いをこめて、お嬢様に紅茶をお届けいたします。

どうかお楽しみにお待ちくださいませ。

 

能見