宿命の対決

我が敬愛せしお嬢様へ。

庭園を咲き染めておりました桜も瞬く間に散り、新緑の季節が訪れております。
桜一色に染まる庭園も美しゅうございますが、様々な色彩が咲き交わるこの季節もまた格別でございますね。
とはいえ、急な雨が多いのもこの季節の特徴でございます。
どうぞご面倒でも、晴雨兼用の傘はお持ち頂き、急な雨に濡れたりせぬようご自愛下さいませ。

私事ではございますが、時任は毎年、桜の季節に宿敵とのチェス勝負を行う慣わしがございます。
今年は色々と庶務もあり、桜が舞う下で…とは叶わぬ事となりましたが、次のお休みを頂いております日に、新緑の下で一勝負交わしてまいる予定でございます。
今から、気付くと架空の盤面を脳裏に描き、如何に布陣を敷くべきか、如何に騎士たちを進軍させるか…そんなことばかり考えてしまいます。

…楽しみにしている?
そうなのかもしれません。

遠く離れた友との、久々の邂逅でございますゆえ、豪徳寺執事に賜ったワインを手土産に、チェス盤を挟んで、馬鹿らしい軽口の応酬に華を咲かせてまいります。
あ、ちなみに友人は下戸です。このワインは自分用でございます。
目の前で美味そうに飲んで見せ、羨ましがらせるための嫌がらせでございます。

それでは、暫くばかりお屋敷を留守に致します。
どうぞお嬢様。私がいない間、爺やや執政の申す事には、ゆめゆめ耳を傾けて頂き、あまり我儘を言って困らせないようにお願いいたします。

夜はまだ冷えますから、暖かくしてお休み下さいませ。

時任