新参執事の司馬でございます。

お初にお目にかかります。
このたび、執事として皆様方にお仕えすることになりました、司馬と申します。すでに御屋敷でお目にかかりましたお嬢さま方には、あらためまして、御挨拶申し上げます。
これから先、執事の日常で感じました様々なことを、この日誌でお伝えすることとなりますが、なにぶんにもユーモア感覚がとぼしいため、とんだ駄文を綴ることになるやもしれません。その時は、どうか寛大なお心で、笑い飛ばしてくださいませ。

では、まず執事の役職を仰せつかったきっかけをお話しいたししましょうか。
そもそも、学生を卒業してからほとんど間も置かず、私はお屋敷で働き出しました。広大な書庫を職場とし、主な仕事は毎月何百冊と購入される蔵書の整理と管理でございました。そこで、十五年ほど勤めたでしょうか。
今年の夏頃でございます。あまり例のないことでございますが、たまたま書庫に降りていらっしゃいました大旦那様が、私の仕事ぶりをしばらくじっと見つめて、やがて、黙って立ち去りました。
数日後、のことでございます。大旦那様がだしぬけに私を書斎に呼び出されました。なにか粗相でもしでかしてしまったか、と気に病みながら急ぎ参上したところ、大旦那様は優しげな笑顔で、これから執事として仕えて欲しい、と穏やかにおっしゃいました。
寝耳に水でございます。
私は黙々と職人のように仕事をこなすのが性に合っており、他人様のお世話をすることになるなど、夢にも思っておりませんでした。
使用人としてあってはならないことですが、私はその指示をお断りしようとしたのです。しかし、大旦那様のどこかいたずら好きな笑顔を前にいたしますと、とてもそんなことは言いだせませんでした。
こうして、私の執事人生は始まったのですが、大旦那様が、なぜこの役目を下さったのかは、いまだに考え続けております。現在は職務をこなすだけで精一杯ですが、きっと経験を積んでいくうちにその答えは出せるのでしょう。そう信じて、慣れない執事職に全力を尽くしたいと存じております。

思わず長くなってしまいました。
最後に、私の好きな戯曲の台詞を一部もじって、執事就任の決意(と申すのは大げさでございますが)といたしましょう。

「われら執事は影法師。その所作つたなく、皆様のお気に召しませなんだら、これらの幻が現れておりました間、しばしまどろまれた、と思っていだだければありがたいことに存じます。
さて、私は正直者の司馬でございますので、もし幸いにもお叱りの声を免れえました暁には、せいぜい技を磨いてご愛顧に報いたいと思っております。ご期待にそいえませなんだら、この司馬めをうそつきと呼んでいただきましょう。
では、皆様ごきげんよろしゅう。もし、そのお気持ちがございましたら、どうかお手を拝借願います。」

お寒うございますね

暖かい秋の絨毯をガラスの風がさらって行きます…。

美しい冬の光景とは裏腹に刺すような木枯らし…

そんな中、
お嬢様、体調は崩されておりませぬか?

風邪にはお気をつけ下さいませ…。
私の周りでも体調を崩しかけている仲間がちらほらといるので…。

お寒いときはぜひ紅茶を…。
ご存知かと思われますが、紅茶には風邪を予防する効果がございます。

さらに体を温める薬でもありますので、
ぜひナイトキャップティーとして就寝前の一杯をお勧めいたします。

あ…
ただし、それ以上飲んでしまいますと逆に寝付けなくなってしまいますので、
ご注意を…。

では、私含め使用人一同、お屋敷でお嬢様の元気なお姿を
楽しみにお待ちしております。

日誌

お屋敷に来てから、たくさんの楽しみが増えました。

紅茶を淹れる楽しみ、ご給仕をして喜んでいただけた時の喜び、
仲間のフットマン達と共に楽しく過ごす時間。

そして、
先輩や、仲間フットマンの日誌を読む楽しみがございます。

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『始まり』という事

 子供の頃、父に買ってもらった「ことわざ辞典」
その最初の1ページ目、その3つ目の項目に書かれていたことわざが

―会うは別れの始め―

でございます。

これは、人と出会えば必ずその人との別れが訪れるという意味でございます。

私は子供心に「なるほど!」という納得と同時に、人の人生の中に深く根を張った運命のような力を感じ、何だかやるせない様な寂しい気持ちになったことを覚えております。

出会ったその瞬間から別れが始まるのです。

頭では解っていても、どうにも受け入れることが出来ません。
大好きな人たちと過ごす、忙しい毎日。
この何気ない日常がずっと続くと思っていた・・・・
そう思うのは、当然の事でございましょう?

しかし

変わらない毎日などこの世には存在しません。

前に進むからこそ、変わろうとするからこそ、「人間」なのです。

 このほど、鮫島がイギリス留学へ、伊織が通称『穴ぐら』へと行くこととなりました。
もちろんこれは、ことわざで言うところの『別れ』ではありません。
会おうと思えばいつでも会いに行ける。

しかし、何気ない日常、その「一部」との別れであると考えられます。
何となく寂しいですが、彼らの新しいステージでの成功を願うばかりです。

人は長い歴史の中ではなく、その短い生涯の中で大きく進化する生き物です。

私は留学にも穴ぐらにも出稼ぎにも参りませんが、だからこそ彼らに負けない様に前に進みます。

ふと後ろを顧みた彼らが、安心してこれからの執務に集中できるように。

いつもはお嬢様方に向けて申し上げる言葉ですが、今夜ばかりは彼らに向けて使用することをお許し下さい。

新たに始まるあなた達に・・・

―行ってらっしゃい―

お屋敷の秘密~おまけ~

 さて、最近お嬢様は私を見かけると、「久しぶりに顔を見た」でありますとか、「椎名に迎えられるのは一ヶ月ぶりだ」等と仰います。
果ては「倒れていたのかと思った」と心配までさせてしまう始末。
どうかお嬢様不幸者の椎名をお許しくださいませ。

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