トーナメント

敬愛せしお嬢様へ

瞬く間に秋から冬へと気候が移りゆき、コートはもちろんのことマフラーや手袋のお仕立ても急ぐべき寒さにございます。

お気に入りのものが見つかれば良うございますが、叶わぬようであればいっそお抱えデザイナーたちに命じましてお嬢様用のデザインを作らせた方が早いのかもしれません。
どうかご検討くださいませ。

さて、暦の進みも早いもので、このお手紙が御許に届く頃には年越しも見えてきてる頃でございましょう。
お休みの時期は本家に戻られますか?あるいはご別宅でゆっくり過ごされますか?
いずれにしても、お正月休みというのはお暇を持て余すものでございますから
珍しく時任もおすすめの映画などお伝えしてみることに致しましょう。

他の皆のように映画への造詣がございませんもので、ややライトなものではございますが
20年ほど以前の古き娯楽映画「ロック・ユー!」を此度はお薦めいたします。
中世英国の騎士たちの物語でございまして、当時の騎士たちや貴族たち、平民たちの暮らしも垣間見える楽しい作品でございますが、
一風変わったことに、騎士の物語と言ってもこの映画は戦争映画でもなければドラゴンを倒すお話でもございません。

この映画はスポーツ青春物語でございます。

既に「??」マークがお心に浮かんでいるかと存じますがお聞きください。
中世騎士たちも24時間365日戦争をしていたわけでもドラゴンを狩っていたわけでもございません。そも中世とて平和な時期の方が長かったわけでございまして。
そんな中でも騎士たちは互いの武芸を鍛え、それを競い讃えあうために「トーナメント」という競技を盛んに行っておりました。

英国各地の貴族階級・騎士階級を持つものたちが一堂に集い、試合として武芸を競い合う、
各貴族の名誉を賭けた一大イベントだったようでございます。

小剣や大剣での勝負や、弓や乗馬の技量など様々な種目があったようでございますが、
どれよりも花形と言えるのは、騎兵槍という3メートル前後の長大な槍を持って馬に乗り、
互いに向き合って愛馬を駆けさせ、槍を見事に相手の騎士に命中させようと競う、
そんな勇猛な競技でございました。

と言ってももちろん槍の穂先は刺さらないよう潰され、槍の素材も金属ではなく柔らかい木製とされ、相手の体に命中すると槍が砕けて衝撃を緩めるような仕様ではございましたが
それでも訓練された戦馬同士が駆け、金属の全身鎧を着た騎士が吹き飛ぶようなこの派手な競技は、娯楽が少なかった当時の英国にとってはそれこそ今日のワールドカップのように大人気の催しでもございました。

名誉に憧れ、そんな「トーナメント」へと挑戦した1人の若者。
彼を支える個性溢れすぎる仲間たちや、貴婦人との恋、火花散らす宿命のライバル、生き別れていた肉親との再会など、ちょっとした少年漫画かのような王道の熱い物語がお楽しみ頂けます。

ぜひご覧になってみてくださいませ。

余談ですが、時任個人としてはこの映画に出て参ります「紋章官」という役割の者たちが興味深うございました。
以前から貴族に関する知識の専門家として「紋章官」という存在がある事は知っておりましたが、具体的に何をする人なのか良く解らないままでおりましたので、この映画内にて活躍しておりますのでそちらもご注目くださいませ。

 

どうか、良きお休みをお過ごしいただけますように。

 

 

‥私ども使用人の方は、お休みがあるのかどうか、まだちょっと疑わしいところですが。