月あかり

中秋とまでは叶わぬものの、先だっての夜に、実に良い月が出ておりました。
いつもの如く、執務室で書類に埋もれていた時任でございましたが、窓辺の誘うような月明かりに誘われて、しばし月見の酒と洒落込んでまいりました。
すでに冬の到来を予感させる寒気の中、庭園を照らし出す月の光はむしろ冷気を纏っているかのようで、いくら私とて、そう長くは飲めないなと苦笑しながら酒盃を傾けておりますと、
不意に、先達か居られたようで、月明かりをさえぎる人影が長く眼前に伸びておりました。

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