お正月

 

「去年の夏の暑さが嘘のようにお正月の夜は冷え込むな」

染瀬清一(ぬりせしょういち)は、前を歩く二人の痴話喧嘩を聞きながら、ふとそう思った。

 

「おい!夜の神社が狙い目だなんて嘘じゃないか」

 

「ん?嘘?おいおい、何を言っているんだい明石くん。灯篭の明かりで照らされた境内の趣が分からないのかい?参拝客だって我々を合わせても10組ほどだ。年明け早々おしくらまんじゅうなんて嫌ではないか?」

 

「このあほっかすが!そんなことはどうでもいいのだ。最も大事なことは活気ある屋台でしょうが!」

 

「屋台?君はお子ちゃまか」

 

「なにー!」

 

先日の釣りの一件以来、度々廻令蔵(まわりれいぞう)が二人の元へ遊びに来ていた。そして明石太郎とは会うたびに、こんなやり取りを繰り返していた。

よくも毎度毎度争いの火種が落ちているなと、染瀬は思った。

 

だが、この痴話喧嘩が大喧嘩に発展することはなかった。むしろ最終的には肩を組んで仲良しこよしだ。

 

ちなみに染瀬はこれが始まるといつも黙って二人の争いを聞き、僕の考えはどちらに近いかなぁ、などと考える。なぜならば……

 

「おい、やめとけ、たろちゃん。ますます分が悪くなるぞ」

 

「うるさい!」

「おい、染瀬はどちらの意見に賛同するのだ!」

 

やはりこの展開になったか。

 

これもいつものことだ。

徐々に明石君が劣勢になっていき、声こそ荒げているものの、助けを乞う目つきで僕に意見を求めてくる。

 

しかし、残念ながら廻君の意見の方が僕の考え方に近い。今回もそうだ。

 

「う~ん、廻君に賛同するかな……」

 

「……」

 

「火を見るより明らかだったな」

 

「あきらめん」

 

「ん?何か言うた?」

 

「次は…」

 

「次は?」

 

「おみくじ勝負だ!」

 

 

別に勝敗をつけなくとも「みんな違ってみんな良い」でいいのでは?と、染瀬は思ったが、どうやら明石太郎は、どうしても廻令蔵をぎゃふんと言わせたいらしい。

 

 

 

「お!これじゃないか。明石君、おみくじあったよ」

 

「……」

明石太郎は返事もせずに通り過ぎていった。

 

「あれ、たろ先生?おみくじ勝負はやめたのですかい?」

 

「君らは先に引いてていいぞ。私は先にお参りをしてくるので」

 

「必死ですな」

 

「違うわ!まずは神様にお参りするのが礼儀だろうが」

 

「よく言うわい。昼間だったら屋台に直行するくせに」

 

「ぐぬぬ」

 

確かにそうだと染瀬清一も思った。

そして結局三人ともお参りを先にすることにした。

 

「さてさて、お賽銭箱にいくら入れるべきか。やはり5円か50円、いや奮発して500円という手もあるな……。染瀬はいくらにするのだ?」

 

「僕は5円かな。毎年そうだし」

 

「ふむ。じゃあ50円か500円だな」

明石太郎は染瀬清一にもおみくじ勝負で勝ちたいらしい。

 

「れい坊。貴様はいくらだ!」

 

「私は44円にしようと思う」

 

「は?気でも触れたか!?」

 

「いや。ただ、このお賽銭というものの効力が実際どれほどのものか気になってな」

 

「罰当たりすぎるだろ」

 

「そうだよ。それに試すにしてもわざわざ悪い方に合わせなくてもいいじゃないか」

染瀬清一もこれに関しては明石太郎に同意した。

 

「いやいやこれでいいのさ。人間誰しも良い方向には努力するだろ?悪い方向に努力することは中々ない。つまり、55円だの777円など入れて、その結果良いことが起きても、それが神様のおかげなのか自分の努力の賜物なのかが分かりずらいのだ。だから敢えて44円を入れるのだ」

 

「廻君はやはり変わった人だ」

 

「染瀬よ、まあいいじゃないか。自ら敗北の道へと進んでいるのだから」

明石太郎は嬉しそうだった。

 

「よし!決めた。私は50円にしよう」

 

そして各々決めた金額で参拝をし、ついにおみくじ勝負のときが来たのであった。

 

 

 

ついにこのときが来た。

最近はあの似非知識人のせいでさんざん辛酸をなめさせられ、毎回毎回敗北を味わっていた。が、それもここまで。奴はなにを血迷ったのか44円という縁起の悪い金額を納め、今最もついてない男へと変貌した。こんな奴におみくじ勝負で負けるはずがない!

今こそ廻令蔵、そしておまけの染瀬清一に正義の鉄槌を!

 

 

「へー、色々なおみくじがあるんだね。見てごらん明石君。恋愛運専用のおみくじなんてものもあるよ」

 

染瀬の言うとおり、恋愛や健康などそれぞれの運を占うものや、動物や傘型の可愛らしいものなど、そこには多種多様なおみくじが置いてあった。

しかし、ここでそれらのおみくじを引くのは愚の骨頂である。

なぜならば、そういったおみくじは往々にして良いことしか書いていない可能性があるからだ。運に差をつけている今、それを引くのは得策ではない。

 

「おい染瀬。そんなナンパなおみくじではなく、この従来からあるおみくじで勝負するぞ!」

 

「動物おみくじも気になるけど、まあそっちにしようか」

 

「れい坊もよいな!」

 

「私はどれでも構わんぞ」

 

「よし!(ばかめ!これで貴様らの勝率は0%となったのだ!)」

「ではさっそく」

 

「スッ」

「スッ」

「シュバッ!!」

 

(くっくっく。楽しみ楽しみ!)

「よし、れい坊。貴様から開けてみろ」

 

「私か?」

「どれどれ……………う~む」

 

(ひひひ。難しい顔をしとるぞ。これはてんで話にならんな!)

「どうよどうよ。見せてみい」

 

「ほれ」

 

〈吉〉

 

「はっはっは!やはり大したことない!吉?上から4~5番目くらいか?」

 

「ん?なにを言っているのだ?吉は上から二つ目だぞ」

 

「へ?」

 

「地域にもよるが、基本的には大吉の次に位置している」

 

「じゃ、じゃあなぜ、難しい顔をしていたのだ!?」

 

「いや~、去年より1ランク下がってしまったのでな」

 

「……」

上から2番目だと、ふざけるな!これでは大吉を引かなければ負けてしまうではないか!

こんなばかなことが………

 

「やったーー!!」

 

こ、今度はなんだ!?

 

「おお!染瀬君やったな、大吉ではないか!」

 

(なにーー!?このもやし男が大吉?お前が似合うのは末吉だろうが!)

(くそっ!とにかく大吉だ!大吉なら負けはない!たのむっ!神よ!)

 

〈凶〉

 

「ぴぎゃああああああ!!!」

 

「すごいよ明石君。僕の大吉より珍しいよ!」

 

「どうせ”ばかめ!これで貴様らの勝率は0%となったのだ!”とか、考えていたのだろ」

 

「う、ぐっ……」

 

 

どこでどう間違ったのか。

私の努力の結晶は一体どこに消えてしまったのか。

いやそもそもこれは努力だったのか?

2人とも不思議がっていたことだろう、50円入れただけで勝った気になっていた私の姿に。

 

「明石太郎よ見てみい、君のおみくじの”争い事”の欄を」

 

〈争い事 ~争いごとまけなり~(勝負に負けるので争わないようにしましょう)〉

 

「やかましいわ!!」

 

 

 

おまけ1

 

お嬢様、あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

 

取り敢えず一月のブログを無事掲載でき、ひとまず安心でございます。

今年こそは、ひと月一本のペースを目標に頑張る次第でございます!(多分!)

 

 

おまけ2

 

私は、今年も楽しみなことが多くございます。

 

気になる映画が数本上映される予定だったり、一番好きな小説家の新刊が発売されたりと様々ございます。

また、サッカー観戦も現在進行形で開催されているアジアカップを始め、注目の試合がいくつもございます。

 

お嬢様も機会がございましたら、是非日本代表を応援してくださいませ!

 

 

おまけ3

 

私が今年、実際に引いたおみくじでございます。

 

 

明石太郎ほどではございませんが、なんとも微妙な結果でございます。

 

 

終わり。

変身4

 

 

「おい、起きろ。起きんか、明石太郎よ」

 

 

 

「ん、んー……」

私は聞き覚えのある”ふわふわもこもこ”の声で目が覚めた。

「私は一体………ん?」

周りを見渡すと辺りは真っ白な空間に包まれていた。

「どこだここは!?」

 

「確か……猫になって、はしゃいで……それから……痛っ」

ふいに頭の上部に痛みが走った。

「あ、そうだ!大家に吹き飛ばされてブロック塀にぶつかったんだ!そして気絶して……ま、まさか私はそのまま天国へと…」

 

「阿呆か!そのくらいで、おっちぬものか」

不意に後ろの方から声がした。

 

「誰だ!?」

振り向くと、この空間よりもさらに真っ白なふわふわもこもこの毛玉が鎮座していた。そして、もそもそと動きながらこちらに近づいてきた。

「な、なんだあれは……」

 

「もう吾輩を忘れたのか。今朝、夢の中であったばかりであろう」

そう言うと、不意にその毛玉がぶるぶると震えだした。そして「モフン!」と、勢いよく猫の頭と手足が飛び出した。

 

「どうだ?この顔を見ても思い出さんか?」

 

「……」

私はとても印象的なその光景を見てもその猫が一体何者か思い出せなかったが、その声だけは聞き覚えがあった。

「あんたは一体誰なんだ!?それにこの空間は……。と、というか私は猫と普通に会話しているのか!?」

 

「ふむふむ、どうやらまた一から話さないといけないようだのう」

するとその毛玉はゆっくりと香箱座りをし、厳かな雰囲気でしゃべり始めた。

 

「まず、吾輩は神様じゃ」

 

「……へ?神様?」

 

「さよう。まあ神と言っても、死神だがのう。そしてこの空間だが、実は貴君の本体はまだ気絶しておるのだ。この空間は精神世界。夢の中と似ておる世界だ」

さすがの私も面を食らわざるを得なかった。そして目の前の死神は続けて話し始めた。

 

「貴君は今、猫だ。猫が猫と会話するのは当たり前だ」

………確かにその通りだ。

 

「しかし、まさか死神が猫の姿をしていたとは……」

 

「意外か?」

 

「あ、ああ。想像では髑髏の仮面に大きな鎌を持っている姿だったから…」

 

「まあそういう死神もおる」

 

「え!?」

 

「死神といえど千差万別。見た目も違ければ、人間に与える罰も違うのだ。ただ一つ、愚かな人間に対して裁きを下すということ以外はな」

 

「愚かな人間?」

 

「そうだ。つまり人を殺めてしまった人間だ」

 

そしてこの死神は、人類が未だ到達していない領域。

‟(人を殺めてしまった者の)死後の世界”について話し始めた。

 

 

………なるほど

どうやら私はとんでもない話を聞いてしまったようだ。

 

つまりこの世界には本物の死神がいて、殺人を犯したものをあの手この手で地獄のような場所へ連れていったり、罰を与えたりする。まったくもって非現実的な話だ。だが、こんなヘンテコな空間で話をしているという事実からも間違いなくこれは真実なのだ。

 

しかし、そうなると自ずと疑問点が一つ浮かび上がるのがお分かりだろうか?

 

この猫型の死神は愚かな人間を猫の姿に変える罰を与えるらしい。まあそれはかまわない。そんなメルヘンな死神がいるのも悪くない。

 

だが、なぜ私が選ばれたのだ。当たり前だが私は断固として殺人など犯してはいない!

 

「おいっ。なぜ私が猫の姿にならなければならないのだ!」

 

「ふむ、やっと気づいたか明石太郎よ。そこが本題だ」

 

「なに!」

 

「まず貴君が猫になったわけ。それはな……」

 

「そ、それは……?」

 

 

「吾輩のミスだ」

 

 

「なにーーー!」

このとき、もし私が猫の姿でなければ、目の前の毛玉がいかに死神といえど、毛を全てむしり取っていたことだろう。

 

「ふざけるな、どうしてくれるのだ!」

 

「まあまて。吾輩の力を持ってすれば、元に戻すことなど造作もない!だが……。少しばかり時間が必要なのだ」

 

「時間?」

 

「そうだ。変身後24時間は元に戻すことができない。つまり明日の明け方にならなければ人間の姿には戻れないのだ」

 

「なに!?」

 

「そしていいか、ここからが重要だ。もし、それまでに貴君が死んでしまったら元には戻れず、猫の姿のままあの世行きだ」

 

終。

 

 

追記

 

今回もご覧いただきありがとうございます。ついに変身の続きが掲載されました!しかし、「変身3」からどのくらい経ったのでしょうか?恐ろしくて前回の日付が見れません。

そしてこのペースで書き続けたら一体何年後に終わるのでしょうか……

とにかく、期待してくださるお嬢様に喜んでいただけるよう頑張る次第でございます!!

 

 

おまけ1

 

2023年も、あと僅かでございます。

 

思い返すと今年も素敵な一年でございました。

「白イルカのクッキー」や「Paper Moon」をお手に取ってくださったり、とある10周年記念や、とある3歳児誕生のお祝いをしてくださったりと、お嬢様には感謝してもしきれないかと存じます。

 

来年もお嬢様が楽しんでいただけるよう邁進する所存でございます。

 

それではお嬢様、良いお年をお迎えくださいませ!

 

 

おまけ2

 

「良いお年をお迎えくださいませ!」と、元気よく挨拶させていただいたのですが、一つ思い出したことがございましたので、少々書かせていただきます。

 

ご存じのお嬢様もいらっしゃるかもしれませんが、先日とある使用人達と釣りに行ってまいりました。

 

お屋敷の使用人と釣りへ行くのが初めてだったということもあり、普段とは違う楽しさもございました。

 

今回はどちらかというとサポートに回っていたのですが、あれだけ真剣に楽しく釣りをしていただけるなら、永遠と補助に徹していてもいいと思えるほどでございました。

 

また、メンバーの一人は釣りの経験が私よりも遥かに豊富で、学ぶところが多くございました。今回学んだことは次の釣りにて生かす次第でございます。

 

また、いずれ彼らと足を運びとうございます。

そして次こそはDVD化し、お嬢様にも楽しんでいただけたらなあと存じます。

 

 

終わり。

10周年を迎えることができました!

 

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。

的場でございます。

 

ギフトショップは本日で10周年を迎えるはこびとなりました。

私がギフトショップでお仕えを始めたのはもう7年半も前のこととなります。

長い時をギフトショップで過ごしてまいりましたので、様々な出来事がございました。

 

私が参りましたばかりの頃は、あまり上手に周りの使用人に頼ることができずに

一人で何でも頑張ろうとしてしまい失敗することが度々ございました。

ギフトショップのメートル・ドゥ・ヴァンドゥールとして張り切り過ぎたところもあったのでしょう。

おかげで体力はつきましたが、やはり一人でできることには限界がございます。

 

少し落ち着いて、現在のギフトショップのことを思ってみます。

 

センスの部分は桐島と才木が担当してくれております。

フォトブックなどのお品物の形や雰囲気を作るだけでなく、撮影全体のテーマを次々と生み出してくれております。

今回10周年に合わせて朗読を企画してくれたのは才木で、他のメンバーも快く参加してくれました。おかげで楽しい雰囲気の撮影になりました。それが本当かどうかはCDをお聴きになっていただければ一目瞭然でございます!

 

また、朗読に合わせて伊織が紅茶をブレンドしてくれました。

様々なフレーバーティーやハーブをブレンドして、ギフトショップのヴァンドゥールたちのような賑やかな紅茶に仕上がっております。

 

この度の10周年を迎えるにあたってはまずは能見が記念のワインを選んでくれました。

「おめでとう」の気持ちと、虹がデザインされたギフトショップの明るい未来を示したワインをチョイスしてくれました。

 

明石は何かしているのか?でございますか?

彼は最も日々のギフトショップを支えてくれている使用人と言っても過言ではありません。

その柔和な空気感でお嬢様は勿論のこと、周囲の使用人の心をも柔らかくする使用人なのです。

私が急な執務でギフトショップを任せる時も嫌な顔ひとつせず頑張ってくれる、頼れる使用人なのです。

 

今、私の周りには心強い仲間がたくさんおります。

ここで名前が出なかった使用人にも助けていただくことはたくさんございます。

 

最後に「みんな大好き全員集合ステッカー」のお話をしたいと存じます。

こちらは「別宅でも使用人みんなの顔が見たい!」「また藤堂執事に会いたい!」というお声を形にしたお品物でございます。

お嬢様に支えられて、私は今ここにおります。

お嬢様が、今のギフトショップを形作ってくださいました。

 

大旦那様も巻き込んで、お屋敷全員で11年目も楽しく新しいことにチャレンジしていければと存じます。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

もう富士登山から2ヶ月近く経つのですね。

と、いうことでございます。

ご機嫌麗しゅうございます。的場でございます。

すっかり思い出になってしまう前に、前回からの続きを記してゆきます。

遅くなってしまった分、お写真をたくさん載せてゆきます。

【山小屋から9合目を経て】

今度は能見だけでなく影山も一緒にペースを合わせて登りました。

深夜なので周りの方との距離も配慮しつつ、ゆっくりと登らなければなりません。

相変わらず勾配はきついですが、ペース次第で心拍数の乱れが全然違いました。

空に星、眼下には街の灯りが輝いております。

息を切らしながらではございますが、景色を楽しみながら登りました。

ヘッドライトの光を頼りに登っていきます。

私は去年ヘッドライトなしで真っ暗な中下山いたしましたので、今回こそは!と準備いたしました。

富士山は道は整備されておりますが、当然ながら街灯がないので真っ暗なのです。

考えれば当たり前のことなのですが、街灯に囲まれて生活を送っていると、意外と見落としがちなポイントかもしれませんね。

 

そうして時に手探りで登ってゆくうち、狛犬に迎えられ、遂に山頂に至りました!

 

5合目から山小屋までは2時間半でしたが、山小屋から山頂まではゆっくり2時間ほどかけて登頂いたしました!

 

【山頂にて】

さて、ここからは今回の目玉である「ご来光」を待ちます。

「ご来光」とは、富士山から拝見する日の出のことでございます。

現在午前3時。

ご来光までは2時間と少し。

ベストポジションに陣取り「2時間頑張るぞ!」という強い意志のもと、我々はしりとりを始めました。

 

午前3時半頃。

 

…寒い!寒すぎる!

 

耐え難い寒さにしりとりのワードも出て来なくなってしまいました。

お互いに声をかけ強がり合うも手足の先から感覚がなくなってまいります。

 

「ご来光の時間に合わせて山頂を目指せばよかったのか…?」

 

という考えも頭の中を巡りました。

しかしここは難しいところで、時間を遅らせることで山道の渋滞に巻き込まれ、途中でタイムアウトしてしまうこともあるそうなのです。

我々はそこも加味して「まあ寒さを我慢すればいいか」という結論を選択したのでした。

 

しかし山頂は0℃。

さすがの使用人たちも限界を迎えつつありました。

すると!

背後がにわかに騒がしくなってきたではありませんか。

ご来光に合わせて山頂の山小屋がオープンしたのでありました!

我々はベストポジションをあっさりと捨て、山小屋に駆け込みました。

 

暖かい…っ!

 

この頃まだ平時の気温は30℃。

毎日暑い暑いと言っておりましたのに、人は現金なものでございますね。

今は温かいものが恋しくて仕方がありません。

暖をとろうと山小屋内のお品書きを見渡しました。

 

缶コーヒー 500円

味噌汁 700円

 

…た、高い…!

…と思われるかもしれません。

どちらも何の変哲もない普通のものでございます。

ただしここは標高3776メートル。

ここまで物資を運び、温めることは並々ならぬ努力が必要なのでございます。

それを思えば相応の値段だと言えます。

 

私はコーヒーをオーダーいたしました。

熱!熱い!

とても素手で持てたものではございません。

焼石ぐらいに温まっているではないですか!

しかしそれが良いのです。

まずは缶を開けずにカイロのように体を温めます。

極寒の痺れが癒されてまいりました。

暖をとった我々は後続の方に席を譲りつつ、再びご来光を待ちます。

 

ひたすら耐えて1時間。

 

遂に

!!

 

…素晴らしい!

「絵にも描けない美しさ」とは浦島太郎の竜宮城のお話ですが、こちらも写真には写しきれない美しい光景でございます!

 

雲間からうっすらとしたご来光ではございましたが、我々の上空にも雲が。

更に足元にも雲が広がっております。

これはこれでこの日しか見られない光景なのでしょう。

足元の雲海は歩けそうなぐらいハッキリと、ふわふわ漂っておりました。

 

【下山】

「いやぁ、立派なご来光だったなあ」という感慨に耽りながら下山を始めてまいります。

前回は夜に下山したので真っ暗でしたが、今回は日が出たばかりなので周りは明るく、景色を眺めながら下山いたします。

 

登山に比べ見せ場がないのですが、お嬢様がもしも今後富士山に登ることがあったら…と考えて記録しておきます。

下山する時に注意するべきポイントはまず膝を痛めないように労りながら歩くこと!

下山ルートは緩やかですが、油断するとケガにつながってしまいます。

また、メンタル面の心の準備としては「緩やかな分登山時よりも時間がかかる」という点でございます。

登山の時と同じ時間感覚でいると「まだここなのか!」という心の折れに繋がります。

「登頂するぞ!」という目標を失っている分余計に心が折れるのです。

景色を楽しみながら、仲間と会話をしながら、音楽を聴きながら。

心の余裕を保つことが肝要でございます。

番外編としては、我々が使った「吉田ルート」に限り「ちゃんと下山ルートを使うこと」でございます。

あまり詳しくない方が「登山ルート」から下山することがあるそうです。

急勾配なので危ない!

正しいルートで下山いたしましょう。

 

【再び5合目】

無事下山いたしました!

下山には4時間ほどかかったでしょうか。

あまり眠れてもいないので疲れました!

 

麓の温泉に向かい、疲れを取った後に無事にお屋敷まで戻ってまいりました。

しっかり者の影山に起こされなければ、私と能見が温泉に浸かって眠ったまま執務に戻れなかったかもしれないことは、大旦那様には内緒でございます。

 

長々と書いてまいりましたが、2023年の記録として残すことができれば、との思いで記してまいりました。

お付き合いいただきありがとうございます。

もうしばらくは富士山は結構です。

非常に疲れますので!

 

おや?登ってみたい使用人がまだいるのですか?

 

…う~ん。

 

本日はこれにて。

 

釣り 明石太郎編2

「この暑さは一体どういうことだ!」

今年は太陽が無駄にやる気を出したのか、6月中旬だというのに気温が30℃を超え、降り注ぐ日差しにも一切妥協が見て取れなかった。

さらにこの暑さは10月下旬まで続くという……ふざけるのも大概にせい!

 

そしてこの日はもう一つ私の体感気温を助長する”事柄”……いや、”人物”の存在があった。

 

「しかしなぜ”あいつ”はあんな格好で釣りをしているのだ」

 

今回釣りをしに来ている場所は家族連れにも人気の真っ直ぐと伸びた防波堤であったが、この日は”我々”以外の釣り人がほとんどいなかったため、30メートルほど右側に鎮座して釣りをしているウエスタンルック姿の男の存在が嫌でも目に入った。しかも昔ながらのカントリースタイルだ。

 

「おい、れい坊」

私はその男に近づきながら声をかけた。

「調子はどうよ?」

 

「ん?」

その男はちらとこちらに視線を向け、またすぐウキに目をやった。

そしてニヤリと笑みを浮かべ口を開いた。

 

「太郎君。釣りは待つことが肝心だよ」

 

「むっ」

恐らくこの男は質問に答えているのではなく、私の悲惨な釣果について話しているのだろう。こいつはこういうところがある。

 

「そういう君……」

 

「まあ、しいて言えば上の下の中と言ったところかなぁ」

今度はわざと私の話にかぶせるように口を開いた。

 

(こいつ…)

「ふーん…そのわりにはあまり釣れているようには見えなかったが?」

彼の隣に置いてあるクーラーボックスからも魚の気配がしなかった。

 

「そうかい?」

 

「じゃあ、箱を開けてみんしゃい!」

 

「んー、まだそのタイミングではないかな~」

 

(やっぱり釣れていないな)

 

「太郎ちゃんの調子はどうだい?」

 

「釣れていないのは君も知っているだろう!」

 

「いやいやそっちではなくて、五月病の方さ」

 

「ああー」

私は少し不意を突かれた。

 

「気分転換にはなるが、この暑さでは治っても今度は日射病に罹りそうだよ。君はその格好でよく平気だね」

 

「私は影響されやすいタイプだからね」

 

(答えになっていない気がするが……)

久しぶりに彼に会ったが、やはり”廻令蔵(まわり れいぞう)”は少しずれている。

 

 

廻令蔵……染瀬清一と同じく小学生時代に知り合った友人だ。

彼は昔から様々な作品や人物に影響を受けていた。登校時にはランドセルの代わりに薪を背負い、下校時にはエルヴィス・コステロのような足取りをし、青春ドラマが放送された次の日には必ず授業をさぼって屋上に足を運んでいた。

また、定期的に彼の中の流行が変わるため、次第にクラスメイトからは「次はどんな阿呆な姿が見れるのかな!?」と、面白がられていた。

だが彼は周りの目など気にせず我が道をずむずむと進み続けた。

「中々骨のある男だ」と、小学生ながら思ったものである。

 

そんな彼も今ではきっちり定職についているという。それだけでも過去を知る者からすると驚くべきことだが、染瀬が言うにはどうやら”人に何かを教える仕事”をしているらしい。さらに受講者からは中々評判が良いときたもんだからよく分からないものだ。

こういった変人が意外とカリスマ性を持っているのかもしれない。

 

 

「しかし太郎殿、五月病を甘く見てはいけないよ」

廻令蔵は釣り竿を傍らに置き、話し始めた。

「太郎氏は中華料理屋の厨房といったらどういった想像をするかね?」

 

「……は?」

一体何を言いたいのか皆目見当つかなかった。

「いやまあ、バタバタと忙しそうなイメージが浮かぶが……」

 

「ふむふむ」

「では、例えばペンギンが経営している中華料理屋があるとしよう」

 

「……」

(取り敢えず考えて聞くのをやめよう)

 

「まあ考えなくてもよいが、想像は続けてくれ!」

 

(なんだこいつ!)

 

「では話を戻すが、ペンギンが経営しているのだからシェフやウェイターもペンギンのはずだな?」

 

「……ま、まあそうなのかな?」

 

「そして中華料理屋は忙しいのだから、きっとそのペンギンたちは”忙しい忙しい”と、慌ただしく駆け回っているはずだ」

 

(それは少し可愛いかもしれない)

 

「そう、それだ!その”可愛い”というイメージが大切なのだ」

 

「いやだから、心を読むな!」

 

「いやいや心を読んだのではない。太郎丸の微妙な表情を読み取ったのだ」

「ほんのりニコリと良い表情をしていたぞ」

 

「……」

「そりゃまあ可愛いものをイメージすれば少しはにやけるさ」

 

「しかしだ、考えてみるとそれは不思議なことではないかい?」

 

「と言うと?」

 

「実際に明石殿に何か良いことがあったわけではないだろう?」

「宝くじが当たったわけでも、素敵な恋人ができたわけでもない。ただ可愛いペンギンを想像しただけで笑みがこぼれ幸せな気持ちになった」

 

「まあたしかに……」

 

「そして太郎君が罹った五月病だ!」

「五月病は軽く見られがちなところがあるが、その実不安感や焦燥感、または無気力といった症状があり、またそれらから引き起こされる食欲不振や吐き気、めまいといった…………」

 

なるほど。

話の構成が滅茶苦茶で分かりずらかったが、つまり彼は〈病は気から〉と、言いたいのだろう。気持ちや考え方次第で良い気分にも悪い気分にもなれると。

 

「と、五月病は侮れないところがあるが、たろっちなら乗り越えられるさ!」

 

「そうだな!」

私は少し気が楽になっていた。ただ今の話を聞いてと言うよりも、呼称も統一しない彼と話していて、気を落としているのがなんだか馬鹿らしく思えたからである。

 

「では太郎さん、少し遅めのお昼休憩としよう!」

「お菓子もたくさん持ってきたからな!」

 

 

既に日は傾き、再開してから2時間が経とうとしていた。

 

 

昼食休憩を終えて彼から釣りのコツを聞いているうちに、私の中の彼の評価が変わり始めていた。確かにこの男は物を教えるのが上手なのかもしれない。

面倒な話し方も、こちらがある程度の理解力さえあれば実はそんなに難しいことでもなく、むしろ普段の会話よりも考えて聞かなければならないため、より言葉が整理されて頭に残る。

現に教わってから釣果が飛躍的に伸びているのだ。

 

ただ……。だからこそ気がかりなことが一つあった。

 

奴の魚を釣り上げた姿を一度も見ていない!

 

廻令蔵が掲げる魚へのアプローチは非の打ち所がなく、釣り竿の扱いも惚れ惚れする腕前だ。そんな彼が一匹も魚を釣っていないことはどう考えてもおかしい。

私は、今は30メートル離れたところで釣りをしている彼を今一度観察してみた。

 

ふむ、餌はしっかり付けているようだ。そして何度もデモンストレーションで見せてくれた完成された釣り竿の動き。しっかり海中に餌が沈んでいく。ここまでは特に不審な行動はない。

 

そして竿を投げてから30秒ほど経ったとき、ピクピクとウキに動きがあった。

(ん!?ついにきたか?)

その瞬間、彼はこれまた完成された動きで釣り竿を振り上げた。が、しかし、そこに魚は掛かっておらず、針だけが宙に浮いていた。

その後何度も彼を観察していたが、魚が釣れることはなかった。

 

もしかしてわざと釣らないようにしているのではないか?

そんなことが可能なのか分からないが、餌だけを魚に食いつかせ針に掛からないようにしている……とか?

しかし一体何のために?

 

そうなると気になってくるのは、彼の隣に置いてあるクーラーボックスである。

どうせ彼に聞いても、のらりくらりとかわされるのがオチだ。

やはり隙を見て直接開けるしかない。

 

すると、そんな私の考えを察したのか彼が突然立ち上がりどこかへ歩き始めた。

「お、おい、れい坊どこへ行くのだ?」

 

「ん?ちと厠へ」

「すぐ戻ってくる」

彼がそう返事をしたとき、ちらとクーラーボックスに目をやった気がした。

 

まさか、気づいたか……

いや、だとしても。むしろ上等よ!

私は彼が少し離れたトイレに入ったのを見計らい、素早く彼のクーラーボックスに近づいた。

 

「よ、よし。落ち着け私よ」そう自分に言い聞かせ私は彼のクーラーボックスをパカリと開けて、中を覗いた。

 

するとそこには魚の代わりに一匹のペンギンの人形が横たわっていた。

「なんだこれは!」

ん!?その横に何か書いてある

 

{はっはっは!見ると思ったぞ}

 

ご丁寧なことに、吹き出しの形に切り取られた折り紙にそう書かれ、ペンギンがあたかもしゃべっているように張られていた。

 

なんだこの男は!

私は彼と真面目に接することにまた阿保らしさを覚えた。

 

と言うか、彼は今日一日釣りをするフリをして、ずっとクーラーボックスの中にこれを仕込んでおいたのか?もっともらしい含蓄を話しているときも……

この折り紙の吹き出しだって昨夜せっせと作っていたのだろう。

阿保らしさを通り越してむしろ彼が可愛く思えてきた。

 

数分後、彼が戻ってきた。

 

「たろっぺよ、そろそろ日も暮れそうだし、帰るとするか」

いつもと同じテンションで彼はそう口にした。

 

(……触れてこないな。いや、この男のことだ間違いなく開けたことに気づいている)

「私は構わないが、君は一匹も釣れていないのではないか?」

 

「何をおっしゃる。大物を釣り上げただろう」

 

「いやいや、何を言って……」

「!!」

(まさか、彼が釣ろうとした”もの”って……)

 

「はっはっは!やはり釣りは面白いな!」

 

(ぐぬぬ!)

一瞬、とても腹が立ったが、すぐに彼のせっせと吹き出しを作っている姿が脳裏をよぎり、私は彼を許してやることにした。

「まあ私も今日は楽しかったよ。また誘ってくれ」

 

我々は後片付けをし、帰りの準備を始めた。

私が釣った魚は、大きめの魚を数匹だけ持って帰ることにした。

(今回企画してくれた染瀬にも魚料理を振る舞ってやらなきゃだな)

 

 

かくして、長い一日は終わりを迎えた。

暑さや隣にいた変人に苦労したところもあったが、終わってみれば意外と充実した一日だった気がする。

きっと今の私の表情からは、晴れ晴れとした気持ちが読み取れることだろう。

 

もちろん五月病が完治していたことは言うまでもない。

 

後編完

 

 

おまけ1(感謝)

 

お嬢様、最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

 

無事〈釣り 明石太郎編〉シリーズを完結することができ、心からほっとしております。

 

 

おまけ2(謝罪)

 

〈釣り 明石太郎編1〉のおまけ2で「しかし、そこはご安心あれ!」と、胸を叩きながら宣言したにもかかわらず、楽しみにしてくださったお嬢様を3ヶ月以上待たせてしまい、誠に申し訳ございませんでした!

 

そこでお詫びのお品として、私が8月に釣り上げた可愛らしいお魚の写真を献上させていただきます。

 

 

おまけ3(お詫びのお品)

 

 

名前…ハコフグ

 

特徴…硬い骨格で箱のような形をしている。

 

注意…体表に毒がある。釣り上げたハコフグを斜面に置くと、ごろごろと転がって海に逃げてしまうため注意が必要。

 

雑学…とある大学客員教授が愛用している帽子のお魚は、ハコフグである。

 

 

おまけ4

 

今度、久方ぶりに海へ足を運べそうでワクワクしております。

よきお魚と出会えたら、またお嬢様にお写真を献上いたします!

 

 

終わり。

実は一カ月前に富士山に行ってまいりました。

 

ご機嫌麗しゅうございます。的場でございます。

 

もう1カ月前になりますが、能見と影山の3人で富士山にアタックしてまいりました!

あんなに誓ったのに!

去年辛かったからしばらく登らないと決めたのに!

喉元過ぎれば熱さを忘れ、私はやすやすと彼らの誘いに乗ってしまいました。

 

‐————

 

まずは朝、山小屋にて目覚めの瞬間から。

 

ジリリリリリリリリ!

 

「お、朝か…今日は集合が早いから…」

「…」

「な、なにー!もうこんな時間だとお!」

 

そう、私はスタートから寝坊してしまったのでございます。

急いで集合地点に向かった私。

遅れて集合した私達は、馬車で富士山の5合目まで赴いたのでありました。

 

————–

 

何とか予定通り無事に5合目に到着した私達。

どんよりした雲に小雨が降っておりました。

…おのれ能見め…!

隣で初めての富士山にテンションの上がっている雨男に若干の怒りを感じつつ、富士登山を開始いたします。

もちろん私は寝坊してしまいましたので、そのモヤモヤを能見にぶつけることはできません。

いざ、スタートでございます。

 

 

【5合目から】

写真だといささかわかりづらい部分がございますが、雲や霧の動きがとても早く、急接近する霧が視界を狭めてまいります。

数メートル先が見えなくなって危ない!

…とまではなりませんでしたが、これもまた標高の高い山でしか見られない現象でございました。

 

既に5合目を越えておりますので、眼下には下界の景色が広がっております!

 

 

…がしかし何も見えません。

全てが雲の向こう側でございます。

しかし遮るものがない分視界が広い!

去年も申し上げたかもしれませんが、これは幾ら写真でお伝えしようとしても伝わらないパノラマビューなのでございます。

 

影山はマイペースで登るとのことで、5合目スタート地点から別れて登りました。

 

能見と私は影山よりも早いペースで登ります。

私の日々のトレーニングの成果を発揮する時!

 

「序盤は楽々いけるぞ!」

 

と思いたかったのは富士山だけに山々ですが、5.3合目ほどでもう疲れが始まってまいりました。

しかし一度は富士登山を経験した身の上。

登山は事前準備や体力も大事ですが「気力」が一番必要なのです!

ルートは去年と同じ吉田ルートだったので、6合目までは思ったよりも早く到着できました。

 

【6合目から】

ここからは急にハイキングコースから登山!といった形で富士山が急に表情を変えてまいります。

勾配の変化が我々の心を折りにかかってまいります。

 

とは言え悪い事ばかりではございません。

 

山の天気は非常に変わりやすいのです。

眼下に広がる景色はまだ快晴とはいかないまでも、晴れ間が見えてまいりました。

上下に雲がかかっておりますので、上の晴れ間には青空が。

下の晴れ間には一部だけ街の顔が覗いておりました。

同時にお伝えするのは難しいのですが、記録は残してまいります。

 

 

【7合目から】

もはや能見との世間話の余裕は完全になくなってまいりました。

助け合いでもありますが、ここからは自分との戦いでございます。

折れるな心!持ちこたえてくれ体!

…という事でございます。

 

しかして普段、ここまで日々の執務の事を忘れて自身との対話をする機会があるでしょうか?

お屋敷を遠く離れた場所に身を置き、日常のオフィシャルを忘れる事で「自分は果たして山を制することができるのか!?」という挑戦に集中する事ができるのです。

 

1年に何回も富士登山にアタックなさる方がいらっしゃるそうですが、そういった方々はそんな気持ちで登っているのかな?

と去年よりは登山者の気持ちに近づいたのかな?

と思う的場でございました。

 

 

【8合目から】

ここからは岩場を登ってゆきます。

時には手を使って登らなければならないところもございます。い

去年も思いましたが急勾配過ぎるだろう!

 

 

しかし道ゆく高齢の方も海外の方もストック(杖)を使って器用に登っておられます。

逆に邪魔になるような気がするのだが…。

ここまで登ってこられるからには並みの腕ではないという事なのでしょうか。

我々は素手で登ってゆきます。

 

小雨が本降りに変わってまいりました。

大分厳しいコンディションになってまいりました。

でも我々は大丈夫なのです。

何故なら既に汗だくの状態なのだから!

もうどちらで濡れているのかはわからないので「ここまで濡れたらどうでもいい!」の境地なのです。

 

【山小屋にて】

去年は一日で登山から下山まで行ったのですが、今年は能見が山小屋を手配してくれたのです。

ゴールが山頂より近い分、気持ちは楽ではありました。

険しい登山道を経て、無事に辿り着きました!

 

雨が続いております。

後続の影山が心配でございます。

安全を鑑みてゆっくり登ろうと決めたのに、あわや我々よりも長時間雨に打たれてしまうとは…。

哀れ影山…安らかに眠れ…。

 

と思ったその時。

 

「やったー!着いたー!」

 

と声が聞こえてまいりました。

影山到着!

ゆっくり登ってきたが故に、影山は我々よりもずぶ濡れの状態でございました。

可哀想…。

 

その後濡れた衣類を乾かしながら、山小屋で軽い夕食をとり、消灯時間を迎えます。

その時刻何と20時!

普段そんな時間に就寝する事はございません。

山岡お勧めのジャック・ダニエルを寝酒にして床に着くといたしましょう。

 

 

アルコールの力は偉大でございます。

すぐに眠りに就くことができました。

 

…。

 

……。

 

すぐに目が覚めてしまった…。

アルコールよりも不慣れが勝ってしまい、1時間ほどで目覚めてしまいました。

「目を閉じて横になるだけでも疲れは取れる」という方もいらっしゃるようですが、ずっと同じ姿勢で眠れないのも疲れてしまいます。

私は外の空気を吸いに小屋の外に出てみました。

 

すると!

あんなに降っていた雨はすっかり上がり、満点の星空がそこにはございました。

お嬢様もなかなか山の夜を経験なさる機会はないでしょうから、記録に残しておきます。

 

 

…あんまり写っておりませんね。

本来はもっとたくさん星が光輝いていたのです!

やはり私の技術によって写真で伝えるのはなかなか難しゅうございます。

 

そんなこんなで午前1時。

出発の時間がやってまいりました。

 

(後半に続く)

 

 

ここまでご覧になっていただき誠に有難うございます。

10月17日から「富士山クッキー」をお出しいたします。

また、能見が写真だけでなく動画を編集してくれた模様でございます。

楽しみにお待ちくださいませ!

 

それでは本日はこれにて。

レモネードの夏。

 

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。

猛暑日が続き、うだるような暑さでございますね…。

 

こんな毎日にはビタミンCが必要でございます。

ビタミンCにはストレスや病気に対する抵抗力をつける力があるそうでございますよ!

 

ビタミンCと言えばレモンでございますね。」

少々回りくどい言い回しにはなりましたが、私8月15日に能見と共にエクストラティーを行います!

また、ギフトショップでは「昔懐かしレモネードラスク」が登場いたします。

何故的場はそこまでレモネードにこだわるのか?

あれ、そこまでご興味はございませんか。

左様でございますか。

 

 

ご存じないお嬢様もいらっしゃるかと存じますが、私は新しいお品物を考案する際に自分の中にテーマにしていることがございます。

それは「昔ながらの喫茶店」でございます。

 

木造で作られた内観。古びているとなお良しかと存じます。

お嬢様はご存じないかもしれませんが、中のバネが半壊していて腰かけると思いの外、おしりが沈んでしまうソファ。

コーヒーメーカーで店主がこだわりのコーヒーを淹れている空間。

そして最近ではあまり見かけなくなってしまった食事でございます。

 

例えばカレーと比べた時のハヤシライス。

絶滅はしないまでも、あまり目にする機会がなくなった気がいたしませんか?

また、私が幼少の頃はグリンピースが乗っていた記憶がございますが、

現在では探してもどこにも売っていない気がいたします。

当時は今で言うところの「チョコミント」のように賛否が分かれる食材でございました。

かく言う私も、好きとも嫌いともつかないグリンピースでございますが、

見かけなくなるとそれはそれで切ない気持ちになります。

そんな私の郷愁の想いをシェフが形にしてくださったのが2022年1月に誕生した「ハヤシライスクレープ」なのでございます。

 

今回のレモネードも発想は同じでございます。

退廃した感じのする喫茶店の味を表現したいと思い立ったのが始まりでございます。

 

ビタミンCを摂りたいけどレモンは酸っぱくて苦手!

というお嬢様にも安心の、甘さを兼ね備えたレモネードでございます。

酸味が苦手な方にも美味しくお召し上がりになっていただける点にこだわりました。

 

ギフトショップでは夏でも食べやすいサクサクしたものを、という想いでラスクを選びました。

食感としても食べやすく、他にお出ししている焼菓子で酸味担当はいないと判断してGOをかけました。

 

今回のエクストラティーのポイントは当家でしかお召し上がりになっていただけない「ハーブコーディアル」でございます。

「ハーブコーディアル」とはハーブを漬け込んだシロップのことでございます。

能見と夜な夜な開発した特別なハーブは、他では味わえないハーブの刺激とアロマによりお嬢様を体感したことのない世界に誘ってくれる事、請け合いでございます!

 

年々気温を更新している東京都豊島区のお屋敷より、美味しさをお届けするのは勿論のこと、お嬢様に夏の一日一日を元気に過ごしていただくため、との想いでレモネードをご用意いたしました。

8月はギフトショップでも。そしてティーサロンでも!

お嬢様のお帰りをお待ち申し上げております。

 

それでは本日はこれにて。

釣りとサッカー

 

今回のブログはタイトルの通り、2部構成で書かせていただいており、またこのタイミングで掲載しないと意味がないので(特にサッカー編)急遽筆を執らせていただきます。

 

 

 

第一部 釣り

 

6月後半、私は久方ぶりの釣りに行ってまいりました。

 

6月は過去に大きなサイズのメジナを釣ったこともあり、期待を胸に海へ足を運んだわけでございますが、なんとこの日は思いもよらないお魚と出くわすこととなったのです!

 

初めはフカセ釣りで「ちびっこいサバ」や「15〜20㎝ほどのメジナ」、そして中くらいのサイズでもそれなりのファイトを楽しめる「アイゴ君」等、常連のお魚たちが顔を見せてくれました。

 

そしてあれこれ2時間くらい経った頃、私は「そろそろ違う仕掛けで釣ろうかなぁ」と、釣った「ちびっこいサバ」を餌にして新たな仕掛けで釣りを始めました。

この釣りは餌を付けて投げたら、あとは放っておくだけの簡単な釣り方で、よく釣れるのはカサゴやメバルやベラでございます。が、この日はなんと!……いや、せっかくでございますで、実際の写真をご覧くださいませ!

 

 

 

 

 

そう、海のギャングと言われている「ウツボ」を釣り上げたのです!

 

 

竿を引いた瞬間”グググっ”と、いつもと違う重みを感じ、最初は「根掛かりかな?」と思ったのですが、針先がしっかり動いている感覚があり、「まさかとんでもない大物が掛かったのか!?」と、さらに力を入れリールを巻き始めました。

 

緩急をつけながら焦らず慎重に巻いていると、水面に岩のような物体が見え始め、それが、ぎゅうぎゅうぐるぐると糸に巻き付こうとしているウツボだと分かったときは、とんでもなくびっくりしてしまいました。

 

ウツボという生物には「デスロール」と言う必殺技があり、これはよくワニが獲物の肉を食い千切るときに体を回転させる行動で、この時は釣り糸を締め付けようとデスロールを繰り出していたのです。

 

しかし、今回はこの必殺技がウツボ君にとって裏目となってしまったのです。

なぜならば釣り人にとって掛かったお魚がする最も嫌な行動は、釣り糸を引っ張る力に対して抗おうとする動きであり、(逆方向に泳ごうとしたり、岩の隙間に逃げ込もうとする動き)これだと、ただ海の中で回転しているだけで泳ごうとしないので、逆に釣りやすくなるのです。

 

そうして釣り上げたウツボ君。

実は食べられるということは御存じでしょうか?

紀伊半島や四国の方では郷土料理として親しまれているらしく、私もそのお味が気になっておりましたので、持って帰ることに致しました。

(ウツボは御存じの通り噛みつきが危険でございますので、持って帰るときは十分にお気を付けくださいませ)

 

楽しい時間も終わり、釣り場を後にした私は、その日の内にウツボ君を頂くことにいたしました。

 

自室に戻った私はインターネットでさばき方を調べ、早速取り掛かりました。が、噂には聞いておりましたが、ウツボは今までのお魚よりも段違いにさばくのが難しく、結果的にかなり省略した形になってしまいました。

 

本来であれば食べられるところがたくさんございますので、お刺身や揚げ物など色々作りたかったのですが、結局丸ごと塩焼きで頂きました。

次は切れ味の良い包丁を用意して挑みたいと存じます。

 

そして気になるお味でございますが、意外や意外。中の白身はとても弾力があり、とても美味しく。また、コラーゲンたっぷりでございますのでお肌にもとても良さそうに感じられました。

 

ただ、一つ注意しなければならないのは、固い骨がとても多いということでございます。(さばくのが難しい原因の一つでもございます)

 

なので、ウツボ料理はお勧めではございますが、お召し上がりいただくときは、お店に足を運ばれることを強く推奨いたします!

 

 

今回の釣りはなんだかんだで、とても面白うございました。

 

ちなみに冒頭の「このタイミングで掲載しないと意味がない」という理由は、また釣りの予定の目処が立ちましたので、「それまでに掲載しなければ」と、思い立ったからでございます。

 

第一部 釣り 完

 

 

 

第二部 サッカー

 

危のうございました…

私すっかりお勧めするのを忘れておりました…

 

7月20日。

この日が何の日か御存じでございますか?

 

そう……女子ワールドカップ2023開幕日でございます!!

 

恐らくこのブログが掲載される頃には、すでに始まっているかもしれませんが、まあそれはさして問題ではございません!とにかく知っていただくことが肝心なのでございます!

 

では早速!……と、その前に。

 

私のブログをいつも応援してくださる、”夏に降る雪よりも珍しいお嬢様方”ならもしかしたらお気づきになったかもしれませんが、今回は”アカっちFC”ではございません。一体なぜか?

それは私もなでしこジャパン(日本サッカー女子代表の愛称)についてはミーハーで知識が少ないからでございます。(なのでいつもの凸凹コンビ「実況のアカシJ」と「明石次郎氏」は休暇を取っております)

 

では改めて参りましょう!

 

<日程>

 

まず今回の開催地は、オーストラリア&ニュージーランド でございます。

なので日本時間ではだいたい正午〜21時くらいの間に試合が行われます。

ちなみに日本代表の試合予定は

 

予選第一試合 vs ザンビア女子代表   7/22(土) 16時~ NHK BS1

 

予選第二試合 vs コスタリカ女子代表  7/26(水) 14時~ NHK BS1

 

予選第三試合 vs スペイン女子代表   7/31(月) 16時~ NHK総合

 

でございます。(可能であれば是非ご覧くださいませ!)

 

<強さ>

 

そしてなでしこジャパンの現在のFIFAランキングでございますが。

日本女子代表は11位でございます!

 

これは今回出場しているチームの中でも優勝候補の次くらいの位置づけであり、とあるアメリカの記事では、なでしこジャパンの現実的な可能性は「準決勝進出」と記しておりました。

 

もちろん私はこの予想以上の結果もありえると考えており、2011年以来のなでしこジャパン優勝を祈っております。

 

<選手>

 

今回もとても魅力的な選手が揃ったチームでございます。

 

ただ全ての選手をここで紹介すると、えらい文字数になってしまいますので(私の知識不足という理由もございますが…)

今回は3選手に絞り、紹介させていただきます。

 

熊谷 紗希選手  4番 DF ASローマ/イタリア 所属

言わずと知れたこのチームのキャプテンで、日本史上最高のDFの一人。

現在所属しているASローマを始め、オリンピック・リヨン、FCバイエルン・ミュンヘン等、名だたるチームでの経験があり、日本代表では今回で4度目のワールドカップ出場という素晴らしい経歴を持つ選手でございます。

 

植木 理子選手  9番 FW 日テレ・東京ヴェルディベレーザ 所属

植木選手の魅力は何といってもその得点力でございます。

それを裏付けるように今季のリーグ戦、カップ戦、皇后杯全てで得点王を獲得し個人三冠を達成という成績を持っております。

また、4年前のフランスワールドカップでは、悔しくもケガで離脱をすることとなり、それゆえ今大会に懸ける思いが人一倍強い選手かもしれません。

 

長谷川 唯選手 14番 MF マンチェスター・シティ/イングランド 所属

このチームの実質的な心臓であり、一言で表すなら「天才」でございます。

とあるデータ会社では「女子W杯で見るべき10人」に選出されたり、またある記事では、本大会の全出場選手のベスト25を発表し見事14位に選ばれました。

 

ボールを扱う技術、「パス」「トラップ」「ボールを運ぶ力」がどれも突出しており、また中盤の選手に必要なポジショニング力が「人が操作しているのではないか?」というほど的確で、それでいて自身でゴールを決める力も持っている選手でございます。

2011年ワールドカップ優勝に導いた「澤 穂希選手」と並び称される日が来てもおかしくない選手でございます。

 

 

その他にも海外組(ヨーロッパ等、海外のチームで活躍している選手)が過去最多の9人だったり、1年前のUー20ワールドカップでMVPに選ばれた選手がいたりと、とても楽しみなチームでございます。ですので、是非お嬢様方もどこかで応援してくだされば、嬉しゅうございます。

 

追伸、私が個人的に応援している選手は「長谷川 唯選手」と「守屋 都弥選手」でございます。

 

第二部 サッカー 完

 

 

おまけ1

 

今回は私の趣味を前面に出した文章となってしまいましたが、お楽しみいただけたなら幸いでございます。

そして前回のブログもかなり久方ぶりの掲載ではございましたが、しっかり見てくださったお嬢様もいらっしゃり、とても嬉しゅうございました。ありがとうございます。

 

おまけ2

 

この文章は休館日に書いていたのですが、丁度7月19日(水)に第169回直木賞が発表されました。

今回はW受賞だったのですが、そのうちの一冊「極楽征夷大将軍」は私が大好きな小説家「垣根涼介」氏の作品で、私とても嬉しゅうございました。

実際に手元にはあるのですがまだ読めておりませんので、落ち着いたら読み進めていこうかと存じます。

 

終わり。

釣り 明石太郎編1

 

「……あ、あつすぎる」

 

「釣りにおいて、天候というものはモチベーションに関わる。雨風の強い日が最もやる気を削いでくるが、容赦ない日差しもまた釣り人の心をへし折るというもの…」

「こんなことなら染瀬のことは無視して部屋で療養してるのだった!」

 

実はこの日”五月病”に罹った明石太郎は、染瀬清一の助言により、気晴らしに海へ釣りに来ていた。

 

ー1週間前ー

 

「病気だ病気だ!僕死んじゃう!」

明石太郎は大げさに叫びながら102号室の扉を叩いた。

ドンドン!「おい、いるか染瀬」

 

すると、ものの数秒で扉が開き、腰にタオルを巻いた染瀬が出てきた。

 

「どうした明石君?」

 

「どうもこうもない!病に罹った!」

 

「えっ!」「ど、どこか痛むのか?」

 

「体がだるくて、やる気が起きないんだ!」

 

「倦怠感ってこと?熱はあるのかい?」

 

「いや、どっこい平熱さ。体調も特に悪い所は見当たらない。しかし、やる気が起きない!」

 

「なるほど…」

染瀬清一は少し考え、おもむろに口を開いた。

「……それ、五月病じゃない?」

 

「五月病!?そんなわけあるかい!」

もっと重篤な病だ!と、言わんばかりにぐちゃぐちゃと喋りはじめた。

 

「私の心身の疲れを知っておるのか!体は日々の勤めで疲れ、将来や日本の行く末を思うと心は沈んでいくばかり。最近はメランコリーな明石君って呼ばれているんだぞ!」

 

染瀬清一は呆れ顔をしていた。

「……まあ、取り敢えず元気そうだし、また何かあったら訪ねてきてくれ」

「じゃ!」

 

「おいっ!!」

「無二の親友が困っているというのに、あっさりしすぎではないか!?」

「もっと親身になれ!頼っているのだぞ!この鬼!悪魔!与太郎が!!」

 

「わかったわかった!わかったから待て!取り敢えずお風呂の続きを終えたら親身に聞くから」

 

「そうだ。それでこそ親友だ!」

 

得意げな表情の明石太郎をコンセントの抜けたこたつに入れ、染瀬清一はぺたぺたと浴室へと戻っていった。

 

~数分後~

 

「おい、起きろ明石君」

 

「お…やあ、上がったか我が友よ」

 

「なにが我が友だ、ちゃっかりこたつをぬくくしよって」

 

「てへへ」

 

「まあ良い」

「考えたんだが少し自然の空気でも吸ってくるっていうのはどうだい?」

「例えば海釣りとか」

 

「ほう、釣りか!それはよいかもしれない」

「しかし私、釣り竿なんて持ってないぞ」

 

「そこは任せてくれ」

 

 

かくして時間は現在に戻るのだった。

 

前編完

 

 

おまけ1

 

まずはお嬢様、ここまでご覧いただきありがとうございます。

 

楽しみにお待ちいただいていたお嬢様、大変お待たせいたしました。

少々短い文章ではございますが、楽しんでいただけたなら幸いでございます。

 

おまけ2

 

「前編完」

この文字に不安を募らせたお嬢様もいらっしゃるのではないでしょうか?

なぜなら、現状おまけコーナーのネタと化している「変身」が一向に更新されていないからです。

 

しかし、そこはご安心あれ!

今回の物語はそこまで長い文章ではなく後編で完結する予定でございます。

また、もうすでに半分くらい書き終えておりますゆえ、次の掲載までさほど時間はかからないと存じます。(……恐らく)

 

で、ございますので大船に乗った気持ちでお待ちくださいませ!

(もちろん変身も頑張ります)

 

 

 

終わり。

六月のススメ

 

お嬢様、お坊ちゃま。
奥様、旦那様。
ご機嫌麗しゅうございます。
才木でございます。

フットマンのみならず近頃は、
紅茶係を務めることも多くございました。

ある時隈川がメンバーアカウントにて、
「使用人として茶葉と向き合う時間も大切」
といった旨のことを申し上げておりまして、
なるほど確かにと共感いたしました。
お傍にてお仕え出来ない寂しさはございますが、
それ自体は使用人の本質でもあるなと感じたからです。

まだまだ不得手な部分も多いのですが、
近頃新しい気付きも得まして、
更に研鑽を積むことが出来ればと考えております。

皆様にもタイミングございましたら、
ご感想やご意見を賜りたく存じますが、
召し上がっていただいている際にお伺いするのは、
残念ながら難しゅうございますので、
ギフトショップやティーサロンにて、
お伝えいただければ非常に嬉しゅうございます。

さて閑話休題、ここからはヴァンドゥールとして、
今月のお菓子のススメを紹介いたします。

睦月のCK、藤堂のピーナッツバタータルト。
はたまた金澤のカフェオレロールケーキ、隈川のポーラソイラテムースでしょうか。

……勿論、これらも素晴らしゅうございます。ですが、考案した本人が語りたいこともあるかと存じます。
ですので、私からは意外なお品を一つご紹介出来ればと。

「コーンポタージュフィナンシェ」

何だそれは。
そうお思いになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

当家パティシエの作るフィナンシェは、
非常に美味しゅうございまして、
最近ですと、ゆきどけフィナンシェですとか、
アレキサンドライトフィナンシェなど。
皆様にも大変ご好評いただきました。

そんな流れのこのお品。
実は、大旦那様肝煎りのお品でございます。

私も最初にお伺いした際には、
まず驚きが先立ちました。
焼き菓子と合わせる
イメージがなかったというのが、正直なところです。
庶民の駄菓子には、たまに見かけることがございますが、
皆様にお届けするお品としての
想像がつかなかったのです。

ただ私は、非常に面白そうで、興味深い。
と同時に感じておりましたので、
完成したというパティシエの知らせを受け、
少しいただいてみることにいたしました。

結論から申し上げます。
【非常に美味でございました】

最初の一口目。
私は、あのコーンポタージュの濃厚さ。
こっくりとした甘みと後に広がる塩気のある、
特徴的な味を想像しております。

しかし意外にも、さほど強く感じません。
むしろシンプルなバターフィナンシェにも似た味わいでございます。
ですが、それだけでは勿論なく。
より強く濃厚なバター感がございました。

なんとあれ程印象の強かったコーンポタージュは、
見事な引き立て役として機能しておりました。
ただ少し寂しさもございました。
強いインパクトを感じたかった。
いつしか私は、そんな気持ちになっていたようでございます。

――その刹那。口内に広がるのは、あの塩味。

皆様、おりました。
コーンポタージュはおりました。
そしてもう一口食べようと考えた時、
フィナンシェはもうありませんでした。

「的場さん、もう一つください」
「駄目です」

お目汚し失礼いたしました。
勿論お好みはあるかと存じますが、
是非お試しいただきたい一品でございます。

勿論、
先月からご用意させていただいております、
私の「チョコクッキー」。
同じくヴァンドゥールでございます、
明石考案の「白イルカのクッキー」。
これらもまだまだご用意しております。
合わせてお召し上がりいただければ、幸いでございます。

来月のお菓子も今から楽しみでございます。
もしかすると、それ以外にも楽しいお知らせが出来るのではと、
私予感しております。

ご期待いただければと存じます!
またギフトショップでも、お戻りをお待ちしております!

才木