新ユニット…そして、カクテルサロン開催!

敬愛せしお嬢様へ。

時任でございます。
つい先日まで春風に揺れていた若葉が、気が付けば6月の雨にしとしとと雨滴を光らせております。
季節の移り変わりは実に慌ただしいものでございますが、人の世の移ろいもまた、ときに夏の雷雨のように激しく揺れ動くものでございます。

「ビバレージユニット」

お屋敷の有志を募りまして、そのようなユニットが結成される運びとなりました。
より良きワインやカクテルとお食事、そして、それらをより優雅に楽しんで頂くためのサーヴィス・スキル。
それらを突き詰め、研鑽し、我が身を粉と化してでも、お嬢様方のより高きお寛ぎの時間に貢献できますよう云々……。

……あー。

簡単に申しますと、ワイン部とカクテル部が合併して、ついでに何人か増えました。
日々、カクテルの開発にいそしんだり、良いワインについての談義を重ねたり、良いサービスについて語り合ったりしながら呑んだくれ……あ、いや。努力を積み重ねております。
お嬢様方に、より多くの美味しさと楽しさを届けるために、尽力してまいります。

そういえば。
時任はチーフバーテンダーという肩書を頂戴しているようでございます。
そんな呼ばれ方をするのは、実に背中のむず痒いことでございますが、後進バーテンダーのヒヨコたちが道に迷わぬよう、他人の道ではなく自分の道を歩めるよう、適度に手助けしてゆく所存でございます、

さて。

そんなビバレージユニットのいつもの活動。
皆が、お給仕やお屋敷の勤めの合間を縫いまして、お屋敷地下の酒蔵に集っては、にぎやかにシェーカーの音色を鳴らして、シェイクの技術や味覚のバランスを訓練しております。
執務を終えた時任が、自室に戻るべく地下へと降りてまいりますと、今宵もシャカシャカシャカシャカ、カタカタカタカタと、競うようなシェイクの音が聞こえてまいりました。

ガチャガチャ…・・・ガチャリ。

古びた真鍮のカギを回し、酒蔵の重い鉄扉を開くと、扉ごとにくぐもって聞こえていたシェイカーの音が、檻から解き放たれた獣たちのごとく響き渡ります。

「あ、おはようございます。」
鋭い眼差しでシェイカーを構えていた天河が、軽く目礼して律儀に挨拶を送ってきました。
…律儀なのは良いのですが、日本刀を構えたほうが似合いそうな眼光でシェイカーを振るのはどうかと思うところです。
天河のシェイクは誰よりも早く鋭く、最初は粗さが目立ったシェイク技術も、剣技を磨くかのように黙々と磨きをかけておりました。
単純な味だけでなく、色彩や味の移り変わりまで考えるセンスに長けており、誰よりも寡黙ながら誰よりも資質あるバーテンダーでございます。

「お、時任君、今日は遅かったね。」
満面の笑顔でシェイカーを掲げているのは、大河内でした。
その長身を生かしたシェイクも、最初は実にぎこちないものでした。
それを毎日毎夜、本当に愚直なまでに繰り返していた基本練習の果てに、シェイク方法による味の変化まで考えられるバーテンダーへと成長を遂げております。
「まぁ、来たからには試飲してもらおうかな。今日のXYZはどうだい?」
笑顔で差し出された三角形のグラス。ちなみに昨日も一昨日もその前も私はこれを飲んでおります。
なぜか『XYZ』という一つのカクテルに狙いを定め、頑固にそれだけを練習し続ける男、大河内。当家のホワイトラムは順調に彼のシェイカー内へと消費され続けております。

「おはようございます。といっても、もう夜ですけどね。」
同じような色合いの、同じようなグラスのカクテルをいくつも並べて、飲み比べている様子なのは…神谷。
相変わらず柔和な、落ち着いた笑みを浮かべていますが…ち、ちょっと試飲しすぎたものか、顔色が赤すぎませんか?
「カクテルにもマリアージュというものがあるはずです。いえ、むしろマリアージュそのものです。それをちょっと極めてみようと思いまして。」
初めてのワインを試飲するときと同じような、嬉しそうながら鋭い視線でカクテルを見据え、鋭い味覚でその深奥を探っていくスタイル。
ソムリエの視点でカクテルの世界を探る男…神谷。異色の存在ながらきわめて味のセンスが高い逸材です。
……基本、飲みすぎだけど。

「おはようございます。メロン取ってください。」
目も逸らさずに真剣な表情で、メジャーカップを見据えているのは…神戸。
そのテーブルにはそれはもう、無数のメロン・メロン・メロン…。フレッシュフルーツもリキュールもシロップも山積みです。
「…どのメロンですか。」
「どのメロンも微妙にちょっと違うんですよ。メロンに一番合うメロンってどれですか?」
「……すまない、言いたいことは何となくわかるが回答のしようがない。」
いつも淡々とした態度を見せかけながら、その実は誰よりも負けず嫌いな神戸君。
そして誰よりも拘り屋な彼は、一度「これ」と定めたメロンという素材を、どこまでも突き詰めてカクテルという作品に仕立てるつもりのようです。

「…で、結局どのメロンを取ればいいのです?いや、それはこの際良いとして。
諸君、お知らせがあります。
かつてから目指しておりました当家『カクテルサロン』、いよいよ開催の運びと相成りました。」

そう、カクテルサロン『真夏の夜の夢』。
そんなバーテンダーとしての道を歩み始めた彼らと共に、7月27日の夜。『カクテルサロン』を催させて頂くこととなりました。

数々の催しをご用意しておりますが、メインとして行いますのは…『第1回 Swallowtail カクテルコンペティション』でございます。

当家にて、カクテル制作の修練を積む者たちから、有志数名が、この日に向けて工夫を尽くしたカクテルをデザインいたします。
そして、そのカクテルをイベント内にて、お嬢様方の御前で作成させて頂き、飲み比べて頂いた上で皆様から投票を頂きます。
お嬢様方から、もっとも高評価の投票を頂いたバーテンダーこそが、「第1回 Swallowtail カクテルコンペティション」優勝の栄誉を受けるのです。

今回の参加者は4名。今まさに、酒蔵にて修練に励んでいる者たちでございます。

剣を振るうかのごとき眼光で、シェイカーを振るうバーテンダー、天河。
至誠にして愚直なまでの努力を積み重ねて、淡々と実力を付け続ける、大河内。
天性のセンスに、無窮の探求心を組み合わせ、ソムリエの視点からカクテルを眺める、神谷。
淡々とした表情の陰に隠したプライドを燃やして、誰よりも拘りのカクテルを作り出すバーテンダー、神戸。

この4人の使用人の、努力と工夫を積み重ねたカクテル対決を、どうかお見守り頂ければ幸いでございます。

他にも、ささやかなミニイベントをいくつかご用意しておりますが、そちらのご紹介は後日の日誌に譲らせていただきます。
今後も「ビバレージユニット」として、お嬢様方のちょっとした幸せなひと時のお手伝いをすべく、邁進致します。
それゆえどうか、当ユニットホームページにも、ときにはお立ち寄りくださいませ。