人の暮らしというものは

敬愛せしお嬢様へ

なかなか来ないくせに、一度来ると今度は居座って帰らない。
梅雨というのは、まるで厄介なお客様のようでございます。

世を脅かす流行り病にも、もちろん重々にお気をつけ頂きとうございますが、湿度や温度差に体調を崩しやすい季節でございますゆえ日常に於きましてもどうかご自愛くださいませ。

さて。
ご自愛ご自愛と私どもよく申し上げますが、
具体的に何をすれば良いのかと仰せかもしれません。

お体を冷やさない、手洗いうがい、バランス良きお食事。もちろん色々とございます。
そして何より、しっかり睡眠をとっていただくこと。これが肝要かと存じます。

降って湧いたような、流行り病による自粛期間。
いつかまたお仕えを再開する日に向けてと、ひたすらにトレーニングと学習に時間を向けておりましたが。
それに加え。我ながら呆れるぐらい寝ておりました。

朝は起きるのです。起こされます。起きて朝食を採り、運動して入浴しないと落ち着きません。
そして力尽きるまで体を鍛え、学問を学び、家事を行い。
短時間で力を使い果たしたあたりで、お布団に誘われ「いいから寝ろ」と寝かしつけられ、パタリと眠ります。

お昼ぐらいに起こされて、昼食を作り、軽く水を浴び、運動して勉強して。そしてまた寝かしつけられます。

空が茜色になる頃。また起こされて。
食材を確認し、必要なら散歩てがら買い物に行き。
夕食はちょっと時間をかけて作り。
食事・読書・運動・入浴と終えるとまた寝かしつけられます。

……一日の2/3ぐらい寝ていた気が致します。
人としてどうなんでしょうか。

さて
「起こされる」「寝かしつけられる」と
第三者によって生活を管理されているかのような記述が多々見られますが、
これは何者かというと、うちの猫たちです。

起こされます。これは今でも朝は起こしに来ます。
下手な目覚ましより正確です。

そして私が疲れていると、布団に行けと訴えます。
ぺしぺし叩かれます。引っ張られます。押されます。あげくに噛まれます。
お布団の上に横になると、頭を抑え込まれて寝られます。
今もやられます。
大変暑いですが、お構いなしのようです。

思えば、あの季節。
人ではなく猫のペースで生活していたのかもしれません。
起きたら、配分など考えず全力で体力を使いきり、
そして寝る。この繰り返し。

お仕えすることが叶わぬことや、何一つ進められないことに対するストレスは多々ございましたが
健康面に関しては、呆れるレベルにまで頑健になりました。

お嬢様。

人の暮らしと猫の暮らし。双方を知る私が申し上げます。

睡眠は大切です。
心身になにがしの故障を感じたときは、何より良く寝るに限ります。
世間には人としての暮らしが戻って参りましたが
もし満足な睡眠を脅かされる生活があるならば、それは我慢なさらず改善すべきです。

高潔な意思や使命のために我慢なさることも多うございましょうが。

それはゆっくりと確実に、ご自身という財産を削っておられることもお考えください。
そして、ご自身という財産が失われたとき、誰が悲しむのかも。

……笑いをとるつもりが、なぜかシリアスなお話になりました。

ところで。
なにかと良く寝て。
そして人をなにかと寝させようとする猫たちですが。

エジプトや北欧などの神話において、猫は「夜の守護者」「眠りの守護者」と位置付けられております。

人の眠りを守り、眠りのなかで人を癒し
悪い夢を近づけず、眠っている間に悪しき者を追い払うのだそうです。

今日も頭に乗ってきて、ゴロゴロ言いながら人を寝させようとする猫と。
足の横に張り付いて、くるんと丸くなって、物言いたげにじっと見てくる猫に。

そうか。今も守ってくれているのかと、感謝を感じなくもありません。

暑いけど。