本棚に収まった記憶

本日は少し思い出話を。

 先日、時間があったので本棚の掃除をしていた所、一冊のノートが出てきました。
小学生が使用する「じゆうちょう」というものです。
表紙には海の生き物の写真が載っている、ごく一般的なノートです。
名前の欄には私の名前が書いてあります。

このノートは私が小学3年生の時分に使用していました。
いやはや、この様な物が出てくるとは・・・・

 懐かしい気分に浸りつつ中をのぞくと、当時授業で書いたのであろう、昆虫や家のツツジ、ポーズをとったクラスメイトのスケッチが描いてありました。
ただ二人立ったままのスケッチ
イスに座ったクラスメイトを横から書いたスケッチ

そして

野球バットを構えた少年のスケッチ
名札には「おおた」という文字。

「太田」君はその当時のクラスメイトです。
親友とまではいきませんが、比較的仲の良い友人でした。
当時、彼が独学でノートに制作していた『三国志』をモチーフにした漫画をよく読ませてもらった記憶があります。
それに感化され、私も真似して漫画を描いたものです。

巻数を重ねていく毎に、二人の漫画はクラスでも有名になり、一時期には休み時間にクラス中の男子が読んだりもしていました。授業中にも出回ったりしていた事は、良くない事ですが今では良い思い出です。

しかし4年生になる頃彼は、お父上の仕事の都合で遠方に引っ越すことになります。
「漫画の続き、楽しみにしてるね」
「向こうでも描くから」
などと約束をし、別れを告げました。
その翌年の正月には手製のイラスト付きの年賀状が送られて来て、彼との僅かな繋がりを実感しました。

 そして1年が経ち、私が5年生になったある朝のこと。
登校してきた私に、友人の鈴木君が新聞を持って近づいてきました。
鈴木君は私以上に太田君との仲が良い子です。

朝だと言うのに酷い顔をしています。
そして、彼の口から信じがたい一言が飛び出しました。

「太田が死んだ・・・」

一瞬耳を疑いました。
冗談を言っている訳でない事はすぐ判りましたが、全く現実味が無く、まるで人事のように何の感情も生まれてきませんでした。
ただただ、不思議な感覚。

新聞の内容はこうでした。
「高学年になった彼が低学年の子達を引き連れ、登校していたところ、ハンドル操作を誤った車が突っ込んできた」と。

亡くなったのは、彼一人だったそうです。

不思議なことに今でも実感は余りありません。
どこかで、生活しているように思ってしまいます。
ただ、胸に残っているものは、悲しみなどではなく、ふんわりとした思い出です。

彼は、私に漫画の書き方を教えてくれました。
三国志の中に描かれた、男のドラマを教えてくれました。
私よりも背が小さかったはずなのに、転校した後、大きく身長が伸びたそうです。

彼をモデルに書いたスケッチ。
今見ると強烈に下手くそで少し後悔してしまいます。

もうそろそろ約15年経とうとしています。

太田君
君の漫画は完結しましたか?
私の作品は途中のまま、まだ当分終わりそうにありません。