香りというより、匂い

お嬢様は愛読書と呼べる作品はお持ちですか?

ご自身に大きな影響を与えるほどの作品に出会えるという体験は非常に希少で、貴重なものでございます。

いかがお過ごしでしょうか?

伊織でございます。

 

 

書店には独特の香りがございますが、香りというよりも匂いと表現したくなるのはわたくしだけでしょうか。

この匂いは図書館でより強くなり、古書店においてはさらに強くなるように感じております。

本、とくに古い本が放つ匂いには非常に独特のものがございませんか?

時間を経た紙やインク、ホコリの放つ成分だけでなく、きっとそこには本に触れてきた数多の人間の手が作用するものもきっとあるのではないでしょうか。

知らない他人の手と考えるとあまりいい気持ちはしないかしれませんが、博物館や骨董品の類いとはちがい、都度きれいに磨かれ、手入れが行き届いたものとは違う歴史の積み重ねがそこに現れているようで、わたくしは嫌いではありません。

何十年も前に絶版となった本が放つのと同じ匂いを、わたくしが所蔵する愛読書は同じだけの年月を経た後に放つことができるでしょうか。

わたくしひとりが幾度となく手に取って読もうとも、古書店に積まれた本と同じ仕上がりになるとは思いません。

想像の及ばぬ様々な人々の手と時間、手入れの行き届き具合と行き届かぬ具合の積み重ねが作り上げる匂いなのだと思うのです。

 

それを不衛生ととるかロマンととるか、こればかりは他人に強要できるものではございませんね。