夜の使用人食堂

ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様。
隈川でございます。

近頃、いけないと分かっていながらもつい夜更かしをしてしまうのです。

お嬢様を見送った後に一人で食べる夕食はなんとなく味気なく、夜は食堂で誰かしらと食事をするようにしております。

大体黒崎や新山が淡々と悪態を付き合いながら食事をしているので、そこに混ぜて頂きます。

彼らは不思議です。
二人ともクールなイメージがございますが、話を聞いているとつい笑いが溢れてしまう。一緒にいて居心地が良いというのは使用人としてとても大切な資質のように思います。

見習いたいな、などと考えながら見ていると今度は急に子供みたいにくだらないことをし始めたり本当に不思議です。

ある程度食事が進んだ頃に、執務を終えた伊織や水瀬がやって来て、もうひと盛り上がり。

なかなか夜更かしを止めるのは難しいようです。

隈川

オルソ

ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様。
隈川でございます。

お嬢様。
実は今月の1日から私の考えたフットマンブレンドティーがこっそりお品書きに載っております。大変恐縮でございます。

紅茶の名は『オルソ』と申します。
りんごの香りをつけたアッサムをベースにキームンを加え、ハーブにカモミールとハニーブッシュをミキシング致しました。

オーソドックスなハーブティーですがミルクなどと合わせても宜しいかと存じます。

カモミールの花言葉には『逆境に耐える』『あなたを癒す』などがございます。

お嬢様が過ごす日々の中で、悩むことや疲れること、理不尽に耐え言葉に出来ないような気持ちを抱えることもあるかと存じます。

そんな逆境の中でも、リラックス効果の高いカモミールの入った紅茶を召し上がって、小さくても構いません、花のような微笑みを咲かせて下さったらばと願いを込めた紅茶でございます。

オルソという言葉は
イタリア語ならばorso。
『熊』という意味です。
そして、『耐える』という意味も持つと聞きます。

ギリシャ語ならばortho。
『歪みを正す』といった意味合い。

どんなに気持ちが折れそうなときでも、我々使用人は紅茶とともに貴方様のお側におります。貴方様の心が歪んでしまうことのないように、傍に寄り添います。

どうかご無理だけはなさらないで下さいませ、お嬢様。

機会がありましたらば『オルソ』
リラックスのお伴に是非一度お試し下さいませ。

隈川

朝露

ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様。隈川でございます。

気がつくと一年も三分の一を過ぎ、暑さの増す中期へと差し掛かっております。
日毎めくるめく気候の変化に体調を崩してはいらっしゃいませんか。どうぞお疲れが溜まっている時には無理をなさらずご自愛下さいませ。

ところでもうじき梅雨も訪れますが、お嬢様は雨の日をどのようにお過ごしですか。

私はだいたい外に出るのが億劫になってしまい、室内で過ごすことが多ございます。

時期としては少し早いですが朝食に素麺なんかをすすりながらお部屋でのんびり。至高の時間でございます。

梅雨に輝く朝露を眺めながら頂く麺つゆの味は爽やかで夏が恋しくなりますね。

よし、今日はお暇を頂いておりますし、このまま何もせずに過ごしましょう。

無理に予定を入れず何もしない日を作るのは難しくも大切なことでございますね。

隈川

ハナ

ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様。
隈川でございます。

4月に入り、新生活を迎えた人々のそわそわとした空気が街に溢れているように感じます。心地良いようなどこかくすぐったいような、始まりの季節ならではのものですね。
“ハナ” の続きを読む

子供の頃、欲しかったもの

ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様。
隈川でございます。

お嬢様は子供の頃に欲しいと思ったものを覚えていらっしゃいますか。

例えば、自転車、お人形、プラモデル、文房具など。人によって思い出すものはそれぞれかと存じます。

かくいう私は幼少の頃『自由の女神像』を欲しがっておりました。

はい、その『自由の女神像』でございます。

テレビか何かに映った『自由の女神像』を見た三歳くらいの頃の私は、何故かそれが欲しくて仕方がありませんでした。

大人になった今は『自由の女神像』を見ても特別な思いは抱きません。

それでも、あの頃の私には『自由の女神像』がとても素敵なものに見えていたのです。

大人になったことで見えるようになったものもございますが、見えなくなったものもあるのかもしれません。

隈川

いざ、南の島へ

ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様。
隈川でございます。

新年も一月が過ぎましたがお変わりありませんか。

日頃お忙しくあらせられるお嬢様のこと。社会勉強やお稽古ごと、お疲れが出ないか心配でございます。

かくいう私も給仕や雑務、稽古ごとなどで最近はなかなかゆとりのある時間を作ることができません。

使用人としては忙しいのも当たり前で喜ばしいことではございますが。

しかし、どのようなときでも心の中にゆとりを持つことこそ良き給仕、幸福な時間を呼ぶコツではないかとも存じます。

ということで、時間を作ることは難しいのでせめて空想の中で南の島へ行った気分を味わいたく存じます。

…ここはモルディブ

水上ヴィラの窓辺から外を眺めれば
透き通る凪いだオーシャンビュー

太陽の陽射しに照らされて
美しく輝く草木たち

都会の喧騒とは程遠く
耳に入るのは
ヴィラから直接海に降りた
使用人仲間たちの笑い声と
波の音だけ

トロピカルフレーヴァーのアイスセイロンティーで喉を潤す…

あぁ!なんて素晴らしい…

…そうだ、京都行こう。

隈川

後輩

ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様。
隈川でございます。

この時期になると、一年間の様々な催し事やそれを共にした使用人仲間たちのことを思い出します。

気がつけば私にも沢山の後輩ができました。

皆優秀な後輩だらけで、私なんかが先輩を名乗るのは少し恥ずかしくなってしまう程でございます。

思えば、私を育ててくれた先輩たちはそれぞれ性格は違えど、ときに優しく、ときに厳しく凛と指導してくださいました。

正直に申して、自分があんな風になれるようには思えません。

ならば、せめて私が持っていて彼らが持っていないものを惜しみなく差し出し、逆に彼らから学べるものは感謝しながら学び、共により良い使用人を目指していけるよう努めることにいたします。

例えば上手なつまみ食いの方法ですが、まずはパティシエと取り引きを。

冗談でございます。
本年も宜しくお願い致します、お嬢様。

隈川