ターニングポイント

 『言葉』には力が宿ります。
時に人の人生を大きく変えてしまうほどの・・・

お嬢様はそんな『言葉』と出会ったことはございますか?

私にも大きく人生を変えてくれた・・・と言ったほどのものはございませんが、私自身を変えてくれた様々な言葉と出会い、今でも大切にそれらを覚えております。

本日はそのいくつかをご紹介させて頂きましょう。

 じつは幼少の頃の私は、非常にボーっとした子どもでした。
良く表現するならば『マイペース』

おそらく、当家の他の使用人たちにこの事を言ったとしても、イメージが沸かないことでしょう。

しかし、当時の私は何をするにも人より遅く、何を決めるにも迷い(これは現在もですが・・・)、人にはっぱをかけられてようやくノロノロと動き出すような子供だったのです。

そんな私が考えを改めたのは中学2年になった時の事でした。
夏目漱石作の『こころ』に登場する『先生』という人物が発するある一言に衝撃を受けました。

―向上心の無い者は馬鹿だ―

何ともストレートで、それでいて分かりやすい一言でしょうか。

しかし私はこのシンプルな言葉に『そうかぁ!!』と衝撃を受けたのです。
以来今に至るまで、少しでも前に、少しでも進歩するようにと努力をするように心がけるようにしました。
・・・・まずは、ボーっとしたところを改善しようとしたのですね。
しかしながら、あの一言と出会わなければ今の私は無かったように思います。
当家で執事を務めさせて頂いていなかったかも知れません。 

 
―どうして君達はすぐ忘れるんだ?―

これは私が18の頃、先生が我々生徒たちに向けて言った言葉です。
人は怒られると、その時だけは用心します。気を引き締めます。
しかし、2、3日もするとすっかり忘れてしまう事に対して先生が怒ったのです。・・・いえ、きっととても残念に思って言葉にしたのでしょう。

この言葉を聞いて以来、注意されたことは特に慎重に記憶に留めておく様、意識するようになりました。

―「まぁ、いっか」の妥協がすべてを駄目にする―

 これは最近、頂いた言葉です。
この妥協は厄介なことに人に伝染してゆきます。
すべてが楽な方へと流されてしまうのです。
お嬢様に接する私どもは無論日ごろから妥協する事無くお仕えしております。
もし、この病原菌がフットマンに感染したらと思うと、ゾッといたしますね。

まさか、そのようなフットマンは居りませんか?
お嬢様、もしお見かけしましたら、何なりと椎名にお申しつけください。
田辺と私とで『執事特製の特効薬』を飲ませますので・・・

 

 『言葉』とは人に届き、受け止められて『初めて』言葉となります。
その人の受け取り方でいかようにも変化するものだと思います。
ですので、我々はまず自分の言葉を良く顧みて『どう言えば正しく伝わるのだろう?』『こう言えば人は傷つかないだろうか?』とよく吟味しなくてはなりません。

 幸い私はたくさんの良い言葉とめぐり合いました。
しかし、世の中には心ない言葉があちこちに転がっております。
もしお嬢様がそんな言葉たちに傷つけられでもしたらと思うと胸の締め付けられるような思いがいたします。

 
 私も、自らの一言で、無神経に人を傷付けない様、日ごろから気をつけたいものです。

では、本日はこれにて。