嘘か誠か、かの有名な文豪は『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳したそうです。
何をしてなくても額にじんわりと汗が滲む夜。いつまで経ってもやってこない眠気に嫌気がさして、このままでは寝られないなと身を起こし、夜風に当たろうと戸を開けると「あら、奇遇ですね」隣から声が。
「暑くて眠れないので月を見ようと思っていたんです」
覗き込むその顔からよければ一緒にどうですか?と聞かれてる気がしたので「川辺まで行けば涼しいかもしれませんね」私の返す言葉に満足したようで、そのまま手を引かれ突然の深夜の散歩が始まった。
意気込んで歩んでみても目的地は目と鼻の先。この数分の間で会話という会話は特になく、並び立つ二人の周りには川のせせらぎと鈴虫の音が響いていた。
今日は月と星がよく見えるな、なんてありきたりな感想しか浮かばない。それに水辺にいるから羽虫が少し気になる。
「この様子だと明日は晴れそうですね」「そうですね」
声に釣られ見上げた空は雲ひとつない。問いかけるその顔は上を向いたままこちらに見向きもしない。
「洗濯物もすぐに乾きそうですね」「そうですね」
月に向かいニッと嬉しそうに目を細める。その横顔から目が離せない。
「月が綺麗ですね」
「……そう、ですね」
「あなたと見るからこそ、よけい綺麗に見えるのかしら?」
「そうだと嬉しいな」
なんて日頃の読書遍歴から来てるかもしれないなとありもしないことを考える午前一時。
やはりどうでもいいことを考えるには人気の少ない深夜の散歩が一番でございます。
お嬢様お坊ちゃまも何か悩みがあればたまには夜更かしもいいかもしれませんね。
妄想と共に私も自分だけの月並みの言葉を考えてみました。
それはーーー。