シンガポールの夜

敬愛せしお嬢様へ

冬の息吹は増すばかりで留まる事を知らず
コートの襟を搔き合わせましても凍えを抑えられぬ日も多い事と存じまする
どうかお身体冷やしませぬ様、お出掛けからはなるべく日のあるうちにお戻りいただき
暖かきお部屋でお過ごし下さいませ。

さて、先日は山岡と共に、お嬢様にクリスマスカクテルをご用意すると言う栄誉を浴しまして
ありがとうございました。

ホットサングリアに温めたスパークリングワインを注ぐという異色の品でございましたが
楽しんで頂けたなら幸いでございます。

さて、何故スパークリングワインを温める等と言う暴挙に考え至ったのかと
そのようなご質問をよく頂きますが
これは遠くシンガポールに参りました時の体験に基づいてございますゆえ
そのお話など綴ってみましょう。

ご無聊の慰めにでもなれば、何よりでございます。

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モスコミュールと三人のセールスマン

敬愛せしお嬢様へ

秋から冬への巡りは、渓谷を流れる水のごとくに
兆しを感じたと思えば、瞬く間に凍てつくような夜を迎えるほどになってしまいました。

お嬢様が寒い思いをなさっていないか、お風邪を召していないかと心配ばかりしてしまいます。

どうかお昼が少しばかり暖かくともご油断めさらず、厚手のお上着にマフラーなどもお持ちくださいませ。

さて、お話しは変わりますが

11月より、Tiny BLUEMOONと称しまして
伝統的なスタンダートカクテルをお届けする、ミニバー形式のお品を、月に二日ほどサロンにてご用意させていただく事となりました。

かつて別館として門を開いておりました、Bar『BLUEMOON』にてお嬢様方にバーでの過ごし方やカクテルについて楽しく学んで頂いておりましたが、

同様に、伝統的なカクテルについて楽しく美味しく学んで頂くべく
当家バーテンダーたちが交代で、幾品かチョイスしたスタンダートカクテルをお届けさせて頂きます。

11月に引き続き12月も時任がバーテンダーを務めまして
此度はウォッカベースのカクテルをご用意致します。

ブドウベースのフランス製ウォッカをベースと致しまして
イチゴやラズベリー、クランベリー、ブルーベリーなどを漬け込み
ほのかにフルーティさが薫るよう仕上げた品をベースに
ウォッカレモネードや、カミカゼなど伝統的カクテルの数々をお届けしましょう。

そんなご用意する品々のひとつは「モスコミュール」でございます。

あまりお酒を召されないお嬢様でも、この名をお耳になさったことは多いのではないでしょうか。
市井でも広く扱われている、ウォッカをジンジャーエールで割った極めてスタンダートなカクテルでございます。

此度は、ジンジャーエールもアイルランド式に生姜から仕込みまして、自家製にてお届け致します。
お砂糖で煮詰めた生姜をベースに、ハチミツやハーブで柔らかく仕上げたジンジャーエールを合わせ

そこにフルーティな自家製ウォッカと新鮮なライムを絞りいれてお届け致しましょう。

そんなモスコミュールですが

このカクテルが世に誕生した経緯として
「三人のセールスマン」という逸話がよく語られます。

アメリカ生まれのこのカクテル。
このカクテルが誕生したのはバーではなく
アメリカの広大な土地を繋ぐ、広野を貫くハイウェイ。その傍らにポツンとあるダイナー…小さなレストランだそうでございます。

道路と荒野以外は何もないような、荒涼とした土地にポツンと立つこのダイナーには
普段は旅人やトラック運転手らが休憩で立ち寄るぐらいのお客しか居りませんでしたが

この日は奇しくも、見慣れない、くたびれたスーツ姿の男性が三人。カウンターにまばらに並んでぐったりとしていたそうでございます。

普段は無愛想なバーテンダーも、さすがに気になりそれぞれ話してみると…

一人はウォッカのセールスマン。このアメリカにもウォッカの魅力を伝えたいと夢見てましたが
「アメリカ人と来たらバーボンしか飲まないよ。ウォッカなんかロシア人が飲むもんだって聞いてもくれない!」

一人はジンジャーエールのセールスマン。
英国農村部の素朴な味を広めたいと願っていましたが
「アメリカ人ってコーラしか飲まないじゃないか!コーラ以外も飲む?何を飲むんですかって聞いたら、返事はダイエットコーラだったよ!」

一人はライムのセールスマン。
イタリアの新鮮な果実を山ほど新大陸に持ってきましたが。
「食べてもらって第一声が『甘くない』ばっかりだよ!フルーツとお菓子を勘違いしてないかい!?」

奇しくも新大陸アメリカにて苦労しているセールスマン三人が偶然集ったとあって
彼らはおおいに意気投合し、良い杯を重ねたようですが、

どんなに盛り上がろうとも、それぞれに抱えた困難と在庫は減るわけではなく、
いつしか口数も減った彼らは、再び三人とも頭を抱えてカウンターに突っ伏してしまいました。

見るに見かねたバーテンダーは、
彼らからウォッカ一本と、ジンジャーエール数本と、ライム一袋を買ってあげましたが

ビールかウィスキー以外を飲むお客は滅多に見ませんし。
コーラかコーヒーかオレンジジュース以外メニューに載せたこともありませんし
ライムに至ってはレモンとの違いすら分かりませんでした。

「まぁアンタら。苦労するのもわかるが、せっかく出会ったんだし楽しくやりなよ。
美味いかわからんが、出会いの印にこれらでカクテルを作ってやるからさ。」

バーテンダーはその辺にあったマグカップにウォッカを注ぎ、ジンジャーエールで満たし。酸味付けにとライムを大きくカットして絞り入れて、3人に渡してやりました。

怪訝な表情で三人はマグを受け取り、小さくお礼を言って同時にそれを飲み始めました。

「「「美味い!」」」

三人は同時に叫びました。

ウォッカの力強い素朴なアルコールを
優しくも刺激的なジンジャーエールの風味が包み込み
ライムが爽やかさと香りを添えて

最高のバランスが整ったカクテルに仕上がっていたのです。

「そうか…ありがとう!
一人で売れないなら、このカクテルを広めて
三人でセールスしていけば、きっと売れまくるはずじゃないか!?」

先程までの意気消沈はどこへやら。
セールスマンたちは口々に元気よく捲し立てると
バーテンダーに熱烈な握手と感謝を告げて
三人揃って店の外へと駆け出していってしまいました。

それから。

アメリカの広大なハイウェイに連なる
無数のバーやダイナーに

三人組のセールスマンが現れては
今までにない爽やかで刺激的な風味のカクテルを売り歩くようになり

いつしか、そのカクテル「モスコミュール」は
アメリカ全土のバーで流行するまでに至ったそうでございます。

そんな逸話のあるモスコミュールを
使用人が更に磨きをかけた杯。

遠き昔の、ハイウェイ沿いの古びたダイナーで
杯を傾けていた三人に想いを馳せながら
お召し上がりいただければ、幸いでございます。

ご別宅で作るスプリッツァー

敬愛せしお嬢様へ

夏もまさに真っ只中でございますね。
向日葵が大輪の花を咲かすのが楽しみでございます。

世はウィルスの対応に迷走し、当家のみならずお外にてお酒をお召し上がり頂けなくなって久しゅうございます。
ご不便をお掛けすることもあり、使用人として申し訳ない限りでございます。

さて、こうなるとご別宅でお食事と共にお酒を…ですとか
お友達と(対策は取った上で)少人数ホームパーティといった場面が増えるのやもしれません。

ご別宅に出向し、相応しき上質のカクテルをお届けできれば幸いでございますが、それもなかなか叶いませんゆえ、

「ご別宅で簡単に作れるカクテル・真夏編」
として、時任流スプリッツァーの作り方をお伝えいたしましょう。

〈基礎ver.〉
スプリッツァーとは、白ワインをソーダで割ったカクテルでございます。
それだけでも美味しゅうございますが、お好みの味に整えるため、レモン果汁やシロップを少量加えるのが一般的でございます。

レシピとしては
1.大きめのグラスに氷を入れる
2.白ワインを45ml入れる(お好みで増減)
3.レモン果汁、ガムシロップをお好みで
(レモン果汁10ml、シロップ5mlぐらいがベーシックかと)
4.冷やしたソーダをたっぷり入れて混ぜる

と言うところでございます。

〈時任sp.〉
かつてbar『ブルームーン』でご用意しておりましたレシピでございます。
昨月にギフトショップにてご用意させて頂いた「スプリッツァージュレ」も、このレシピを元にしております。

-材料-
白ワイン
味のはっきりしたものがベストなので、チリ産のシャルドネワインをよく使用しておりました。

レモン(の皮)
レモンは普通に街で売っているもので構いません。
ただしお手数ですがよく果皮を洗ってくださいませ。
果汁は必要ありません。


氷は有れば細かく砕いた「クラッシュドアイス」がベストでございます。(なければ普通の氷でも構いません)

シロップ
アイスティーに使っておられるもので充分でございます。

ソーダ水
こちらも街中で売っているもので充分でございます。冷蔵庫でよく冷やしてくださいませ。
ついでにグラスも冷蔵庫で冷やしておくとより美味しいスプリッツァーが出来上がります。

-レシピ-
1.レモンは皮を指先サイズの破片状に10~12枚ほど削いでおきます。裏の白い部分をなるべく残さないのが美味しさのポイントです。
2.グラスに氷を入れ、白ワイン60ml、シロップ10ml、ソーダ水をたっぷりと入れて混ぜます。

この時
白ワインを入れる→ちょっと混ぜる→シロップを入れる→ちょっと混ぜる→ソーダ水を入れる→ちょっと混ぜる
という手順で行いますと、氷とよく馴染んでおすすめでございます。

3.レモンピール(皮)を入れます。
グラスの上、水面付近で、
削いでおいたレモンの皮を、潰すと申しますか曲げるように絞って、そのままグラスの中に皮も投入します。10~12枚全部絞って入れてしまいます。

4.もう一度優しく混ぜたら出来上がりです。

レモンピールの香りとほろ苦さがよく染みた
当家自慢のスプリッツァーがこれで出来上がります。

夏に最適のお品でございますゆえ、ぜひ一度お試しくださいませ。

敬愛せしお嬢様へ

夏の暑さが少しづつ本格化して参りましたね。
アイスティーの美味しい季節ゆえ、当家ティーマイスターも今年の茶葉に合わせたレシピの見直しに余念なき様子でございます。

お嬢様におかれましては、サロンではもちろんのこと、お散歩中や社会勉強中なども、こまめに水分をお採りいただき、熱中症予防にお勤めくださいますようお願い致します。

さて、そんな夏の日々でございますが

先日、夜遅くに所用から戻りまして、とある近隣の河川付近を一人歩いておりました。

川の音と水面からの風が心地よく、
良き夏の夜よとゆっくり歩みを進めておりましたら

ふぃ、と。
青い小さな光が鼻先を横切りました。

そのまま、その小さな青い光点は、
私の眼前をゆらゆらと飛び回っておりました。

あまりに綺麗で。そして風流なき話ではございますが、あまりに生命感の無い機械的な光だったもので

はて新手のドローンか携帯機器かと
正体がさっぱり掴めぬままその光を眺めておりました。

光は誘うように私の前をゆらゆら飛び回ったのち
川縁の庭園にフラりと舞い降り、その羽を休め始めました。

「あぁ、蛍か。」
蛍を見たことがないとは申しませんが。
博物施設や尾瀬などの名所に見に行くでなく
このような町中で突然遭遇すると言う経験はなかったもので
しばらく呆然とその光を眺めておりました。

見れば見るほど不思議な青い光。

昔の方々が、この光に様々な神秘を見いだした気持ちも良くわかる気がいたしました。

…それはそれとして、暗くて写真が撮れません。

神秘に魅せられながらもカメラは用意してしまう辺り、私も現在に染まっているなぁと思いつつも。
あれやこれや工夫してその姿を収めてまいりました。

明るくしたら青い光が見えなくなったので、あまり意味がありませんでしたが。

いつかまた。
この不思議な光をお嬢様にも今一度お見せしたいものでございます。

マルガリータ

敬愛せしお嬢様へ

初夏の暑さが少しづつ響いてくる日々、ご健勝にお過ごしであられますか?

此度、六月の前半にて「フットマンアイス」をご用意させていただく事となり。
初夏や梅雨の疎ましさを振り払うような爽やかなお品をと思い立ちまして

カクテル「マルガリータ」をイメージ致しました
『マルガリータ ソルベ』をお届けさせていただきます。

本来はテキーラを用いた風味深いカクテルでございますが
おそらくアルコールのご提供が難しかろうと思い、
「アガペ・シロップ・テキラーナ」と申します
テキーラの原料でもある竜舌蘭を用いたシロップを入手して参りました

こちらのアガペ・シロップにオレンジピールとフレッシュなライム果汁を合わせまして
配合率を変え、柑橘の酸味に寄せた白いソルベと、柑橘の甘味に寄せた青いソルベを盛り合わせ、

お口に入れる2色のソルベのバランスにより、甘味や酸味の変化をお楽しみ頂きながらお召し上がり頂けるようにご用意致しました。

ほのかにお掛けした「フルール ド セル」…上質のお塩が酸味と甘味を更に引き立てております。

ぜひご賞味くださいませ。

さて。
ここで終わってはただの宣伝でございます。

そしてここからは、愚にもつかぬ小話でございます。
ほんのひとときでも、無聊の慰めとなれば幸いでございます。

今回のモデルとなりましたカクテル「マルガリータ」は、テキーラにオレンジキュラソーと柑橘を加え、お塩を添えてお作りする、クラシックなカクテルでございます。

なお「マルゲリータ」はピザでございます。
もちもちの生地に新鮮なトマトとバジルとチーズを乗せて焼き上げる、伝統的なピザの名作でございますが今回は関係ございません

1949年。カクテル文化の黎明期に行われた世界的なカクテルコンクールにて入賞した作品であり、
グラスの縁にお塩をまぶす「スノースタイル」という技法が、今日びのカクテル文化では定番のひとつでございますが、当時としてはとても革新的な技法でございました。

そして考案者であるバーテンダー、ジャン・デュレッサーはこのカクテルを、不慮の事故で失った恋人に捧げるカクテルだと語りました。

狩猟に興じていた際に、事故により逝去した恋人「マルガリータ」。

その明るさを太陽のようなテキーラで。
優しさを甘くフルーティなオレンジキュラソーで。
そしてその存在を失った悲しみの涙を、添えたお塩で表現したカクテルであると。

その悲しい逸話は世界的に知られることとなり、
特にジャン・デュレッサーの故郷であるロサンゼルスのバーでは、マルガリータが大流行致しました。

しかし。

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その後。
非常にバツの悪そうな顔でとあるパーティーの壇上に登場したジャン・デュレッサーはこう語りました。

カクテルにロマンティックな逸話を添えて、眼前のお客様がたを楽しませようと、創作の物語を添えてしまったけれど、
不慮の事故で死んでしまった恋人などいないと。

と申しますか、恋人のマルガリータ嬢はこの当時も当然ご存命でして。
勝手に逸話のなかで殺されてしまい、えらくご立腹の恋人を宥めるために
ジャン・デュレッサー氏はやむなく「嘘の告白」のためにパーティーまで出向いてきた次第でございました。

そんな落ちまでついたマルガリータ。
カクテル言葉は表向きの逸話を採ってか「悲恋」でございますが。
これを凍らせてシャーベットにした「フローズンマルガリータ」のカクテル言葉は

「笑顔を見せて」でございます。

二色のマルガリータを良く冷やしてご用意した今回のソルベも
お嬢様に笑顔になっていただけるお味であれば、幸いでございます。

モーニングルーティン

世の中がこんな塩梅でございますと
日誌に認めますことも限られて参りますね。
このご時世になりて生活のなかで増えたことと言えば、料理と勉強と読書とトレーニングぐらいでございます。

…修行中の僧侶か。

そんな自分ツッコミを心中で呟きつつ、何を日誌に認めるべきかと考案いたしますが
料理やカクテルのお話ばかりを続けると、そのうち執事日誌がレシピブックになりそうです。

かといってお散歩日誌ばかりも悩ましいところです。
いや先日、某河川をなんの気もなくどこまで歩けるか川沿いを歩き続けてうっかり遭難いたしましたが。

ペットの紹介をするのも定番でございますね。
大変アグレッシブで話題に欠かない子ではございますが、
日常は寝ているか食べているかのどちらかでございます。案外日誌とまでなりますと特筆すべき事はございません。

さて、いかがすべきかと友人に相談したところ。
世間には「モーニングルーティン」や「ナイトルーティン」というものがあると聞きました。

果たして初老男性のモーニングルーティンとやらに日誌といて閲覧頂くに足る価値があるのかは訝しい限りでございますが、物は試しと筆を走らせてみましょう。

am5:30
何故か一回この時間に目が覚めます。
早起きすべきかと動きかけたところで大体猫パンチを喰らい、寝かしつけられます。

am6:30
起床いたします。
偏頭痛を防ぐため、身を起こす前にこめかみから耳周り、首筋までセルフマッサージを行ってから床を離れます。

整体師の友人に習ったものでございますが
日常的な偏頭痛や肩凝り、目の疲れなどにお悩みの方にはおすすめの習慣だそうでございます。
ぜひお試しくださいませ。

目覚めが悪いときはついでに腹筋運動をしてから起きます。
ドタバタうるさいのか、周囲でまだ猫が寝ている場合は、面倒そうにシャーと怒られます。

am6:35
目覚めにアーリーモーニングティーを淹れる…という習慣であれば、当家の使用人らしいのでしょうが
生憎と朝一番に冷蔵庫から取り出すのは、缶コーヒーと20年前から決まっております。

冷たい缶コーヒーを一気飲みし、乾いた喉を潤してから、皆で軽い朝食をいただきます。

…缶ビールじゃないのかって?
…それはお休みを頂いている日だけでございます。

am6:45
朝食はサラダとシリアルとトマトジュースです。
トマトジュースは私の主原料のひとつでございます。
サラダにはかなり凝っている方でございまして
菜のものや根菜、かなり変わった野菜やハーブまでいろいろと試しております。
ドレッシングにも一家言ございますので、機会があればそれも日誌に認めると致しましょう。

am7:00
朝食を終えたらお風呂をいただきます。
朝風呂派です。夜はいつもシャワーで済ませ、朝にしっかり入浴いたします。
長風呂です。いつも心配になるのか猫が様子を見に来ます。そしてお約束のようにお風呂に落ちます。

am8:30
タオルでよく拭いて乾燥タイムです。
このときついでに、朝の執務を片付ける癖がございます。
そのため、朝に処理を行った時任の書類は、インクに水滴の滲みが多く、諏訪野から苦情が届きます。

am9:30
乾きましたら、髪はとりあえず椿油で軽くまとめて
お屋敷までの散歩道を通り出勤いたします。
執務用以外の、いわゆる私服は「面倒なのでスーツ」と最近定めておりますが。そろそろ暑いので一考が必要かもしれません。

なお、日常的に指輪を二つ着用しておりますが。
実はお屋敷の職務において、毎日必ず行うべき勤めをうっかり忘れないための措置でございます。

その日常の大事な勤めを果たしたら指輪を外し、ポケットにしまうのでございます。

つまり、もしうっかり時任がサロンにて指輪などしておりましたら、大事なお仕事を何か忘れておりますので、大変恐縮ながらご指摘くださいませ。

こうして、モーニングコートに袖を通し、いつもの一日が始まる流れでございます。

見返してみると朝の習慣は、一日をしっかり過ごすためにも大切でございますね。

お嬢様もどうか、今日もよき朝を迎えておられますように。

敬愛せしお嬢様へ
ようやく春らしく暖かくなりましたね。
春の果実も数多く届きましたゆえ
パティシエたちがお嬢様にお届けするデザートの開発を張り切っております。

我々も負けじと、よき春の杯をお届けできるよう努めてまいります。

桜はご覧になられましたか?
今年はずいぶんと早く咲き、ひっそりと散っていきました。
花見の宴と言うのは難しい時勢でございますが
季節の雅を楽しまぬのも無粋かと思い
時任も時間が空きましたときにふらりと桜を眺めに出掛けることもございます。

毎年、夜空に白く光るような夜桜が好きで飽きもせず見ておりましたが、お昼の暖かな日差しの中の桜も良きものでございますね。

人気の少ない公園で、のんびりと桜を眺めながら、お茶をいただき休憩するのも良きものでございます。

暖かい日差しと濃いめのお茶は相性が宜しゅうございますね。心がなごみます。

これで柴漬でもあれば極上でございましたが、それは別邸に帰ったらにいたしましょう。

私事ながら。
毎年、お正月とお花見が友人たちと集まれる機会でございましたので。
人が集うのが厳しい昨今、なかなか友の顔を見ることも叶わぬままでございます。

まぁ。どれもこれも強かな友でございますから
さほどの心配も要りますまいが
各々の健勝を桜に祈るぐらいは、許してもらえる範疇でございましょう。

ひとときの休息を楽しみ、職務に戻ることといたします。
良き休憩となりましたし、張り切って勤めるといたしましょう。

あ、そうだ。

帰りに漬け物コーナーで柴漬を買って帰ろう。