Loup garou

早晩、冬の気配が色濃くなって参りましたね。
街路樹が色あせないうちに、秋の空気をたくさん吸っておこうと思います。
伊織でございます。

今月のデザートプレート「Loup garou ルーガルー」の物語をご紹介いたします。

「人の気も知らずに照りつける満月が憎かったから、この爪で切り裂いてやった」

色気のない机をはさんで座る少年は「自分は狼男なのだ」と付け加えながら、そう言った。
とはいえ、僕には彼が本物の化け物かどうかなんて分かりようがない。
卓上灯に照らされる彼の顔は年相応な少年のそれであり、するどい牙もなければ獣のように毛深いということもない。
こうして彼を観察している間も少年はくちびるを尖らせたまま、差し出されたチョコレートを口に詰めこみ続けている。
その表情も仕草も、せいぜい僕より2つ3つ年下かなという推測ができるだけで、彼が狼男だと言われたって、うなずけるほどの理由はどこにも見当たらない。
僕はほおづえをついて、大きくため息をはいた。
仮にこの少年が本当に狼男だったとして、変身できない狼男なんて誰が信じてくれるだろうか?
肝心の月は壊れてしまったのだ。
もし彼がウソをついていたとしても、『実録! これが本当の狼少年』……なんて調書に書けるはずもない。
こりゃ厄介な事件を押しつけられたものだ。
第一、彼の何の罪を問われるのだろう?
月を壊したことだろうか、それとも狼男に生まれたことなのだろうか。それすらもよく分からない。
それでも昨夜から月がまっぷたつになって光を無くしたことと、彼が無類の甘党だということだけは疑いようがなかった。
僕はチョコレートで口元をべとべとにする少年を眺めながら調書の表紙を閉じ、またひとつため息をこぼした。

ティーサロンで給仕を致しました。

八幡でございます。
実は八幡は10月の1ヶ月間、一言日誌を書き綴っていたので本日は1ヶ月分の一言日誌を披露致します。

10月1日(土)ティーサロンで給仕を致しました。
10月2日(日)ティーサロンで給仕を致しました。
10月3日(月)ティーサロンで給仕を致しました。
10月4日(火)ティーサロンで給仕を致しました。
10月5日(水)休暇を頂いたので寝ておりました。
10月6日(木)ティーサロンで給仕を致しました。
10月7日(金)勉強を致しました。
10月8日(土)ティーサロンで給仕を致しました。
10月9日(日)ティーサロンで給仕を致しました。
10月10日(月)ティーサロンで給仕を致しました。
10月11日(火)ティーサロンで給仕を致しました。
10月12日(水)休暇を頂いたので寝ておりました。
10月13日(木)ティーサロンで給仕を致しました。
10月14日(金)輪ゴムをいじっていたら2時間が経っていて絶望しておりました。
10月15日(土)ティーサロンで給仕を致しました。
10月16日(日)ティーサロンで給仕を致しました。
10月17日(月)ティーサロンで給仕を致しました。
10月18日(火)ティーサロンで給仕を致しました。
10月19日(水)申し訳ございません。この日は一言日誌を書くのを忘れてしまいました。
10月20日(木)ティーサロンで給仕を致しました。
10月21日(金)勉強を致しました。
10月22日(土)ティーサロンで給仕を致しました。
10月23日(日)ティーサロンで給仕を致しました。
10月24日(月)ティーサロンで給仕を致しました。

と、本来ならば10月31日まで日誌が続きますがこの後も殆どが

ティーサロンで給仕を致しました。

でございますのでお嬢様がゲシュタルト崩壊してしまう可能性がございますので一言日誌はこちらで終了致したいと存じます。

※先月の日誌「お屋敷史上最高の日誌」を書いた紙を当家の馬、エリザベスにグシャグシャにされてしまいましたので記載する事が出来なくなってしまいました。大変申し訳ございません。

日誌

先月の日誌においてサイケデリックというお話をいたしました。
この「陶酔」「恍惚」といった要素。
原始のパーカッションのリズムから最新のEDMまで。バッハのアルペジオに、インドのシタール、和楽器の三曲合奏。時間も洋の東西も問わず。聞いているものをトランス状態へと導くのは音楽のみが持つ大きな力でございましょう。

ラヴィ シャンカル(シタール)、山本峰山(尺八)、宮下伸(筝)
「Improvisations On Theme Rokudan」

この一曲もまさにそういったエネルギーに満ち満ちております。
(おそらく時代が生んだ怪作とでもいうべきで正統な評価がくだされるものではないのでしょうが)
「六段の調べ」という筝曲の古典を主題にそれぞれの奏者が即興で演奏していくジャズ的なアプローチで
それぞれソロの最後にはテーマに戻ります。
徐々に徐々に。少しづつ高まる緊張感、高揚感がすさまじくいつの間にか心とらわれてしまいます。
三者三様のメロディラインはどれも個性的でそれぞれの楽器の魅力を十二分に発揮しております。

年を重ねるにつれ音楽を聞く時間も少なくなってしまっていたのですが
たまにはこういった音色に耳を傾け心ゆだねるのも悪くないのかもしれません。
ちょうど秋も深まりワインもおいしくなってきたことでございますし。