心温まる酒

敬愛せしお嬢様へ

窓の外をふとみれば、粉雪がひらひらと舞っている。
いつそんな光景を見ることになろうと不思議ではないほどに、冬が色濃くなりましたね。

冬の夜は何処までも静謐な深さがございまして、散歩など致しますと、温度も音もない、時間まで止まったようなモノトーンの庭園に、銀月の明りだけが冷たく降っている様子に魅入られてしまいます。
庭園から森へ、森から薔薇園へと、静寂を楽しみ、ついつい時間を忘れて散策してしまうのも実に趣き在る事でございます。

されど先日に、散歩中の姿を、夜を更かし星を眺めていたフットマンに目撃され、「お屋敷を彷徨う亡霊」の怪談話を生み出したばかりでございました。

いらぬ騒ぎを起こさぬよう、散歩の際は重々に用心いたします。
…もう一寸ぐらい、生命あるニンゲンらしく見れるように振舞いましょう。

“心温まる酒” の続きを読む