お嬢様への手紙 ~ お屋敷への軌跡 その1

わが敬愛せしお嬢様。

ご機嫌麗しゅうございますか?時任でございます。

窓から見えるお庭も色づき、桜の季節を伝えております。
私が『お嬢様にふさわしき執事となる』ことを志し。
全てを捨てて身一つで、お屋敷の扉を叩いたのは、粉雪舞い飛ぶ冬の夜でございましたから。
早いもので。このお屋敷に仕えてより、一つの季節が変わろうとしております。

毎夜扉の前で嘆願する日々、お屋敷に踏み入ることを許されるまでに一月。
各務、大河内、小山内、朝比奈ら、敬うべき先輩たちに師事すること一月。
そして、大旦那様のお許しを頂き、燕尾を纏って給仕を許されてから、また一月。

これだけの教育と、先達たちの忠言と、
お嬢様がたからの寛容なる励ましを頂きながらも、
まだまだ思うようには、行き届いた給仕ができぬ我が身が不甲斐のうございます。
一日の最後の仕事として、深夜にテーブルを磨きながら、悔しさに身を震わせる夜もございますが。

いつかお嬢様に、心からのくつろぎと、安らぎをご用意できる執事となるべく。
日々の修練を怠らず、精進してまいります。

どうかお嬢様におかれましては。
季節の変わり目でも御座いますゆえ、くれぐれもお体にはお気をつけくださいませ。

お嬢様が日々、笑顔でお過ごし頂ける事を、時任は毎夜願っております。

…これだけでは堅苦しいばかりで詰まらないですね。

“お嬢様への手紙 ~ お屋敷への軌跡 その1” の続きを読む