迷いねこ

ようやく秋の気配を感じられるようになってまいりました。
蝉の声はすでに遠く弱く、落ち蝉の乾いた腹が聞かせる幻であるかのようです。
秋の虫へ継がれた楽譜は同じ愛を歌っているにもかかわらず、蝉のそれとは対照的に、月と闇とに抱かれてもの悲しさを湛えているように聞こえてまいります。
わたくし個人といたしましては、彼ら秋の虫の声色の方が筆のさまたげにならない分、その思いを応援してあげたい気持ちになるものです。

いかがお過ごしでございますか。
伊織でございます。

あれだけ暑いあついと嘆いていた毎日も思い返せばほんのひとときに過ぎず、待ち焦がれていた涼しい夜風は、今や毎夜のように自室の窓を忍んでまいります。
夏を盛りと咲いていた花々も幾分影をひそめ、いまだ白熱とした陽に照らされる緑の合間を彩るものも少なくなってしまいました。
残された夏の栄光も、陰りゆく様を思うと手をたたいて喜んでいるわけにも参りません。
目を楽しませてくれた花々の結んだ実りが舌を楽しませてくれるまで、今しばらく待つといたしましょう。

秋の果実、お嬢様は何がお好みですか。
わたくしは和梨、洋梨、それと柘榴でございます。
柘榴は花もきれいなものですが、果肉の色も酸味のきいた味も好みでございます。
梨は瑞々しく甘みがしつこくない所がようございますし、歯触りも魅力のひとつでございますね。
今月はそんな洋梨を用いたソルベを持ったデザートプレート、ストレイキャットをご用意しております。

夜の散歩も汗を忘れて歩けるようになりました。
だからと言って、あまり遠出をされたり、見知らぬ道へ入り込みませんように。
まさかとは存じますが、迷子になられたり……猫の集会などにお付き合いなさいませんように。