十一月

心臓から頭の先を巡って足先に至るまでに、血液と共に鉛を運んでいるのではないのかと考えてしまうほど、体がグンと重くなり、息は絶え絶えで、もう、いっそのこと諦めてしまおうかと弱い心が見え隠れをします。

『合計で百キロ、今月中に走り切る」

十月中旬に思いつき、意気揚々と走りますと宣言した私は朝晩、お休みの日でもお給仕の日でも、目標を達するために無我夢中で足を前に運びました。
スタートを切った序盤、私は余裕なのではと錯覚しました。
思った以上に動く体と無尽蔵にも思える疲れを知らない体力。普段から沢山歩いてるおかげもあるのか、軽快な足取りでございました。

ただしかし、辛くなってくるのは中盤からでございました。

一周がおおよそ三キロの外周を三十と半分。二周目に入るも、景色が一向に変わらない。なのに疲労が顕著に見え始め、心が消耗し出す永遠に続くと感じてしまう地獄。
走りながらも私は、一度でも止まってしまうと、もう二度と走れない、走りたくない。そんな予感めいたものを感じていました。
よくゴールのないマラソンほどキツイものはないと聞きますが、ゴールが見えているからこそ、その道のりの長さに苦しむことはあるんだと、知る良い機会になりました。

残り数日、目標までは二十五キロ程。

以前、なぜこんな無謀なことを始めたのかと聞かれたことがございます。

「普段から社会勉強等、ご自身のことを一生懸命にこなしてるお嬢様、お坊ちゃまを見て、私も負けてはいられないと思いました」

この言葉に嘘はございません。
けれど、私も人間でございます。
綺麗事だけではない本音というものもございます。

それは昔からの憧れでございました。

私の姿を見て、誰かに、明日も頑張ろうって、そういう気持ちにさせることができる、自分になりたかったから。

私が成していることは所詮自己満足だと、このような考えは身の程知らずなことであると頭では理解してます。

それでも成し遂げたいと思ったのが私でした。

目標を達成することを決めた最終日。ちょうど休館日の真ん中の日に、私は覚悟を決めました。

 

時間にして三時間と少々、距離にして二五.八キロ。

 

普段走る二倍以上の距離を走り切り、見事自分で掲げた百キロに到達しました。

走り切った私は終わったことへの喜びと感動と、自然に溢れる涙と心の底から湧き上がる達成感を噛み締めながら『こんな私でも、いつか憧れた自分になれたらいいな』とこれからも頑張っていこうと、前向きになれる挑戦になって良かったと思いました。

また、私卯月は日本紅茶協会認定ティーアドバイザーの資格を取得いたしました。

あの日夢見た自分自身になれるよう、これからも精進してまいります。

お嬢様、お坊ちゃま、

温かな紅茶たちと共に

お早いご帰宅をお待ちしております。