Loup garou

早晩、冬の気配が色濃くなって参りましたね。
街路樹が色あせないうちに、秋の空気をたくさん吸っておこうと思います。
伊織でございます。

今月のデザートプレート「Loup garou ルーガルー」の物語をご紹介いたします。

「人の気も知らずに照りつける満月が憎かったから、この爪で切り裂いてやった」

色気のない机をはさんで座る少年は「自分は狼男なのだ」と付け加えながら、そう言った。
とはいえ、僕には彼が本物の化け物かどうかなんて分かりようがない。
卓上灯に照らされる彼の顔は年相応な少年のそれであり、するどい牙もなければ獣のように毛深いということもない。
こうして彼を観察している間も少年はくちびるを尖らせたまま、差し出されたチョコレートを口に詰めこみ続けている。
その表情も仕草も、せいぜい僕より2つ3つ年下かなという推測ができるだけで、彼が狼男だと言われたって、うなずけるほどの理由はどこにも見当たらない。
僕はほおづえをついて、大きくため息をはいた。
仮にこの少年が本当に狼男だったとして、変身できない狼男なんて誰が信じてくれるだろうか?
肝心の月は壊れてしまったのだ。
もし彼がウソをついていたとしても、『実録! これが本当の狼少年』……なんて調書に書けるはずもない。
こりゃ厄介な事件を押しつけられたものだ。
第一、彼の何の罪を問われるのだろう?
月を壊したことだろうか、それとも狼男に生まれたことなのだろうか。それすらもよく分からない。
それでも昨夜から月がまっぷたつになって光を無くしたことと、彼が無類の甘党だということだけは疑いようがなかった。
僕はチョコレートで口元をべとべとにする少年を眺めながら調書の表紙を閉じ、またひとつため息をこぼした。