Still

日が経過する度に、秋の深まりを刻々と感じる季節になりました。

お屋敷に届くヌーヴォーの出来が気になり始めた能見でございます。

お嬢様、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

自室にて外の風景を拝見いたしますと、季節の移ろいを実感致します。

木の葉で完成された黄金色の絨毯。少し肌寒さを感じる夕刻よりの風。

門扉からティーサロンまでの小道も大変色鮮やかに彩られております。

たった一人きりのランウェイを孤独に歩いているような錯覚さえも。

ひっそりと一人で思慮を巡らせるのには最適な時期でもございますね。

関数電卓と共に机に向かうものの、直ぐに筆が止まってしまいました。

なかなかどうして、思考が深くなりすぎるのも考えものでございます。

リフレッシュに外の空気を感じるため、少しお庭に出てみましょうか。

――世界には、きみ以外には誰も歩むことのできない唯一の道がある。

その道はどこに行きつくのか、と問うてはならない。ひたすら進め――

お嬢様は、このニーチェの格言をご存知でいらっしゃいますでしょうか。

ぼんやり歩いているにも拘わらず、ついこんなことを考えてしまいます。

私だけしかできないこと。貴女だけしか進めない道。唯一無二の選択肢。

不安という感情は不思議と抱いておりません。大丈夫。きっと大丈夫です。

どちらかと申し上げますと「淋しい」が私の心中にはより深くございます。

今まで見てきた景色が大きく変わってしまうであろう、凛とした淋しさ。

ふらっとお庭に出るつもりでしたが、ティーサロンまで来てしまいました。

丁度良きお時間でございます。今宵のディナーをお召し上がり下さいませ。

お嬢様、本日は私の独り言を聞いていただいて、ありがとうございました。

私はもう少し、このしじまに身を委ねてみようと思います。

能見