敬愛せしお嬢様へ
ようやく心待ちにしていた涼しい季節がまいりました。
涼しくなってきたと申しますより、台風の到来で一気に気候が変わってしまった感もございますが、まぁ結果的に涼しくなったなら良しといたしましょう。
芸術の秋、文学の秋、スポーツの秋‥このように秋になると人類が矢鱈アクティブになるのは何故なのでしょうか。
やはり暑さに溶けてグダッと潰れていた夏の間に、心は求めども体がついていかぬ状態のまま意欲だけが蓄積し、それが秋になって爆発するのでございましょうか。
秋の夜長が読書に適しているとか、大きな美術の催しが秋に開かれる風習が先にあったなど諸説ございますが、やはり環境的理由が一番しっくりくるところでございます。
環境的理由で申しますなら、一番しっくりくるのは「食欲の秋」でございましょうか。
もちろん春も夏も冬も、美味しそうな品々は限りなくございますが
秋はあまりにも美味しい品が多うございます。
そう、世俗で申しますところの「美味しいからいけない」のです。
そんな次第で
お魚が食べたいです。
稀にそんな日がございます。
ふと魚を食べたいと思ったが最後、もう夜食はそれ以外考えられない日が。
もう焼き魚にしようか煮魚にしようか、それとも揚げ焼きか、いやいやカルパッチョも捨てがたいと
秋刀魚にはまだ早いか鯖もいいが鯵もまた心を惹かれると
もう思考の七割を魚が埋め尽くしてしまうのです。
なお残りの三割は何のお酒を合わせるかを考えております。
そんな次第で、今宵は鮭を買って別邸に戻りました。
さまざまな良いお魚が市に出ておりましたが、恥ずかしながら最近心を捕らえて離さない料理があるのです。
鮭のクリーム煮
魚の濃厚な美味しさを別方向の濃厚さで包み込む至高の料理。
好きなものをリピードしてしまう癖のある時任は、ここしばらく週に一度はこの料理を食べたくなる衝動に襲われております。
鮭は切り身で2切れほどが良いでしょう。
ただし私はゆえあって3切れ購入いたします。
お野菜はお好み次第ですが、私はほうれん草とキノコと玉ねぎをたっぷりと
あとは牛乳とコンソメを買っておきましょう。薄力粉やバター、調味料類は別邸にあったはずです。
まず、沸騰するぐらいのお湯を鍋に沸かしまして、
火を止めてから、そこに鮭の切り身の一つを沈めておきます。
調味料は全く入れません。
それを20分ほど漬けている間に、鮭を4等分ほどの大きめに切り、塩コショウを振ってから薄力粉をまぶしましょう。
この辺りで猫がやってまいります。
お魚を前にジーーーーーーーっと
ディナーを待つお坊ちゃまのようにお利口に、ですが抗い難い圧力を込めて
足元で待ち続けていますので、
決して圧力に負けて切り分けた魚をあげたりせず
先ほど沸騰したお湯に晒しておいたほうのお魚を取り出して、よーく冷ましてください。
ついに辛抱尽きてガシガシとズボンを登ってくる猫たちと戦いながら
刻んだほうれん草は軽くレンジで加熱してから水気を切り、キノコはヘタを取ってスライスしておきます。
お鍋にバターを敷いて温めて、玉ねぎもスライスした頃には足元でニャーニャーとサイレンのように猫たちが鳴いておりますので
しっかり冷めたことを確認して、お湯に漬けていたお魚を軽くほぐしてちょっとずつ与えてやりましょう。
一気にあげずに、今はおやつ程度にちょいちょい与えて待たせるのがコツです。
鮭は中火で色目がつくぐらいまで表裏を焼き
もっとちょうだいとズボンを引っ掻いた猫にお仕置きのドラゴントルネードバックドロップをベットめがけて決めてやり自分の背中を強打してしばし悶絶します。
鮭が色付きましたらキノコ、玉ねぎ、ほうれん草を入れて1~2分炒めて
薄力粉をがっつり振り入れてパサパサに炒めたら
ご機嫌取りの猫用ミルクをお皿に注いでやって、ズボンへの爪攻撃をしばし回避し
すかさずお鍋に300mlほど牛乳を投入します。
この時ミルクを取り違えると致命的です。ご注意ください。
お塩やコンソメでお味を整えて(私はここによく秘蔵の自家製お出汁も追加します)
とろみが出るまでゆっくり混ぜながら加熱したら完成でございます。
先ほどの湯がいてからよく冷ました鮭は、ほぐしてドライキャットフードと混ぜてお皿に盛ってあげましょう。
軽く炙ったトーストと共にいただくと(クリーム煮の方です。キャットフードではありません)より絶品でございます。
きっと、一日の疲れが、濃厚なうまみととろみの中に消え去っていくことでございましょう。
そんな最高の料理でございます鮭のクリーム煮。
もしお心動かれましたら、ぜひお試しくださいませ。
お食事後、油断しすぎますとこちらのお皿の残り物を猫が味見しようと画策しますので
洗い物は速やかになさるのがおすすめでございます。
あ。あと辛口の香り良き日本酒か、辛口白ワインがお勧めでございます。
どうか、良き秋の夜をお過ごしくださいませ。