百合野でございます。
まもなく、ティーサロンは二十周年を迎えます。
これも全てお嬢様がそこに居てくださり、我々を必要としてくださっているからでございます。
私はお屋敷の始まりからの全てを見ているわけではございません。
それはもしかしたら全ての者に言えることかもしれません。
ですが全てを、このお屋敷の灯りは見ておりました。
長くここにいる者も。 最近この門を叩いた者も。 ほんの一瞬だけ、この場所に立ち寄った者でさえも。
皆それぞれに、このお屋敷の中に、小さな何かを残していきました。
喜びだったかもしれません… 迷いだったかもしれません… あるいは、言葉に出来ず枯れていった想いかもしれません。
それでも、このお屋敷の灯りは何も問わず、ただ静かに皆を照らし続けてまいりました。
人は、歩き続けていると、ときに自分がどこへ向かっているのか分からなくなるものです。 立ち止まることさえ、許されないように感じる夜もあるでしょう。
ですが、帰る場所があるということは、きっとそれだけで人をもう一度歩かせる力になるのだと、私は信じております。
疲れた心を抱えたとき、ふと思い出していただけるのなら…
ここには、変わらず灯りがあります。 そして、変わらず、お迎えする者がおりますよ。
二十年という歳月は、誇りであると同時に、約束でもございます。
これまでも、そうであったように。 これからもまた。
…
さて、20年お屋敷を照らしてくださった「灯り」が次なる「灯り」にバトンをわたしたようでございますね。
本当に、本当に…お疲れ様でした。
表立って寂しがる声を上げる方は少ないかもしれませんが
私にとって貴方は一番の功労賞でございます。
様々な心を照らし、少し疲れた事でしょう。
その何も語らない灯火の強さを見習わせていただきます。
誰かが帰って来られる場所であり続けるために。
本日も、扉の向こうに静かな灯りを灯して――
お嬢様の帰りを、お待ちしております。