ブラン・ド・ブラン

 キリリと冷えたシャンパンを片手に、窓辺に目をやる。
本日の務めも無事終了した。
夏の夕方特有の涼しくも温かい風が自室に流れ込んでくる。

一口。

夕空がアルコールと共に私の体に染み渡る・・・・

アルコールに弱いので、普段お酒はほとんど飲まない。
その所為かたまに飲むお酒は、それが持つ輪郭や表情をハッキリと感じ取ることが出来る。

一口。

研ぎ澄まされたピュアな風味が口の中に優しく広がる・・・
あまり飲めないというのも考えようによっては良いのかもしれないな・・・・・

と、また一口。

吹き込む風が気持ちよく、ゆっくりと目を閉じる。

 先日また多くのフットマン候補生が試験に合格した。
その中には執事候補の者もいる。
『なんとか落第するようなことが無く、皆が揃ってお屋敷に立てるように!』
ここ1月半ばかり小山内や、春日と共に努めてきたが、それも一応の一段落のめどが付いた。
この後も控えている候補生は沢山いるが、彼らが屋敷に立てるのはまだ少し先の話・・・・

思えば、お屋敷の顔もずいぶんと変わったな・・・・

お嬢様は、この移り変わりようにちゃんと着いてきて下さっているだろうか・・・?

来る者居れば、旅立つ者もいる。
このお屋敷の者たちのほとんどは、一様に皆、何らかの形で私が手をかけてきた者達ばかり、ただのお屋敷で働く仲間を超えた想い入れがある。

素は人見知りな為、慣れ親しんだ者達が離れてしまうのはなんだか寂しい・・・・

・・・・・・

『ようこそ、Swallowtailへ。本日から皆さんのトレーナー務めます椎名と申します。』

『礼の角度にはいくつかあります。ご存じですか?』

『紅茶、緑茶、中国茶の青茶で知られるウーロン茶。実はこれらはすべて・・・』

『違う!そこはそうアプローチをかけるべきではありません。左手を見て。危険な状態ではありませんか?』

『なるほど・・・そう捉えましたか。私も気が付きませんでした。』

『何も知らない状態で感じる「小さな疑問」を見逃さないように。それが皆さんを成長させてくれる、大切な材料になります。』

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

ん?

・・・どうやら知らない間に眠ってしまったようです。
慣れないシャンパンの所為ですね。

 お嬢様最近お屋敷でお嬢様にお会いする機会もめっきり減っておりますが、椎名は元気でございます。
あまり動かぬせいか、やや夏バテ気味のような気も致しますが・・・

 さて、お屋敷では、また新しいフットマンとの出会いがあることでしょうが、目まぐるしい登場に目を回されませんように。
皆、「○○(あえて伏せておきましょう)」が付くほど真面目な者ばかりでございます。
彼らが一日も早く一人前になりますよう努めてまいりますので、お嬢様も温かくも厳しい目でもって彼らを見守ってやって下さいませ。

最後に、日誌のタイトルにございます、『ブラン・ド・ブラン』
何のことだかご存じでございますか?
ヒントは日誌の文中にもございます。

ご存知で無いお嬢様はこっそりと椎名まで。
あまりお会いできないのですが・・・・

それでは、椎名は本日もお嬢様のお早いお帰りをお待ち申し上げております。