変身2

     3

(うむ。なれてくると猫の姿の方が快適だな!)
明石太郎は早くも猫の体に順応していた。

(しかし、これだけ自由自在に動き回れるのならば、こんな狭い部屋ではなくお外で遊びたくなるなぁ)
明石太郎は外出することにした。しかしそれには問題があった。
(玄関のドア、どうやって開けよう?)

(まあ鍵はなんとかなるとして、、、)
明石太郎は三回目のジャンプで鍵をひねることに成功した。
(ここからが問題だ。ドアノブを動かしながら、この重い扉を開けるには猫のままだと中々に骨が折れるぞ、、、)

まず彼はドアノブにぶら下がりながら、振り子の要領でドアを蹴飛ばしてみた。
(………)
ビクともしない。そもそも物理法則的にこの方法は可能なのか疑問に思えた。
次に紐でドアノブを固定しようと試みたが、愛くるしい肉球が邪魔をしてこれも失敗に終わった。

その後も色々試したが、人間社会を猫が生き抜くのは難しいという現実を突き付けられただけだった。

(くそう、諦めるしか、、、いや待て!ドアがだめなら窓があるじゃないか!)
明石太郎はすぐさま窓の側に駆け寄った。

窓を覆う黄ばんだカーテンを爪で開けると、そこには丁度猫一匹が立てるスペースがある。明石太郎はそこに立つと、すっかり慣れた手つきで鍵を外した。
(こんな簡単なことに気づかないとは、まだまだ冷静さを失っておるな)

客観的に見ると明石太郎は冷静沈着である。なぜならば猫に変身したにもかかわらず、「どうやったら元に戻れるだろうか?」ではなく、「お外で遊びたい!」等と呑気に思案しているからである。
しかし、自身の現状に全く不安がないのには理由があり、実は先ほどまで明石太郎が見ていた夢が原因であったが彼はそのことをすっかり忘れていた。

(いや、何にせよやっと外へ出られる)
明石太郎は窓を掻くように開け始めた。

何度も繰り返しているうちに少しずつ隙間ができてくる。
(よし、もう少しで隙間に手が入るぞ)
猫に変身した明石太郎がさらに手のスピードを上げようとしたとき

「ドンドンドン!!」

不意に玄関の扉が叩かれた。そしてさらに聞きなじみのある声が聞こえてきた。

「あかし!(ヒック)」「あかしたろう!!(ヒック)」

「せいぎの、、なのもとに(ヒック)この大家!、、さまが(ヒック)家賃!を、とりたてにきたぞ!!(ヒック)」
明石太郎は彼のへべれけな言葉遣いに呆れて物が言えなかった。

(さてはあの男、昨晩から酒を飲んでいたな、、、)
明石太郎は無視してまた窓の方へ体を向けた。が、その瞬間「ガチャン!!」と勢いよく扉が開かれた。
(しまった!鍵を開けたままだった)
そして思わず扉の方を振り返ってしまった。

開け放たれた扉から、千鳥足の大家さんが一升瓶を携え部屋に入ってきた。
そして朧げな視線が茶トラ猫を捉えた。
(うっ、やばい、、、)

ここ最近の大家さんは家賃戦争のこともあって改心をし、それに伴い悪政と評判だった取り決め”生類憐みの令”も緩和されていたのだが、さすがに犬や猫を飼うことは禁止されていた。

「んー?、、、なぜ猫がこんなところにいるんだ(ヒック)」
大家さんはゆっくりと、ふらふらとした足取りで茶トラ猫に近づいた。

(やばい、今の酔った大家はなにをしでかすか分からんぞ、、、)
(ゆっくり、ゆっくりと窓を開けて逃げなければ!)
明石太郎はそっと窓を開け始めた。
(よし!隙間に手が入った。これでグッと開けれ……)

「この阿保猫がーー!!!」

先ほどまで千鳥足だった大家さんが顔を真っ赤にして、一升瓶を振りかぶりながら明石太郎めがけて走ってきた。

「にゃにゃーー!!(なにーー!!)」
「にゃにゃ!にゃにゃにゃにゃ(まて!落ち着け)」

「にゃーにゃー、にゃーにゃーうるさいぞ!!吹き飛べ!!」

(くそっ!)
明石太郎は窓の隙間に手を入れると目一杯力をいれた。
「ガラガラガラ!!!」
勢いよく開いた窓から明石太郎は外へ飛び出した。
しかし、赤鬼と化した大家さんの金棒(一升瓶)は思いのほか迫っており、茶トラ猫のお尻に直撃した。

「にっ!ににゃーーーーー!!」

茶トラ猫は勢いよく窓から吹っ飛んだ。
(あの男本当に殴りやがった!だが落ち着け、まずは受け身を取らなければ)
明石太郎は空中で体勢を整え着地に備えた。しかし明石太郎は忘れていた。

極々たまにしか開かれない、あかずの窓の先にブロック塀があることを、、、

「ドスン」

下ばかりに気をとられていた茶トラ猫は頭からブロック塀にぶつかった。
そして彼は気を失った。

終。

おまけ1

ご覧いただきありがとうございます。前回も今回も当たり前のように途中で区切らせていただいておりますが、、、

この「変身」。このペースで書いていたら一体いつまで続くのでしょうか、、(笑)

まあ気長に書き続ける所存でございますが、このお話ばかりだとつまらないので、次回はまた違う内容を書くかもしれません!

おまけ2(懺悔室)

ギフトショップにて5月からお出ししている”煎茶あんこ(粒あん)”の中身を「こしあんでございます」と、間違えてご案内したことが何度かありました。
仏様申し訳ございませんでした。

終わり。

さようなら、メドゥ・アダラク。

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。
もう間もなくメドゥ・アダラクが逝こうとしております。

私はお屋敷にお仕えさせていただいてからティーサロンを離れ、様々な土地で修行の日々を送ってからギフトショップの責任者という形でお屋敷に舞い戻ってまいりました。
その時よりメドゥ・アダラクをお出しして6年。
思えば色々な思い出がございます。
メートル・ドゥ・バンドゥールを拝命した時も、数々のバンドゥール達との出会いや別れの時も。
私はメドゥ・アダラクと歩んで来たのだなあ、と感じます。

メドゥ・アダラクとは!
ハニーフレーバーの紅茶にジンジャーチップをブレンドした紅茶でございます。
ヒンドゥー語で「メドゥ」はハチミツ、「アダラク」は生姜の意味がございます。
お砂糖を入れるとハニー感がアップ致します。
ミルクを入れるとチャイティーの様な味わいをお楽しみいただけます。
また、ご自身でお召し上がりになる際はハチミツを入れても生姜を足してもその他のスパイスを混ぜても美味しくお召し上がりになっていただけます。

私は体が丈夫でなかなか体が壊れないのですが、ある日立てなくなる程体調を崩した事がございました。
その時パティシエにいただいた濃縮還元ジンジャーシロップを飲んだ時に半日経たずに復活した事がメドゥ誕生のきっかけでございます。
お嬢様にもお元気になっていただきたく思いお作り致しました。
紅茶やスパイスは粒が細かいほど味が濃く出ますので、ジンジャーが苦手な方にもお召し上がりになっていただきやすい様、できるだけ大きなジンジャーの粒を使用しております。

そんなメドゥ・アダラクともそろそろお別れでございます。
思い入れがあるので次の紅茶の事はすぐには考えられません。

頭の中に「大きな古時計」が流れました。
願わくばおじいさんと時計の様に、共に生涯最期までお付き合いしたかったですがお時間の様です。
最早僅かではございますが、そんなメドゥ・アダラクを是非お召し上がり下さいませ。

それでは本日はこれにて。

シバロアの続編

お嬢様、お坊ちゃま。
奥様、旦那様。
ご機嫌麗しゅうございます。
才木でございます。

近頃は、
季節の変わり目を強く感じるところです。
行ったり来たりの天候に
振り回される毎日でございます。

さて昨月下旬からギフトショップでは、
「シバロア リターンズ」をご用意しております。

さくらんぼをベースに
さくらんぼのお酒「キルシュ」で
アクセントをつけた、
司馬のババロアでございます。

味も勿論美味しゅうございますが、
このネーミングには
壮大なハリウッド大作や
ふざけたB級映画の続編を感じます。

先日気の早い話ですが、
シバロア第3弾がありましたら
どんなネーミングにするかなどと、
司馬と話しておりました。

「覚醒とか夜明けもいいんじゃないかなぁ」
「いいですねー帰還とかもよいのでは」
「レボリーションズとかね」
「あ、僕思いつきましたよ!」

私的NO.1は「インフィニティ」でした。
皆様のご意見も是非お伺いしたいところです。
シバロア是非ご賞味くださいませ。

では。

才木

富田、爺やになる。

いかがお過ごしでございますか。桐島でございます。
さて最近の富田ですが…

流石に年齢ももう2歳と半年、人間で言うと90代後半でしょうか、ヨボヨボハムでございます。

すこぶる元気でございまして元気なのに体がついてこない運動会のお父さん現象が富田に起きております。

変に怪我をしないよう気を遣っていこうと存じます。

ただ、手がかかるのが懐かしく、なんだか富田がやってきた当初を思い出す次第でございます。

とりあえずにくらしいのでいつものようにむぎゅっとしてやりました。

どうぞこれからも見守ってやってくださいませ。

変身1

                    1

ある明け方、明石太郎がふわふわもこもこの夢から目を覚ますと、体に違和感があることに気が付いた。「、、、むにゃむにゃ。なんか変な感じがするな」
しかし明石太郎はまだ眠かったので、瞼を閉じたまま違和感の正体をぼーっと探してみることにした。

(なんだかいつもより顔や体がもこもこしている気がする、、、)
(それに体が妙に小さいような、、)考えていると徐々に目が覚めてきた。
(というか私は変な格好で寝ていないか)
(うつ伏せの状態で背中を丸め、手と足を体の下にして、これではまるで、、、)
明石太郎は取りあえず目を開けることにした。

(な、なんだこれは!!)

まだ薄暗い部屋を見渡すと、机や茶棚はビルのように大きく、部屋は普段より何倍も広く感じられた。
(、、、、はっ!もしや私が縮んでいるのか)
さらに周囲を伺っていると、あるものが目に留まった。そこには自分の頭より大きくなった金魚鉢が置かれており、中には去年の夏に掬った三匹の金魚が泳いでいた。そしてなぜかとても美味しそうに感じた。
(なんだこの感覚!?よだれが止まらん!、、いや落ち着け明石太郎よ!)
しかし驚いたのはこれだけではなかった。

金魚鉢に反射している光景をよく見てみると、なんと自分の姿がどこにも見当たらず、そのかわりに一匹の猫が座っていた。
「、、、、」明石太郎はそれがどういうことなのかほぼ分かりかけていたが、一旦考えるのをやめ、金魚鉢に近づいた。

当然のように手と足で歩いている、、、、
さらには障害物をぴょんぴょんジャンプして乗り越えている自分がいる、、、
時折見える金魚鉢の猫も悲しいことに全く同じ動作で動いている。(ま、まだ分からない)
金魚鉢があと数歩のところまで来ると猫の姿がはっきり見えた。

頭は大きめで、手足としっぽが少し短い、なんだかのろまそうな茶トラ猫、、、

(私が猫なら多分こんな感じだろう、、、)そして明石太郎は諦めた。

                   2

 ハチワレ猫のトンカツは最近彼が加入した”どん吉組”の集会に出席していた。
(目がシパシパする、、でもしっかり聞かないと怒られちゃう)
トンカツ達下っ端は日に日に忙しさが増す”どん吉組”ひいては、その親玉である
”犬喰いの虎ノ進(とらのしん)”率いる”寅組”の負担を最も受けていた。

(今日はなんて暖かいのだろう。こんな日はゆっくり眠りたい気分だ、、)
このどん吉組が集会している場所は人間たちが住まう錆びれたアパートの前にある広場を使っていた。この辺りはとても日当たりが良く晴れの日はいつもポカポカしていた。

(眠たい原因は、そんなポカポカも影響しているのかもしれない、、、)
トンカツがのんきなことを考えていると、目の前の古びた段ボールの上から猛々しい声が聞こえてきた。「いいかお前ら、今回ボスから送られてきた指令は3つある!」

閉じかかっていた瞼に力をいれ、ちらと段ボールの上に目をやると、今日もどん吉さんはでんと構えていた。

「まず一つ!これはいつもの如く、食料の調達。今回も量が一番少なかった幹部、そしてその部下たちには罰を与えるとのこと。だからお前ら気張れよ!!」

「そして二つ!丑組への偵察及び威嚇・牽制」
(丑組、またあいつらか、、、)トンカツも先輩猫たちから丑組との歴史を散々聞かされていた。

丑組。トンカツが生まれる前から寅組とこの辺りを二分していたらしい組織だ。
特に虎ノ進親分の二つ前の世代では激しく争っていたらしく、周りの名のある猫たちからもその二つの組織は一目置かれていた。

しかし当時の親分同士が一線を退き現在の虎ノ進親分の世代になると、徐々に寅組が優勢になり、丑組の力が弱まっていった。一つには虎ノ進親分の万全な規律とそれを律する力のおかげでもあったが、大きな要因は現在の丑組の長”牛鬼(ぎゅうき)親分”の無能さにあった。

現牛鬼親分は自分だけうまい汁を吸えれば良いと考えており、部下には必要最低限の食料や休みしか与えず、その割には危機に直面すると自分は逃げて配下の猫に全てを任せていた。そうなると必然的に部下からの信頼は薄れていき、「先代の血を引いているだけで偉そうにしやがって!」と、組を離れる猫も少なくなかった。

その後どんどんと丑組の力は弱まり寅組の猫たちは「やっとここら一帯はおいらたちの縄張りになる!」と喜んだそうだ。しかしある大きな出来事によってそんな思いは一瞬にして霧散してしまう。事の発端は牛鬼親分が徴兵まがいの政策を行ったことだった。

「さすがにこのままではまずい」と、牛鬼親分は蓄えていた食料をちらつかせ、組織の再建を図った。
始めはほとんどの野良猫たちが牛鬼親分の悪評を聞いていたため、耳を傾けることはなかったが、ある一匹の猫の加入によって事態は一変した。

「いいか、丑組への牽制は必要とあらば実力行使でも良いとのこと」
「ただし”ジャック”が率いている場合は即座に逃げろとのことだ!」

そうそのジャックこそが、虎ノ進親分やどん吉さんを悩ませ、ここ最近の多忙の一番の理由であり、トンカツの疲れと眠気の原因でもあった。

(ジャックとは会ったことがない。ただあのボスが危険視しているということはかなり凶悪な猫なのだろう)あまり戦いが好きではなかったトンカツはその指令には気乗りしなかった。

「ジャックって野郎はそんなに危険な猫なのですかい?」トンカツと同じ若い下っ端猫がどん吉に尋ねた。
「ああ。まず思想が最悪だ」どん吉は思い詰めるように話し始めた。

「うちのボスと同じく人間心理を熟知しており、それを危険な方向にしか使わず、さらに戦い方も俺たち普通の猫とは全然違う。無論かなり強い」

「昔、寅組の二人の幹部とその部下たちが、ジャックの組に討ち入りをした。数の多さを武器にこちらが戦況を有利に進め、多少の犠牲をだしつつもあとはジャックただ一匹のところまで追いつめた、、、」

「ゴクリ、、」
「そ、そのあとどうしたのですか?」下っ端猫たちが食い入るように聞く。

「その後、”命からがら生き残った猫”によると、ジャック一匹に全滅させられたそうだ、、」
「か、幹部もですか、、?」

「、、、らしい」

「ま、まさか!?」
「そんなやつに勝てるわけない」
「俺、出くわしたらどうしよう、、、」周りには戸惑いや不安の空気が流れていた。
トンカツも同じだった。

「みんな落ち着け!手はある!」どん吉の声に猛々しさが戻っていた。
「えっ!いったいなんですか!?」皆の視線がどん吉に向いた。
「それが3つ目の指令に関係する」そう言い終えるとどん吉は大きく息を吸った。

「どこかでほっつき歩いている”ミケ”を探してこい!!!!」

「えっ?ミケさんってあの?」
「どん吉さんと同じ幹部のミケさん?」
「で、でも彼が戦っているところなど見たことがないよ」

トンカツはミケという名に聞き覚えがあったが、どんな猫なのかは知らなかった。

「あの、ミケさんってどんな方なんですか?」隣にいた先輩猫に聞いてみると、彼は難しい顔をして答えた。
「ん~、一言で言うなら適当な奴さ」「風の吹くまま気の向くまま、風来坊と言えば聞こえはいいが、いつも指令も受けずにどこかでのんびり暮らしてる」彼は話し終えると少し呆れ顔をしていた。

しかしトンカツの印象はどこか違った。そんな気ままな暮らしに羨ましさを覚えたのもあるが、そんな適当な猫がなぜジャックみたいな恐ろしい猫に対する秘策なのだろう。
そしてあの規律に厳しいボスから指令を受けなくてもいい猫がいたなんて。
しかも彼は幹部らしいし、、、

「なぜ彼が必要なんですか?」トンカツは今の話を踏まえて聞いてみた。
「俺もにわかには信じがたいが、、、」先輩猫は一呼吸置いた。

「ボスが言うにはミケさんは”目覚めし猫”らしい」

終わり。

時任ゲーム。

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。
的場でございます。

先日よりお出ししております「執事喫茶トランプ」はご覧になりましたか?
27名もの使用人が2枚ずつ登場するトランプは初の試みでございます。
執事歌劇団ではお出しした事のあるトランプでございますが、
今回の様に人数が増えると並べた時に壮観でございますね!

「七並べをして遊ぶだけでも楽しめそうだなあ」
などと思っておりましたら時任が何やらブツブツ申しております。
「このトランプならこういうルールで…」
と、まるで怪しいカクテルを調合している時の様な真剣な表情でトランプを見ながら呟いておりました。

その後の展開がこちらでございます。↓↓

あまりまだ知られていない事ではございますが蓮見、影山もカードゲームやボードゲームに明るいそうでございます。
私はあまり詳しくないのですが、時任をはじめティーサロンの使用人と戯れるのは非常に楽しい時間でございました。
もっと大きな規模で様々な使用人とゲームしたいものでございますね!

香川が四角い卓を囲むのが好きだったり、新人フットマンでは西槙や加藤もカードやボードに詳しいのだとか。
私ワクワクが止まりません。
どんどん新しい企画を催してお嬢様にもお楽しみいただける様に邁進してまいりますので、ゲームではしゃぐ使用人達を生温かい目で見守っていただけると幸いでございます。

それでは本日はこれにて。