小さな強盗団

敬愛せしお嬢様へ

時任でございます。
嵐の日々が過ぎましたら、急に冷え込んでまいりましたが、お嬢様におかれましては御健勝にお過ごしであられますか?
この季節は、これでは暑かろうと思われる程度でお出かけ頂くのが良うございます。
スカーフやカーディガンなど、ちょいと羽織るものをお持ち頂くのも寛容でございますゆえ、どうかくれぐれも暖かくお過ごしくださいませ。

さて、ちょいと日を遡ったお話となりますが。
時任は、先日不覚にも、強盗団に遭遇してしまいました。

事の始まりは、所用で街へ出ておりました帰り道。
ちょいと立ち寄ったお店にて、良さそうな柳葉魚を購入したことでございました。
珍しく大ぶりの、身のしっかり付いたものでございましたゆえ、戻ってかるく炙りましたら、藤原や金澤とともに
仕入れていた日本酒の栓でも開けようかと、足取り軽く帰路に付いたのでございます。

奴らは、お店を出たところで既に待ち構えておりました。
視界を逃れ、足元を掬うように音もなく忍び寄った奴めは、私の足元をすりっと撫ぜると。
にゃーーーー。と赤子の泣くような声を上げて、私をじっと見上げていたのでございます。

これは。
逃れられませぬ。

諦めは早い方でございます。
まぁ、たくさん買ったことですし。行きずりのお裾分けも良かろうと、気分の良さも手伝って、柳葉魚を一尾、ほいっと放ってやりました。
そして、帰路に着こうとしましたところ。

にゃあ。
にゃあ。

今度は、一回り小さな者たちが、木立の隙間や茂みの中から、姿を見せるではありませんか。

これは。
逃れられませぬ。

かくして柳葉魚は、さらに二尾かき消えました。

さぁ、これは嫌な予感がと、早足に道を抜けようと試みましたが。
次の瞬間には、私は既に強盗団に囲まれていたのを知ったのでございます。

木々の間から、茂みの中から、神社の境内から、資材置き場のフェンスから、まぁ来るわ来るわ。
にゃーにゃーなごなごくるるるぶにー。鳴き声の音程も種類も、なんと豊富なこと。
上げても上げても私の周りを並び囲む猫たち。というか君はさっきもいたでしょう。
そんなこんなで、私のほのかな楽しみであった柳葉魚は、炙られることもなく、街の片隅の強盗団のお腹に、全て収まってしまったのでした。

あああ。

肩を落として、帰路に着こうとした私の背後から。
にゃあ。
再び聞こえる赤子のような声。
もう、柳葉魚ないですよ、と声をかけて振り返ると。何か見覚えのある猫が、じっとこちらを見ておりました。
あぁ、お店を出て最初に私を捉えた猫くんですね。

彼は、私を呼び止めると、特に何かを強請るでもなく、じっと私を見ておりました。
…どうやらこれは。
強盗団を代表して、お礼を言いに来たのでしょうか。義理堅い強盗もいたものです。

せめてもの報酬にと、写真を一枚撮らせていただきました。
彼は良かろうとばかりに、写真を撮る間微動だにせず、撮り終わると、にゃーーと一声鳴いて、樹々の中へと走り去っていきました。

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せめてお嬢様方が、強盗の被害に遭うことが無きよう、首謀猫の姿をここに掲げさせて頂きます。
大急ぎで撮ったため、画質の粗さはご容赦くださいませ。
どうかお嬢様。お魚を購入なさった後は、暗い夜道は避け、速やかにご別宅へお戻りくださいますよう、お願いいたします。