橋のない河

空には鈍色が差し、しばらくぶりの雨模様でございますね。
ようやく寝覚めのよい季節がやってまいりました。

陳列窓に並ぶのは、外套を着た人台の列――早晩必要にはなり
ましょうが、まだまだ暑さの戻りに油断はできません。
しかし自然の理とは不思議なもので、野の花木はそれでもきちんと
暦を数え、時期を違わず主役の舞台へと上がってまいります。

お嬢様、いかがお過ごしでございますか。
伊織でございます。

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宇宙こま

何ごとも決めつけてかかるのは良いことではないと、学童の
時分に教わったことを思い出しました。
早くに教わる物事ほど肝要なこともございません。

しかし、今年の暑気のなんと頑ななことでしょう。
暑気を払えと、柳蔭のひとつもあおりたいものでございますが、
さすがにお嬢様にはお持ちするわけには参りませんか。
冷やし飴か酸梅湯でもお持ちいたしましょう。
ご機嫌いかがでございますか。
伊織でございます。

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緋毛氈 気取れど悔やむる 捨て扇

「本日は俳句の日でございます」

――人まねはいけませんね。気恥ずかしくてなりません。
本日8月19日は語呂合わせから、俳句の日と言われております。
大旦那様より、この日に際して句を詠んでみよと仰せつかり、
十句あまりを認めさせていただきました。

大変光栄なことに、ご覧いただきました中のひとつをお気に召して
いただけ、本日ご帰宅いただくお嬢様方にお贈りするようお申し付け
くださいました。
お恥ずかしゅうございますが、お楽しみいただけたなら幸いでございます。

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青いバラをたずさえて

燕帰すなどと申しましたら、季違いだろと笑われましょうか。
旅路の果てに、ようやくお屋敷へと帰り着くことができました。
これからは己の足を過信せず、すなおに車を呼ぶことといたします。

お嬢様方、大変お久しゅうございます。
伊織でございます。

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