便利

ご機嫌麗しゅう、隈川でございます。
世の中にはどんどん便利なものが増えて、かつて描いた未来というのは地続きでやってくるのだなぁ、と思うこの頃でございます。

伝統を重んじる当屋敷に身を置いておりますと、過度に科学的な物や近代的な物を主人の目に入れないことが暗黙の了解と申しますか、それが当たり前に感じるようになります。

とはいえ、近頃は本場英国の執事たちも最新機器を使いこなし、スケジュール管理や連絡の利便性が向上したことにより以前にも増して行き届いた執務を実現しているそうです。

ここからは私の持論ではございますが、新しい物や流行をハイカラすぎる、雰囲気にそぐわないと突き放すのではなくいかに伝統に組み込んでゆくかが大切なのではないかと最近は思います。

すべてを便利にする必要はございませんが、そこで生まれた余力をもっと有益に主人の為に注げるのであれば、それは素晴らしいことかと存じます。

なにより、重んじるべき伝統の正体を自分の頭で考えることを放棄すれば、そこには化石的な意地しか残りません。

あえて手のかかる手段を選択することにより生まれた想いが、本物のしきたりを作ってゆくのでしょう。

昔、伊織が申しておりました。
「便利すぎてもよくないんだよ」
という言葉は塩梅を自分で考える大切さも込められている気がします。

そういえば、私も屋敷に勤める以前はそれなりに世間一般の若者らしく流行であったり最新技術に興味がありました。

…え??
スマートフォンが普及し始めてから20年経ってる??すでに世間的には伝統的な技術…

さ、左様でございますか。
20年…

隈川