待ち人、去る

日にひに温みをまし、街ゆく人々の衣の色も明るみを
まして参りました。
わたくしもようやく、分厚い外套を手放せそうです。


執事歌劇団も順調に舞台の稽古を積み、その成果に
笑みをもらす毎日でございます。
まだまだ望む高みには遠ございますが、公演の日には
きっとご満足いただける仕上がりになっていることでしょう。
少しでもご興味をお持ちいただけたなら、ぜひとも
執事歌劇団のホームページもご覧いただければと存じます。


ファーストフラッシュとの出会いが待ち遠しい、
伊織でございます。




私を憎んでいたのではないと、、
今となっては、そう信じる他はありません。
残された一枚の便箋を眺めては、己を悔いる
ばかりです。


さんざん待たせたあげくに、なぜもうあと一刻
待ってくれなかったか、なんて、わがまま放題を
言うつもりはありません。
約束を忘れたわけでもありません。
ただひと目、ひと言交えるだけの時間すら
工面できない、私の非でしかありません。


今さらどれだけ反省しましょうと、
謝りの言葉を届ける手段など、とうに失われて
しまいました。


残されたたった一枚の便箋には、なんの言葉も
記されていません。
最後に私になげうつ言葉などありはしないの
でしょうか。
あなたの言葉を打ち消したのが怒りであれ、
呆れであれ、もしくは私の都合のよいよう
にとらえるのなら、哀しみであれ、最後の手紙が
白紙であったことが私にとって救いであった
ことに変わりはありません。


「さようなら」と書かれていなかった事が
望みを失わずにいさせてくれたのです。


署名すらない白紙の便箋に滲んだわずかな
水染みが、別れを惜しんだ涙の跡だと、
断りもなく信じていてもいいですか。
勝手なばかりの私ですが、今一度あなたの
顔を見られる日まで、待っていてもいいですか。




うすくれないの天蓋はくだけ散り、なげく間もなく
若緑の幌が広げられておりました。
どこから迷い込んだものなのか、誰かが隠した
ものなのか、唐突に机上に現れたちいさな
花びらを読みかけの小説に挟みこみ、今は遠い
花見の季節を思いましょう。
今のわたくしに、他になにができましょうか。
Filed under: 伊織 — 12:51