太陽に忌まれても

節気すでに立秋をすぎました。
暦は秋だと申しておりますが、信じることがためらわれるような陽気が続いております。
水分の確保が大切なことはわたくしも十分存じておりますが、冷たいものばかり摂って体を冷やされませんように。
ここ数日、自室での水分確保にはローズヒップのコーディアルを贔屓にしている伊織でございます。

残暑という言葉の響きだけをとらえれば、夏の余韻、暑さの名残り、弱まりゆく太陽の光――尻すぼみな暑さを想像させますが、どうも実際の所はこれからが暑さの本番であるようです。
立秋をすぎたつい先日、今夏の最高気温を記録したという知らせが裏付けてくれるようでございます。
そうした知らせを知るほどに、野の花々が世界が白むような陽の下で栄えている姿はまぶしく映り、わたくしはと言えば、日かげに隠れて筆を玩ぶ時間が長くなるのです。

それでも、ふと見上げた窓外に白や紅色のこんぺいとうが宙に舞っているのを見つけたとなれば、この奇妙な光景の所以を確かめようと履物に手を伸ばさざるを得ません。
こんぺいとうが庭に浮いているなんて、遠矢くんの夢でもあるまいし――

もちろん砂糖菓子が宙を舞うはずもなく、近づいて確かめてみますと、こんぺいとうに見えておりましたのは満開の百日紅の花でございました。
強い陽に焼かれてなお白く滑らかな木肌、無邪気さを体現するような小柄で可憐な花弁は、花と知った今でもこんぺいとうを散らしたように可愛らしく見えます。

――案外、百日紅の花は、どんなに酷く暑い夏でも決して溶けることのないこんぺいとう、その物であるのかもしれません。
少しはわたくしも見習いたいものではありますが、しょせん夜蛾は夜蛾。
太陽がわたくしを嫌うのであれば、わたくしから歩み寄ることもないのかもしれません。
さて、日かげに戻ります。
太陽に愛された花を遠目に、相も変わらず筆をなぶって過ごしましょう。
こんぺいとうを相手にやきもちなんて焼けるものですか。