夏に抗う小さな足掻き

敬愛せしお嬢様へ。
暦も8月に入り、この駄文がお目に触れる頃には
大概に梅雨も明けていることでしょうか。

そうなると青空と輝く太陽。
漸く「夏」と呼ぶにふさわしい気候がやって参ります。

しかしこの「夏」の気候が私的に大層苦手でございます。

まず日光。
生来もともと日光は得意な方ではありません。
眩しいのが嫌いで、長時間日光に当たると気分が悪くなり、日に当たるだけで肌にチリチリと痛みを感じ、日射病などにも弱く。
幼き頃から地下で生きていくよう定められていたかの如くでございます。

なにより、日焼けが厄介です。
ビックリするぐらい日焼けします。
うっかりすると人種が変わります。
しかも、ほんの僅かな日光で焼けてしまいます。
徹底的に日光を避け、日焼け止めを用い、日光下では常に日除けをしていても、毎年一般の子ぐらい焼けてしまいますので、努力を怠ったらどうなるか知れたものでございます。

そして暑さ。
いえ、暑さには強い方でございます。
ですが。
汗が厄介でございます。
日焼け止めとセットになると、私の眼球を執拗に攻撃する凶器へと変貌いたします。

これらに抗うべく。
夏季はとにかく可能な限り地下から動かぬつもりでございますが。
生活上、そうもいかぬことも多うございます。

そこで。毎年奇策を練っては夏に抗っております。

ペットボトルを凍らせて所持しておく。
これは社会において発見された非常によき方法でございます。
これを転用すべく考えまして、
サイズを考慮いたし小さなポケットサイズのパックドリンクをいくつも凍らせて、ポケットに忍ばせておきました。
なかなか快適でございます。

心臓部に当たるように、胸にポケットのある肌着を使用したり、首後ろや太股など冷却効果の高いところに当てておけないか苦慮してみましたが、
これは明らかにシルエットがおかしくなるので断念いたしました。

代わりに今注目しておりますのが、
冷却力・保冷力が非常に高いタオルというものを入手いたしまして、これの活用を考えております。

冷やしたタオルというものは、暑い日に心地よいものでございますが、すぐぬるくなってしまいます。
しかしこのタオルは、お手にとって振り回していただくなど風に当てますと、協力な冷却力・保冷力により冷蔵したように冷たくなるのです。

タオルをどこで振り回すかが難点でございますが、私事で出掛ける際などは重宝しております。

しかしお屋敷の勤めに応用するには困ります。
唐突にタオルを振り回し始めたら大惨事でございます。
タオルは衣服の下に仕込むのは容易なれど、出し入れを頻繁にするのも難しゅうございます。

そこでさらに一計を案じ。
タオルにハッカオイルを染み込ませて、衣服の下に仕込んでみました。

死にかけました。

お嬢様、暑い日にハッカオイルで涼をとるなんてよく聞きますが、あれは危険でございます。
「寒いような感覚を強烈に与えている」だけでございますので、効く人には効きますが駄目な方には「暑いのに冷たい」というダブルアウトな感覚に襲われることになります。
真夏と真冬の駄目なところだけ総取りでございます。

あと、ハッカオイルの濃度にはくれぐれもご注意くださいませ。

いろいろと奇策を練ってみたものの、
涼しい地下から動かないのが一番のようでございます。
お嬢様がたも、灼熱の地上で我慢なさらず、
一刻も早くサロンにて涼しいティータイムをお楽しみくださいませ。

あ。

シェフにご協力いただき、超低温冷凍庫でスピリッツを凍らせて所持する奇策はかなりひんやり致しました。

執事服が凍りましたけどね。