日誌

世に知られた方の言葉として語られる一節がございます。

「助けられたことは忘れない
助けたことは忘れる
これくらいがちょうどいい」

初めてその言葉を耳にしたとき、不思議と胸の奥に静かに落ちてまいりました。
誰の言葉であるかというより、その響きそのものが、長く余韻を残したのでございます。

人は弱いもので、自分が差し出した手の数を、つい心のどこかで数えてしまいます。
どれほど尽くしたか、どれほど支えたか。
それが評価されなければ、わずかな寂しささえ覚えることもあるでしょう。

けれど、この言葉はその逆を示しております。

助けたことは、風に預ける。
助けられたことは、胸に刻む。

なんと潔く、そして強い在り方でしょうか。

私もまた日々の務めの中で、誰かの役に立てた瞬間があれば、同時に多くの方に支えられていることを実感いたします。
失敗を咎められずに済んだ夜。
迷いを抱えたままでも信じていただけた朝。
言葉にせずとも理解していただけた瞬間。

そのすべてが、今の私を形作っております。

もし自分の功だけを覚えていれば、心はやがて硬くなるでしょう。
けれど、いただいた恩を忘れぬ限り、自然と背筋は伸び、謙虚さは保たれます。

有名な方の言葉であっても、日々の積み重ねの中で噛みしめていくうちに、やがて自らの信条となる。
私はそのように感じております。

明日もまた、静かに整え、静かに支え、そして静かに手放す。
覚えておくのは、いただいた温もりだけ。

それが、穏やかに生きるための“ちょうどよさ”なのかもしれません。