リキュールの女王

我が敬愛せしお嬢様へ。

窓を開ければ梅花が香り、桜の蕾ももう真近。そんな季節が訪れております。

私事ですが、時任には、毎年恒例の旧来の友と交わしている約束事がございまして。
毎年桜が咲く頃に再会し、桜舞う樹の下でチェスの勝負を行う。そんな約束でございます。

昨年ごろより、桜の花粉症が発覚した私にとっては危険すぎる対決となってしまいましたが。
今より、盤面に列ぶ瑪瑙の駒を想い、想定する鉄壁の布陣を、如何なる奇策にて打ち破るか…そんな構想ばかりが心に浮かんでおります。

今年は桜と梅の同時咲きも有り得るそうですね。
お庭や森が紅色に染まる時期が参りましたら、お嬢様もどうぞ、シェフ自慢のお重『マダムバタフライ』をお弁当としてフットマンに運ばせ、庭園でのお茶会など催し頂き、紅色の吹雪をお楽しみ下さいませ。

食前酒には豪徳寺が、よく冷やしました『カフェ・ド・パリ”桜”』をお持ち致しましょう。
こんな日ぐらいは思うままにワインを楽しみ、酔いに身を任せても、爺やも小言は言いますまい。
食後には私が、酔い心地を心地好く整えるリキュールをご用意致します。

『シャルトリューズ・ヴェール』
フランス修道院生まれの薬草系リキュールにございます。

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先日にご用意しましたカクテル『スプリングガーデン』でも使わせて頂きましたが、非常に爽やかな独特の甘みを持ち、130種類ものハーブが織り成す芳香も素晴らしい『リキュールの女王』でございます。

中世から現在に至るまで、シャルトリューズ修道院の3名の修道士のみに口伝される、秘酒中の秘酒です。それもその筈で、元は中世の頃に『不老不死の秘薬』を調合しようと研鑽する過程で生まれた秘酒であり、「ベネディクト」など他数種の秘酒と合わせ『エリクサー』なる別名を持っております。
…よくゲームに出てくるアレですね。

美味もさることながら、薬草酒の滋養がお身体を整え、翌日の二日酔い等から身を護ってくれるとも言われます。
限度はございますので、過信は禁物ですよ?

ストレートでお飲み頂いてもよろしゅうございますが、酸味とも大変相性が良うございます。『スプリングガーデン』においてはその利を生かして梅と合わせさせて頂きましたが、今回の日誌では率直にライムと合わせたレシピをご紹介いたします。

カクテル『リバイバー』
薬草酒「シャルトリューズ」の特性を生かしたカクテルです。

1…シェイカーにシャルトリューズ・ヴェール45ml、レモン15ml、ガムシロップ5mlを入れてよくシェイクします。

2…細かく刻んだライムとクラッシュアイスを詰めたグラスに、1を注ぎます。

3…トニックウォーターを加え、軽くステア(混ぜ)します。

お酒を召した夜の最後に、お勧め致します一杯です。
シャルトリューズの薬味とライムの酸味が、お身体を優しく刺激して、カクテルの名前通りに意識と身体を『復活』させてくれる一杯です。
ちょっとお酒を過ごした後の迎え酒にもお勧めです。

その効能は格別ですが、復活した先からまた美酒に溺れていくと無意味ですのでご注意下さいませ。

「美しきものは芸術も美酒も底無しの沼。溺れていけば何処までも沈み行く。」

かくいうシェイスクピアの格言もございます。

何事も、生きゆくためには程々でありますように。