日傘

敬愛せしお嬢様へ
春の桜が待っておりましたのも束の間、深緑が日差しに映える季節となってまいりましたね。

良きお散歩日和も多うございますが、そろそろ日差しも強く、日傘をお持ちいただくべき日も増えてまいりました。
お気に入りの日傘をクロークからお出しするべきか、新たなお気に入りを新調なさるか
どちらも素敵でございますね。

そんな日傘でございますが、実は歴史としては雨傘より日傘の方が歴史が古いことをご存知でしたか?
そう、なんと傘とは雨の日に使うものではなく、暑さや日差しを避けることから始まったそうでございます。

もちろん当時はご自身で持つものではなく、使用人のような侍従が差し掛ける大きな傘が主流でございました。日傘は貴人や王族が使うものであり、同時に権力の象徴でもあったようでございます。

それは雨の多かった中世英国でも同様でございました。
雨の日はどうしていたのかと申しますと、やむを得ず濡れて歩くのが普通だったようでございまして、ご紳士方のハットやトレンチコートは雨のときに体を濡らさぬようにする雨具として普及したと言う説もございます。
‥ご婦人方はどうしていたのか?でございますか?
それはもう、尊き令嬢は、雨の日に外出などせぬものでございます。

‥‥そう考えると、当時の令嬢はカメハメハ大王みたいな生き方だったのですね。

近年は文明も発展し、晴雨兼用の傘や、非常にコンパクトに携帯できる傘も増えてまいりました。
デザインや柄も美しいものが多く、機能だけではなくファッションとしても素敵でございますね。

ただ、やはり持ち歩くにはどうにもご面倒でございますゆえ、常々に時任としては文明の進化と共に、ドローンのように浮遊し、必要な時だけ呼び出すことのできるオート傘の登場をそろそろ期待したいところでございまして、
そういった技術畑の友人に、酒の肴がわりに雑談で申し上げましたところ

出来ているそうでございます。

ただ、傘は出来上がっているものの、制御が難しいそうでして、
今街中でも耐えず飛び交っている、ワイファイなる目に見えぬ波、これが途切れますと頭上に落ちてくるそうでございます。
必要な時だけご自宅から飛んでくる呼び出し型も開発されていますが同様の理由で、迂闊に制御に失敗するとミサイルのようにあらぬところへ着弾するかもしれないそうでして‥。

お嬢様。

世界の平穏のため、今しばらく科学進化をお待ちいただいて、
ご面倒でも陽の強い日は、御自ら日傘をお持ちくださいますよう、お願いいたします。

 

それは数十年前に夢見ていたもの

敬愛せしお嬢様へ
暑くなったり寒くなったりと、春への階段とはいえ高低差が激しい日々、いかがお過ごしでございましょうか。

こう気候が厳しいと、お暇を頂いた日もいつものような散策へと足が向かず、ついつい別邸に引きこもってしまいますが
先日、若き友人からぜひ試して欲しいとお招きを頂き、近代の「メタバースゲーム」なるものを体験させて頂きました。

近代の流行りにあまりに疎く、具体的なタイトルや種類までは記憶できませんでしたが
メタバースゲームというものは、ゲーム内に広大な仮初の世界を作り上げ、
その中を自由に冒険できるというものだそうです。

今でこそ様々な催しにおいて『時任ゲーム』なるものに携わらせていただいてございますが実はこの時任め、まだ大旦那様にお拾い頂くよりも遥か前、若き時分にソフトウェアなどに少々関わったことがございます。
当時あまりに限られた容積の中に少しでも楽しんで頂ける冒険を詰め込もうと四苦八苦しておりました私にとって、当時から夢想しておりました「現実とみまごうような広い世界」「異世界を自由に動き回り冒険できる空間」というものが、時代を経て現実化していることに、それはもう大きな衝撃と感動を得たものでございます。

幾つか体験させて頂いたのですが、ひとつはスタンダートな「剣と魔法の世界」。
このところ相次いで安らかに眠られた巨匠が優美に彩られたかの高名な竜と相対する冒険を先駆とする様々な小さな箱の中で、少年少女の時代に小さな冒険を楽しまれた思い出をお持ちの方も世代問わず多いのではないでしょうか。

それが今や、

人々が笑いざわめく西洋風の街並み、地平の果てまで雄大に続く山河や草原、森の奥に隠れていた古代の巨大遺跡、地下深くに続く神秘的な迷宮、その最奥で待ち構えていた天を突くような大きなドラゴン‥‥
その全てがまるで映画のように現実のように生き生きと展開されていく様は驚愕に尽きました。
そりゃ今の子供達が、ゲームは一日一時間なんぞで我慢できないはずでございます。

もうひとつ体験させて頂いたのは、映画「ブレードランナー」のような荒廃した未来都市でのメタバースゲーム。
古い趣味で申し訳ございませんが、作家ウィリアム・フォード・ギブスンをこよなく愛する私としては、この映画の世界のような荒廃した都市が丸ごと広々と画面の中に収まっていて
その中に住むブルジョワジーからギャングまで多彩な人々と自由に交流できるこの作品には、しばし時間を忘れるほど楽しませて頂きました。

国際色がごっちゃに混じり合い、何カ国もの言語のネオンサインが空を埋めるストリート。
そのさらに奥の空には、摩天楼のような巨大企業ビルが立ち並び、
3Dモニターのニュースキャスターが悲惨な国際情勢を訴える目の前を、ホログラフの錦鯉が優雅に夜空を泳いでいく‥‥

‥‥いやもう、ちょっとした観光旅行でございました。

正直、これにバーチャルモニターやらの技術が加わった日には
人類はもう外出しなくなるのではないかと危惧するほどでございます。

いやいや、借り物ではございますが、これは至福の娯楽でございますね。
もう少し、後学のため、お嬢様方のお役に立てるよう、もうちょっとだけ遊んでみましょうか‥‥

‥‥あ痛っ!

おやつの時間も忘れてモニターに向かってしまうと
容赦なく愛猫に踵を噛まれてしまうのだと思い知りました。

娯楽の発展は素晴らしいことでございますが、
お嬢様方もどうか、日常とのバランスは大事になさってくださいませ。

朋あり遠方より来たるまた楽しからずや

敬愛せしお嬢様へ
1月も終わりに近づき、随分と冬も深まってまいりましたね。
お嬢様方は新年をどのように過ごされましたか?
時任は例年の恒例でございます、旧友たちとの会合に今年も参りまして、
何十年経とうと変化のない面々と盃を交わしてまいりました。

永の友人というのは不思議なものでして。
日々が忙しくなってまいりますと、1年に一度だったり、友人によっては地方や海外に居住を移していたりと、数年間会っていなかった者もおりましたが、

久々に顔を合わせて話してみても、ドラマチックな感動も大仰な抱擁もなく、
毎週顔を突き合わせる飲み友達であった頃とまるで変わらず、
淡々とお互いの好みのお酒をオーダーし、何十年も変わらない与太話を交わして、
くだらない戯言で馬鹿みたいに笑って、
宴が終われば。次に会うのは何年後のことか知れませんが、
「また明日ね」ぐらいの気軽さで各々の暮らしへと戻っていきました。

友人というものは貴重なものでございます。
ただ、無理をして作ったり繋ぐものでもございません。
ただ自然に、話すべきを話し、離れるべき時は離れ、
それでもこのように、また巡りあった時には、何の気負いもなく楽しく話せる。
それだけでおそらく良いのでございます。

そんな、一年~数年に一度顔を合わせる友人たちとの、次の逢瀬を楽しみにしながら、
また一年を過ごしていこうと思います。

新たな年を迎え

敬愛せしお嬢様、お坊っちゃまへ

新年明けましておめでとうございます。
本年も使用人一同、お嬢様、お坊ちゃまの使用人たるに恥じぬよう努めてまいりますゆえ
どうかよろしくお願い致します。

思えばお屋敷にティーサロンが設えられてからも、随分と長い年月が過ぎました。

時の流れに伴い、お屋敷にも様々な変化がございましたが
初代ハウススチュワードが大旦那様より仰せつかり、代々の使用人たちに脈々と受け継がれていく使用人の志たるものは、色褪せず銀の蝶の中に輝き続けております。

昨年に数度、お屋敷の皆にて使用人の心得について話し合う機会がございました。
それが現れる形もひとりひとり違えば、そもそも個々が出来ることも違いますゆえ、
思わぬ使用人の思わぬ想いに驚くことも多うございましたが

使用人たちは皆、お屋敷とサロンを深く愛しているのだということを、改めて知ることが出来ました。

新しき年の我々の目標は、スワロウテイルの名に恥じぬ使用人たることでございます。
また道に迷う時も、想いがすれ違うこともございましょうが、
お嬢様、お坊ちゃまに相応しきティーサロンを保てるよう、開館の日よりまた全力でお迎えさせて頂きます。

どうか、お早いお帰りをお待ちしております。

温かいビール

敬愛せしお嬢様へ

年の瀬も迫るこの頃、冬の寒さもギアを上げてきたようでございますが
寒さに負けることなく元気にお過ごしであられますか?

冷える夜、別邸にお戻りになった時など
お体を温めるのにホットミルクティーもようございますが
温かいお酒も、お休み前などには宜しゅうございます。
近頃はホットワインの文化も日本に馴染みまして、マーケットなどで目にする機会も増えてまいりましたが
同じ北欧•西欧の生まれながら意外とお見かけしないのが「ホットビール」にございます。

「ビールのホット!?」と驚かれる方も多うございましょうが、
クリスマスの宴では定番のお品でございますし、作り方も簡単でございます。
寒い夜のお休み前などに、ぜひお召し上がりください。

材料

お好みのビール200mlほど
(どちらかというと「エール」を書かれているものの方が作りやすいです。
一番合うのが当家で今ご用意しているアップルシナモンエールかもしれません。)
りんご1/8個ほど(薄切りにスライスするのがお勧めです。)
シナモン1本 (お鍋に入れる前に折ってください)
クローブ(ホールで2~3個)
蜂蜜お好みで(お砂糖でも構いません)
作り方
お鍋に全て入れて頂き、弱火でゆっくり温めて下さいませ。
ビールの炭酸が一斉に抜け、最初は細かく泡立ちますが、やがて収まります。
そのまま温めて頂き、湯気が立つぐらい温めたら完成です。(沸騰はさせないぐらいがベストです。)

お気に入りのマグカップに注いで、ゆっくりお召し上がりくださいませ。
他のフルーツやバニラ、キャラメルなどのシロップを加えても美味しゅうございます。
驚くべきことに、表面にホイップクリームを浮かべても意外と合いますのでお試しくださいませ。

お嬢様の冬の日々が、暖かなものでありますように。

バタースコッチの簡単な作り方

敬愛せしお嬢様へ

突然の冬の来訪に、人も草木も熊すらも惑うている昨今でございますが、いかがお過ごしでございましょう。
私の私邸の猫たちはすでに万全の暖房のもと、ヒーターの前でクルクル回っております。
(何故クルクル回っているのかにつきましては私めの過去日誌をご参照くださいませ。

さて、先日には大河内と共にホットカクテルをご用意させて頂きまして
ご好評を賜りありがとうございました。

特にクッピーにバタースコッチを合わせた品を、影山をはじめにフットマンたちも大層気に入ってくれまして、レシピを尋ねる声も多く頂きまして
12月のカクテルT2シャーベットにも使用することですしと、簡単ながらバタースコッチの作り方をここに記載させて頂きます。

材料は無塩バター25g、三温糖50g、生クリーム50mlです。
(三温糖は他のお砂糖でも結構でして、私は色味を淡くしたいため白砂糖を用いておりました。)

ミルクパンなどの小鍋をご用意いただきまして、まずは無塩バターを鍋に投入し、中火で溶かしてまいります。
ここから最後まで、ひと時とも止めることなくお鍋を混ぜ続けなけれななりません。
焦げ付かぬように鍋底を浚うような混ぜ方が望ましいので、耐熱のゴムベラがベストかと存じます。
耐熱のゴムベラにしませんと溶けてしまい、世にも恐ろしい呪われたマテリアルが出来上がりますのでご注意くださいませ。

バターが完全に液体になりましたら、お砂糖と生クリームを加えてまいります。
結構大胆に入れてしまって構いませんが、混ぜ続けることだけはお忘れなく。

ここから火を弱火にして、じわじわと煮詰めてまいります。
大変甘い香りが充満しますので、食いしん坊のフットマンや猫の襲撃にお気をつけくださいませ。
おそらく5分程度でございましょうか。
(分量を増やすと時間も相応に増えていきますのでお気をつけて)
混ぜておりますうちに、急にとろみがでて蜂蜜のように糸を引くようになり、全体の色が茶色がかってまいります。

ここで別容器に移して冷まし、さらに冷蔵庫などで一晩冷やせば完成でございます。
冷蔵庫で冷やした後は若干固まりますが、軽く混ぜるとすぐにとろけてソースのようになります。
前日のカクテルのように紅茶に加えたり、パンやクッキー、スコーンに塗ってお召し上がりくださいませ。

煮込み時間を長くしてから別容器にて冷やすと、硬度が増してキャラメルやキャンディのようになります。
あえて硬めに作って、自家製のおやつにしてみるのもよろしいかもしれません。
クラッカーに挟んだり、ケーキの飾りに使用なさったりする場合もこちらがおすすめでございます。

最後に。
お鍋を洗うのが大変なので、熱いうちに洗ってしまうか、お湯を入れて煮立ててゴムベラで洗い流してしまうことをお勧め致します。

また、万一にも火加減を誤って吹きこぼしてしまったら‥
ご別邸のキッチンがお菓子の国みたいになりますので、くれぐれも弱火にて慎重にご調理くださいませ。

どうか、甘く暖かな夜をお過ごしいただけますように。

 

きゅうり再び

敬愛せしお嬢様へ

冬の風吹きすさぶ日々、いかがお過ごしでしょう?
お体くれぐれもご自愛いただき、日夜問わず冷えますゆえ温かくしてお過ごしくださいませ。

さて、私事ですが時任はと申しますと、相変わらず天気の良い日は趣味の散策に出ております。
この日はふと、以前にも日誌にしたためた「きゅうりサンド」が突然頂きたくなり、
都心のとあるカフェへと足を運んでまいりました。

このカフェのある街は相変わらず独特でございます。
メイン通りは観光の方々で溢れておりますが、表通りに回りますと急にセレブな人々が行き交い
さて細道から裏路地に入ってみると、流行の最先端を探るようなアートな店舗が立ち並び、
老若男女取り混ぜて只者ではなさそうな奇抜な容姿の方々が屯しておられました。

同じ街でも地域によって雰囲気や人々が変わるのは、いずれの街でもよく有りますが
あまりに細分化が過ぎて、互いの領域に協定でも結ばれているのかと不思議に感じてしまいました。

さて、そんな街並みを超えてお目当てのカフェへ。
大きめのテーブルにご案内いただいたので、折角ですからときゅうりサンドにスコーンもオーダー致しまして、紅茶はすっきりとヌワラエリアを。

しばし待たせて頂きましたら、念願のきゅうりの登場でございます。
これでもかと言う勢いのきゅうりサンドに、相変わらずのサラダ付き
サラダの概念が覆りそうでございます。

 

 

 

 

 

しかしハーブを薫らせ焼かれているパンも美味しく、紅茶との相性も格別で、
当家サロンでもぜひ取り入れたく願ってしまいますが。

‥‥お嬢様、きゅうりお召し上がりになるかなぁ。

そこに一抹の不安を感じてしまう時任でございました。

カフェを辞したあとは、いつも通りに街をフラフラと
気が付けば隣の駅まで散策いたしまして
また良さそうなバーも見つけて参りましたが
それはまたのお話にさせて頂こうかと存じます。

 

興味を惹かれるままにフラフラ致しますと、いくら歩こうとも苦にならぬ性質でございますので
今度一度、丸一日でどこまで歩けるか試してみましょうか‥。