的場の夏休み。

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。

暑い日が続きますが、如何お過ごしでしょうか。

夏休みはどこかお出掛けになりますか?

 

私は先日お屋敷の離れにございます、司馬が管理するシアタールームに赴きました。

司馬が手入れを欠かさない映写機が映す映像は、映画館ほどではないものの非常に画角が大きく、大変美麗でございました。

 

映画ソムリエである司馬に観たい映画を聞かれましたので、私は「男らしい映画!」とオーダーいたしました。

…現時点でお嬢様の心の扉が少し閉じた音が聞こえたような気がいたしますが、シアタールームの司馬体験にテンションが上がっておりますので続行いたします。

 

司馬が上映してくれたのは「七人の侍」でした。

お嬢様も題名は聞いたことがあるのではないでしょうか?

黑澤明監督の有名な映画でございます。

3時間半の長編映画で、恥ずかしながら私もきちんと鑑賞するのは初めての体験でございました。

司馬が好きな映画ベストテンを選ぶとしたら必ずランクインする程好きな映画だそうでございます。

 

以下に感想を記します。

ネタバレになっている箇所があるやもしれませんのでご了承くださいませ。

 

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昭和30年代の昔の映画なので音質が悪く、田舎の方言なので言葉が聞き取りづらいのです。司馬のお勧めで字幕アリで視聴いたしました。

流石の司馬の選択で、これは正解でございました!日本映画ですが日本語字幕でご覧になるのがお勧めでございます。

 

映像は昔の白黒なのですが、司馬コレクションはリマスターされているので、そこは現代技術の力で特にストレスなく拝見できました。

 

毛筆斜め書きのスタッフロールから始まるオープニングがもう既に渋い!

管楽器と太鼓が合わさった昭和オーケストラが更に渋い!

 

序盤に貧しい農民が野武士に蹂躙されるのですが、これが悲惨過ぎます。昔の映画らしく画面に登場する人数も多いので、何十人もの農民がおいおい泣くのです。凄く残虐な表現があるわけではないのですが、悲壮感が画面から伝わってまいります。

 

そこから野武士を倒すため、農民がなけなしの米食べ放題を条件に侍を集めるのですが、だんだん個性的な仲間が集まっていってワイワイしてくるのが魅力でございます。賃金も出世も見込めないのに集まってくれるのですから、とても気のいい方々でございますね!長編なのでしっかりと人物の描写も行き渡っており、それぞれの背景が見えるのも魅力でございます。

 

このあたりで大きな毛筆で「休憩」と書かれ休憩に入ります。スクリーンに大きく「休憩!」と書かれる経験がないので私が「え?え?」と戸惑っていると司馬が教えてくれました。当時の映画としても異例の長編だったため、劇場側の配慮があったそうです。こういった知識が聞けるのも司馬シアターの魅力!

 

果たして侍たちが集まり、村に移動するのですが、農民たちは野武士も侍も怖いので最初心を開きません。そんな中で侍たちが野武士討伐の作戦を立てたり、農業を手伝ったりする中で絆を深め、共に笑い合う仲になってゆく様は感動的でございます。

 

最後は野武士との戦いが描かれてゆくのですが、ここの迫力が凄い!大勢の演者が走る走る!昭和の映画ってとにかく走るんですよね!ここも長尺で数日間戦うのですが、フィジカルだけでなく戦術も見えて、それが成功したり上手くいかなかったりする様も現実的なのです。合戦に至るまでの物語が丁寧に描かれているだけに感情も入ります。ワンテイクでは撮れないだろうと思われる場面もたくさんあり、大勢の方の息が合っており、全員が高い熱量で臨んでいることが画面全体から伝わってまいりました!

 

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馬がたくさん出てくるシーンは黑澤明が西部劇にインスパイアされた結果らしゅうございます。

その七人の侍に更にインスパイアされたアメリカが「荒野の七人」という西部劇版を作ったそうでございます。逆輸入でございますね!という事で荒野の七人も鑑賞いたしました。

更に荒野の七人にインスパイアされた「サボテンブラザーズ」というコメディー映画も紹介されて観ました。

 

気が付けば10時間ほどシアタールームに居座ってしまいました。何と贅沢な時間!夏休みらしい過ごし方ができました。

 

図らずも読書感想文ならぬ映画感想文みたいになってしまいましたね。夏休みの宿題のように堅苦しくなっておりましたら申し訳ございません。

 

お嬢様もお勧めの映画がございましたら是非教えてくださいませ。

それでは本日はこれにて。

 

 

おまけ

司馬のお勧めで「シス 不死身の男」という映画も視聴しましたが、これは男の子過ぎるので、感想は割愛いたします。しかし的場としては最高の映画でした。

はじめ題名を聞いた時に私が無知ゆえに「死す?不死身なのに?」と思ったことは内緒でございます。

 

終わり。

釣り6 ~大敗北~

 

おかしい…………

 

季節、天候、潮の動き、そのどれもが、言うことなしの一日だったはずなのですが、この日の釣果は朝から全くもって振るいませんでした。

ただ、別に釣れなかったわけではございません。むしろ数でいえば普段より多いくらいでございました。

では何が不満なのか、それはかかれどかかれど、釣り上がるのは15cmほどの小さなサバばかりだったからです。

狙いの黒鯛は一向に現れず、たまに違う魚を釣ったと思ったら小さな草フグだったりと、成果が出ぬままただ時間が過ぎていくばかりでございました。(草フグは鋭い歯で糸を切ったり、釣れても食べるのが難しかったりと、釣り人にあまり好かれていない魚でございます)

 

それでも私は気持ちが折れないよう様々な釣り方を試したり、ご飯休憩を挟んだりしながら釣りを続けました。

しかし、結局は何も起こらず、気が付くと日が落ちかけておりました。

さらにその頃になると、小さなサバすらもかからなかったので、「さすがに帰ろうかな……」などと考えていると、いきなりウキが〝シュン!〟と沈んだのです。

久しぶりのあたりに少々反応が遅れながらも、何とか合わせることには成功いたしました。

引きはそれほど強くないか…

あまり大きさには期待ができませんでしたが、それでも「小さくても黒鯛なら良し!」と、逃がさぬよう丁寧にリールを巻きました。そしてたいして時間もかからず釣り上がり、何だ何だと釣れた魚を見てみると、そこには小指サイズのクロホシイシモチがかかっておりました。

 

 

この子を見た瞬間、さすがの私でも〝ポキッ〟と、気持ちが折れてしまいました。(クロホシイシモチは最大でも12㎝ほどで、その見た目から私と友人は金魚と呼んでおります)

そうして泣く泣く帰路につくことにいたしました。

 

黒鯛はいつになったら釣れることやら……

 

次こそは最近の悪い流れを払拭し、お嬢様のお夕食のテーブルに、黒鯛の活け造りをご用意したいと存じます。

 

 

終わり。

活字戻り。

 

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。

的場でございます。

 

突然ですが、私の2025年の抱負は「活字を読む」でございます。

 

遡ること2024年12月。

ティーサロンでは朗読会が催され、私も参加メンバーに入っておりました。

才木演出の元、香川と山岡と4名で出演させていただきました。

 

その稽古の中でのこと。

才木が香川に「◯◯みたいな、こういう感じで読んでほしいです」という旨の演出を出しました。

私は理解が及ばず「よくわからないこと言ってるなぁ」と思っていたのですが、香川は「あぁ、そういう感じですね」と腑に落としており、むしろ「教え方がわかりやすい」という空気さえ漂わせておりました。

二人に共通していることは芝居に精通しているという事。

言葉や作品に多く触れていることで、造詣が深い者同士のみが理解し合える会話があるのか!

と私は衝撃を受けると共に、活字離れしており無力な己を恥じました。

 

…このままではいかん!

 

私は2025年早々に、才木にお願いを致しました。

「才木お勧めの本を貸してほしい。活字離れして長いので、まずは1~2冊でお願いします」

とお願いしたのですが、才木は次の日に何と10冊ぐらいの本を持ってきたのです…!

(と思ったのですが、後日よくよく数えたら8冊でした。お話を盛ってしまいまして大変申し訳ございませんでした。)

紙の本を大量に持つのも久々なのでとても重たい!

山小屋まで運んだら、その日は疲れて一読もしませんでした。

 

その後も無精な私はなかなか借りた本を読むことができませんでした。

活字は読み始めるまでが大変でございます。

「読み始めたらどれだけ時間がかかるのだろう」

「時間がないんだよなぁ」

「本を読むには部屋が散らかっているかな」

と、傍から見れば言い訳でしかない気持ちが、本人としては切実に生まれてまいります。

 

読み始めたら始めたで、

「この言い回しが引っ掛かるなあ」

「これってどういう設定なの?」

となかなかエンジンがかかりません。

 

そんなこんなで、私は300ページ弱の短編集を読み終えるのに半月以上かかりました。

それでも嬉しかったのを覚えております。

 

「自分はまだ本が一冊読めるんだ…!」

 

大変お恥ずかしい話ですが私は執務ばかりにかまけて活字などもう何年も触れてまいりませんでした。

集中力がもたず挫折して2026年を迎える未来も想像しておりましたので、読了できた!という事実に達成感を感じました。

 

その後は第16回公演に出させていただきましたので、そちらに集中いたしました。

と言えば聞こえはいいのですが、私のキャパシティーでは台本と才木に借りた本を同時進行することは不可能だったのです。

事実、伊織は同じ環境でも活字や映画に触れておりました。

それほど読書は私にとって体力のいる作業でございました。

 

公演も終わり5月。また私は読書を始めました。

才木は私から本の感想を聞くのを楽しみにしてくれておりました。

読書を再開したのは、そこへ向かっての義務感もあったかもしれません。

才木に本を借りて本当に良かった。

また半月に1冊。私は徐々に読み進めてまいります。

 

アフターイベントが終わった6月。

あれ、本を開くのが苦にならなくなってきたぞ。

自分のペースが掴めてきた手応えがある…。

1週間に一冊。

だんだんペースが早くなってまいりました。

それは最早義務感ではなく、楽しいからハイペースになっているという感覚でございました。

 

そして7月1日。

才木に借りた本を全て読み終えました!

8冊読むのに半年以上かかってしまいました。

振り返ると怠惰だったなぁと存じますが、私にとっては大事な時間だったことは間違いございません。

 

先日才木と借りた本の感想戦を行ってまいりました。

同じ本を読んだ者同士でも、

「そこは感じ方が違うのか!」

「そうそう、それは私も思った!」

「インタビュー記事も合わせて読むと印象が変わるのか」

など、フィルターが違えば景色が違うのも、フィルターが違うのに合致するのも非常に楽しい時間でございました。

 

…近頃は逆の悩みが生じておりまして、活字離れの反動で活字中毒になりそうな事でございます。

眠たくなってもやめどころがわからないので睡眠が短くなってしまいました。

 

また、小説原作の映画があるとそちらも押さえたくなってしまい余計に時間をかけてしまうこと。読みたい本が既に20冊を超えたこと。

何かを得れば何かを失うもので、なかなか難しい問題でございます。

 

お嬢様はティーサロンでいかがお過ごしでしょうか?

本は作者のメッセージを感じるのが楽しみのひとつですが、更にそれを受け取った読み手の感想を受け取るのも楽しいものでございます。

お勧めの本がございましたら、また中毒に効く治療法がございましたらこっそり教えてくださいませ。

 

それでは本日はこれにて。

かき氷のすゝめ

 

お嬢様、お久しゅうございます。

宗方でございます。

 

 

この頃は気温も高くなってまいりまして、冷たいものが美味しゅうございますね。

 

アイスクリームやアイスティー。

冷たいものを頂くだけで幸せを感じられる季節と考えれば、暑さという物もあながち悪いものでは無い様に思えてまいりますね。

 

因みに私は、かき氷を好んでいただく機会が多くございますが、お嬢様はいかがでしょうか。

 

 

クリスタルの様に輝きを放つ氷の結晶に、赤色の煌めくシロップをひと回しかけ、それをキンキンに冷やしたスプーンで一口。

 

溶けてしまう前に早く食べてしまわなくては、と急き立てられるように二口、三口と食べ進めると頭の奥にパキンと頭痛が走るのです。

 

それを温かいほうじ茶でなんとか乗り切り、固く閉じた目を開けるとそこには…

 

 

 

「夏」があるのでございます。

 

 

 

騙されたと思って是非お試しくださいませ。

 

お嬢様が、今年も良い夏を過ごされますように。

わたしのかんがえたカクテル。

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。

的場でございます。

 

来る7月8日に能見とカクテルデーを開催する運びとなりました!

能見とはエクストラティーでご一緒することはあれどカクテルは初めてでございます。

非常に楽しみでございますね!

 

毎年レシピカードを書いたり当日お嬢様とお話させていただいたりするのですが、全然語り尽くせないのでこちらに今回のカクテルのことを記します。

 

この度は執事歌劇団第16回公演「0/Oゼロイチ 〜見上げる空は ハルカうららか〜」で能見と共演したことを受け、私が演じた蛙阿院三休(あかわいん さんきゅう)が好んだバーボンを使ったカクテルを作ろう!というのが始まりでございました。

 

私がお作りいたしますのは「カリフォルニアレモネード」と呼ばれるカクテルでございます。

以下カリフォルニアレモネードの内訳でございます。

 

バーボン

レモンジュース

ライムジュース

グレナデンシロップ

シュガーシロップ

炭酸

 

バーボンが強く香るレモネードでございますが、レモン・ライムの清涼感があり、グレナデン(ざくろ)シロップでほんのりピンクのかかった可愛らしい色のカクテルでございます。

一昨年に能見と行ったエクストラティーではティーシロップを使用したレモネードをお出ししました。

レモネードの流れを組んでいるところもエモーショナルなのかな?という思いもございます。

 

あれ?でも折角だから三休らしさをもっと出した方が特別な一日になるのではないか?

と思い立ち、私はレシピを変えることにいたしました。

レモンやライムは洋風だし、三休だから和風にしたいな。

みかん?ゆず?すだちは冬らしいかな。

そうすると夏だから夏みかん?はっさくか?

 

 

…などと様々お調べしていくうちに、何と「仏の柑橘」なる物があるとの噂。

まず一つめに「じゃばら」という柑橘がございます。こちらは過去にお屋敷でもコンフィチュールとしてお出ししていた柑橘でございまして、「邪を払う」から「じゃばら」というのでございます。これはお坊さんらしい柑橘でございますね!

 

また「ぶしゅかん」という柑橘もございまして、こちらは漢字で「仏手柑」と書きます。

我々が普段イメージする柑橘類の実の部分がなく、綿のようになっているのですが、不思議と柑橘のお味をしっかりと感じられるフルーツでございます。

しかも「仏の手」だなんて、今回のテーマにピッタリではないか!!

見た目もバナナみたいだし今回は「ぶしゅかん」でいこう!夏っぽいし!

ということで今回は仏手柑を使うことにいたしました。

 

バーボンにも様々種類がございまして、どれを選んだら良いのか?

自身で飲み比べてもよいのですが、大変種類(酒類?)が多うございますので、良いものが決まるまでに酔い潰れてしまいそうです。

私は時任に良いバーボンのお勧めを伺うことにいたしました。

 

「『エライジャグレイグ』というバーボンがございますよ。エライジャクレイグというのは、アメリカが新大陸として発展している頃にいたお坊さん(牧師)で、バーボンウィスキーの最初に作った生みの親と言われている人です。お坊さんの逸話もあるので良いかと思われます。」

 

さすが時任!

何てお酒に詳しい使用人なのだ!

 

「『アーリータイムズ』もポピュラーなバーボンです。直接の関係はないですが、上記僧侶のエライジャグレイグが初めてバーボンを作ったケンタッキーの開拓村にて作られたバーボンなので、正当な後継酒と言えなくもありません。」

 

なるほど!

結局正当な後継酒なのかどうかは定かではないですが、どちらがお勧めなのでしょうか?

 

「アーリータイムズは日本語で『在りし日々』という意味なので、昔をしのぶような感じが今回のお坊さんのテーマに沿っているのではないでしょうか?」

 

??

言葉の意味はよくわかりませんが、とにかく凄い自信でございます。

 

…まあでもブッダ(お釈迦様)も現世に「在りし日々」はゴーダマ・シッダールタっていう別の存在だったわけで、天界から「在りし日々」をしのんだりすることもあるか?

そう考えると『アーリータイムズ』は「仏のウイスキー」と言えないこともないのか?

じゃあアーリータイムズにするか!

 

これだけ仏や和の雰囲気を醸しているのですから「カリフォルニアレモネード」ではなく16回公演にちなんで「カラタチレモネード」と名付けましょう!

 

カクテルには花言葉のように「カクテル言葉」というものが存在するそうでございます。

カリフォルニアレモネードのカクテル言葉は「永遠の感謝」ということでございました。

では我々がお作りする「カラタチレモネード」は「永遠の三休(Thank you)」といったところでしょうか?

 

さて、肝心のお味ですが、本場カリフォルニアのレモネードはバーボンをたくさん使うのでお酒の香りが強めでございます。

少し柑橘を多めに使用してアルコール感はマイルドになるように仕上げております。

 

ノンアルコールのバージョンもございます。

こちらは紅茶シロップを使い甘く仕上げたレモネードでございます。

ノンアルコールバージョンには古谷ブレンドのゴシックを使用いたします。

ゴシックはお酒の感じがする「アイリッシュウイスキークリーム」のフレーバーなのでございます。

今回のカクテルのコンセプトにぴったりでございます。

「優李君、バーボンちょうだい」という劇中の台詞を彷彿とさせる関係性が見えてきて最高でございますね!

 

おっと、ついつい長話になってしまいました。

我々とお嬢様は本番でしかお会いできませんが、事前準備から心を込めて仕込んでおります!

当日を楽しみにお待ちくださいませ。

 

 

…あ、「広がる花吹雪」がテーマということなので、ストローはピンクにいたしましょうか。

 

それでは本日はこれにて。

変身9

 

11

 

猫の姿だと、同じ道でもこうも長く感じるものなのか。

 

明石太郎はトンカツと共に寅組のアジトに向かっていた。

 

「おいトンカツ、まだ着かないのか?」

 

「あと少しです!」

「それにしても太郎さんは戦うとすごいのに、体力は全然ないですね」

 

「うるさいわい!今日は朝から疲れることがいっぱいあったんじゃい!」

 

「へー!例えばどんなことです?」

 

「どんなことって。朝から大家…いや、人間に追い回され、さっきの広場にあった大きな建物に登り、そして君たちを悪い猫から救った!こんな芸当私以外には到底不可能だろうな!」

明石太郎は、昂然と胸を張りながら言った。

 

「それは確かに。でも何であんな所に登ろうとしたんですか?きっと、なんにもないですよね?」

 

「え?まあ、それは猫の憧れというかだな………」と、考えていると、明石太郎はふと何か大事なことを見落としている気がした。

 

「そういえばトンカツよ。さっき言ってたとある猫を探しているって、詳しくはどんな猫なのだ?」

 

「えっ?ミケさんのことですか?」

 

「なに!?ミケだと!!」

 

「知っているんですか?」

 

「知ってるもなにも、その猫ならさっき会ったぞ!」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ。白と黒とオレンジ色のまだら模様で、ひょろっとしていて、人間の食べ物を当たり前のように頬張っていた……」

 

「ままま、間違いないです!!聞いていた特徴と一致してます!」

「戻って会いに行かなきゃ!」

トンカツは慌てて踵を返そうとした。

 

「まて、トンカツ。先にアジトに向かおう」

 

「えっ!?でもミケさんが!」

 

「まずは君の先輩たちを運ばないと」

明石太郎はリヤカーを見ながら言った。

「それに見つけたとしても無駄足になるかもしれない」

 

「なんでですか?」

 

「いや、ミケと話した限りでは、あまり戦いたくない雰囲気だった」

 

「そんな………」

 

「まあ、がっかりするな。丑組だろうがジャックだろうが、私が何とかしてやるから!」

 

「は、はい…」

 

 

 

ほどなくして、明石太郎とトンカツの歩く先に、石塀で囲まれた大きな廃屋が現れた。視界に映る窓ガラスはすべて割れており、建物のそこらじゅうに蔦がはっている。

 

「こんな所に建物があったとは」

 

「太郎さん、ここが我々のアジトです!行きましょう」

明石太郎とトンカツは歩を進めた。

 

敷地の入り口には大きな門が建てられていたが、扉自体は古く、もう何年も開けっ放しであることが容易に想像できた。

 

門の前まで来ると、「少し待っててください」と、トンカツが伝え、とことこ中に入っていった。

 

少しすると話し声が聞こえた。

「おートンカツ……大変………そうか……ふむふむ……」

なにやら誰かと話しているようだった。

それから1分間くらい、途切れ途切れに聞こえる会話をなにげなく聞いていると、突然「えっ!!」と大きな声が響いた。

 

その声の後すぐに見知らぬ黒猫が敷地の中から足早に近づいてきた。

そして、私のもう隠す気のない立ち姿と運んできたリヤカーを何度も確認した。

 

「あ、あんたか……確かにミケさんじゃねー、まさか、こんな奇跡が…」

 

「どうですかハックさん?」

トンカツが、得意気な顔で歩いてきた。

 

「やるじゃねえかトンカツ!あのトロかったトンカツがよう」

 

「えへへへへ」

 

「おっと名乗り遅れた。俺の名はハック、アジトの門兵兼情報屋だ。あんたの名前はトンカツから聞いてるぜ、太郎ってんだろ?よろしくな!」

 

「よろしく。私が来たからには大船に乗った気でいてくれて構わないぞ!」

 

「そいつは頼もしい!あんたが来てくれたことで、ミケさんがいなくても、虎ノ進の旦那の作戦が決行できるかもしれねえ!」

「だが、まずは彼らの手当てが先だな」

そう言うとハックはリヤカーに近づき、怪我猫の状態を確認した。

 

「息はあるが、急いだ方がいいな。太郎、トンカツ、ついてきてくれ」

 

「もちろんだ!」

「はい!」

 

 

 

 

門を通り抜け中庭を進むと、大きな玄関扉の前までやってきた。

 

「さすがにリヤカーごとこの扉は入れないな。しかしハックよ、これ開けられるのか?」

猫が開けるには、中々に骨が折れそうなサムラッチハンドル式の扉であった。

 

「まあ見てなって」

するとハックはピョンとジャンプし、ドアの取っ手に捕まった。そして片方の前足で上部のボタンを押し、後ろ足でドア横の壁を思いっきり蹴飛ばした。

するとググっと少しだけドアが開き、すかさずハックはその隙間に体を入れ込み、下まで滑り落ちてきた。

そして最後に頭で押しながらドアを開くと、途中でガチャという音がした。

 

「よし、これで勝手に閉まらないはずだ」

中々の手際だった。

 

「どうですか太郎さん!これができるのは寅組の中でも数匹だけ。その中でもハックさんが一番スムーズに開けられるのです!」

トンカツが〝エヘン!〟という表情で言った。

 

「なぜお前が誇らしげなんだ」

 

「す、すみません」

 

まあ、確かにすごいがな……

明石太郎は、自室の扉と格闘した今朝のことを思い出した。

 

「だけどハック、ずっと開けっ放しにしとけば楽なのではないか?」

明石太郎はふと疑問に思った。

 

「昔はそうだったんだが、〝もし敵に攻められたらこの開けづらさが、守りとしての役目を果たしてくれる〟というおかみさんの助言を聞いてから、必ず閉めることにしているんだ。実際、アジトが手薄なときでも襲撃をうけなくなったしな」

 

「おかみさん?」

 

「我々のボス、虎ノ進の旦那の嫁さんで、目覚めし猫だった方だ。もう亡くなってしまったがな」

 

「目覚めし……、そういえばトンカツも言ってたが、それって何なんだ?」

 

「それはですね」と、今度はトンカツがしゃべりはじめた。

「一言で言いますと、人間みたいな猫のことです!おかみさん、ジャック、ミケさんがそれに当てはまります。そして恐らく太郎さんも……」

 

「なるほどな」と、明石太郎は納得した。そして全ての線が繋がった。

つまり、あの毛玉の死神によって罰を与えられ猫に変わった人間が、猫の世界では目覚めし猫と呼ばれているのだろう。

そして、良くも悪くも猫たちに大きな影響を及ぼしている…

 

「だから期待しているぞ明石太郎よ!」

 

「では、俺は怪我した彼らを運ぶために仲間を呼んでくる」

そうしてハックは建物の中に入っていった。

 

 

 

 

「これでよい」

怪我した猫たちをアジトの一室に運び、可能な限りの手当てを施した。

 

「これもおかみさんの知恵なのか?」

処置をした年老いた猫に聞いた。

 

「そうじゃ。しかし、ここまで完璧にできたためしはない。太郎さん、あんたが手伝ってくれたおかげじゃ」

 

「いやいや。これからも知りたいこと手伝えることがあれば、何でも言ってくれ!」

 

「頼りにしとるぞ」

年老いた猫の瞳は、希望に満ち溢れていた。

 

それから少し経ち、明石太郎が休んでいると、ひょこっとトンカツが部屋に入ってきた。

 

「あの~、太郎さんちょっといいですか?」

 

「どうしたトンカツ?」

 

「みんなが太郎さんと話してみたいと……」

 

「ん?」

詳しく話を聞いてみると、どうやらトンカツはアジトに戻ってから、私との経緯を仲間たちに自慢げに話していたらしい。

 

「やれやれ、しょうがないやつだ」

 

「ありがとうございます!」

 

まあ、ハックが虎ノ進親分と話し終えるまで、暇であったしな…

 

「では行きましょう!」

 

アジトにはかなりの数の猫たちがいた。そして意外なことに、ほとんどの猫が目覚めし猫を直接見たことが無かったのだ。なので、会うたびに質問攻めをされ、そのたびになぜかトンカツが鼻高々に答えていた。

「またこいつは…」と思ったが、ここまでくると何だか可愛く思えてきた。

 

そして、いつの間にか二匹の周りにはアジトにいたほとんどの猫が集まってきており、盛り上がりも最高潮に達していた。そんな折、ようやくハックが戻ってきた。

 

「おお、ハック。ずいぶんと遅かったな」

 

「ちょっとな……」

ハックは浮かない顔をしていた。

 

「太郎………まずいことになった」

 

「どうした?」

 

「ジャックが現れた」

 

「なに!?」

 

「トンカツ!」

 

「あっ、ハックさん!」

ようやくハックの存在に気づいたようだった。

「今、みんなにですね……」

 

「まて、悠長なことを話している暇はない。緊急事態だ!」

 

「緊急事態?」

 

「みんな、聞いてくれ!」

その場にいた猫たちにも呼びかけた。

 

「ドングリ野原にジャックが現れた」

 

「えっ?」

「うそだろ」

「ジャックだと…」

その言葉を聞き、先ほどまでの楽しげな雰囲気が一転した。

 

「現在、迎え撃っているのは、蟹丸組、ラクレア組、そして…」

ハックはちらりとトンカツの方を向いた。

「どん吉組だ」

 

「えっ……」

トンカツの顔から一気に血の気が引いていった。

 

「で、でもハックさん、確か虎ノ進親分がジャックとは戦うなって指令を出してたはずですよね?」

一匹の猫が尋ねた。

 

「そうだ。だから虎ノ進の旦那も俺も争いは起こらないと考えていた。蟹丸さんはともかく、どん吉さんとラクレアさんは、冷静に対処しようとするはずだからな。だが………」

 

「でも、もしかしたらあの方たちが揃えば勝てるんじゃないですか?」

「そうだよ、幹部の中でも実力のある方たちだし」

 

「10%」

 

「えっ?」

 

「旦那も俺も勝てる見込みはそのくらいだと予想した」

 

「そんな」

「彼らでも……」

 

ハックの表情からも、会ったときのような明るさは消えていた。

 

「僕……」

すると突然、トンカツがどこかに歩き出した。

 

「おい、どこへ行く!」

 

「僕……、ドングリ野原に行きます!」

 

「なっ!?落ち着け、トンカツが行ったところで、どうこうできる相手じゃねえ。命を無駄にするな!」

 

「でも僕もどん吉組の一員だ。だったら行かなきゃ!」

 

「まて、お前は太郎を連れてきたという大きな仕事を果たした!参加しなくたって誰も文句は言わん」

ハックが前足で止めようとした。が、それを振り切りトンカツは走りだしてしまった。そして割れた窓ガラスから飛び出していった。

 

「くそっ……」

 

「ハックよ、戦いが始まってからどのくらい経つのだ?」

横で見ていた明石太郎が言った。

 

「………正確には分からないが、太郎と会ったときには、すでに始まっていただろう」

 

「なるほど。なら、急げば間に合うかもしれないな」

 

「えっ!?ま、まさかお前…」

 

「私も向かう!」

 

「駄目だ!ミケさんがいない今、あんたがやられたらそれこそ打つ手がなくなる!」

 

「やられやしないさ。そもそも真面目に戦う気はない」

 

「どういうことだ?」

 

「勝つことはできなくても、助けることならできるかもしれない!大切な仲間なんだろ?」

 

「そうだが………」

ハックは考えた。確かに、必ず訪れるであろう丑組との決戦に、彼らがいるといないとでは大きく違う。

 

「わかった。ただ、俺も行く。そしてもし助けられないと分かったら、太郎は仲間を置いて必ず逃げると約束してくれ!」

 

「……了解した」

 

「よし」

そう言うとハックは、近くにいた一匹の猫に、虎ノ進の旦那に経緯を報告するよう伝え、向かう準備を始めた。

 

 

 

ゲームプレイを終えて。

 

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。

先日アフターイベントが終わりました。

 

舞台や動画でお話した内容もございますが、ここで一区切りでございます。

私は普段ティーサロンには立ちませんので、近くて遠いところにいる仲間たちと。

共に過ごした旅行記をつれづれなるままに記しておこうと思います。

 

はじめ初稿が上がった時の印象は

…「あかわいんさんきゅう?え?」でございました。

 

いやいや、赤ワインって!

冗談でしょう。

あれ?他のメンバーは真面目で、現実にありそうな名前だぞ!?

という戸惑いがございました。

 

私が伊織に誘っていただいて脚本を書いていただくにあたって、僭越ながら出した希望は2つでした。

1つは的場本人役でないこと。

もう1つは衣装がいつもと違うこと

(13回公演では私はいつもの格好の関西色が強い的場役でございました。)

 

…オーダーが通ってはいるけど!

 

設定資料集でも書かれていた通り、初めは私、超重要人物でした。

ちょっとだけ内容をお話ししますと、ゲームの世界にいながらにして現実の世界も見通せるスーパー破戒僧だったのでした。

 

初回の写真撮影があった日のこと。

頑張って澄まし顔で「何でもお見通しだぜ?」という顔で撮影を行っている私のところに作家先生…あ、作家先生役の隈川ではなく脚本家先生の伊織がやってきました。

「的場さんの設定が結構変わります」

え!じゃあ今日はどういうキャラクター設定で撮られればいいんだい!?先生!

伊織先生は第二稿と格闘中でしたので、少し悲しそうに笑って立ち去るのでした。

 

第二稿が上がってからは悩み三休と向き合い…の連続でございました。

的場と近しいところもあり、違う人物でもあり。

「普段と違うカッコよさを演じてくれ」というオーダーも難しかったですし、逆に普段真面目な?私に「もっとふざけてくれ」という注文にもまた「こんなにふざけてていいのか!?」と戸惑う時もございました。

 

何よりダンスが本格的!

13回公演の時よりも自然に歌劇団にダンスが息づいていて、格段にレベルが上がっておりました。

最初は何をやっているのかすらわからず、桐島と絶望感に打ちひしがれたのを覚えております。

 

稽古期間は3ヶ月ほどでございましたが、半分くらい過ぎた時に三休との対話も一段落してまいりました。

まだ全容を語ることができない本番前に、執務中に三休が出てこないように注意したりするのも大変でした(これは漏れ出てしまった場面もあったかもしれません)。

普段お嬢様にお仕えする中でも活きてくるような感じがして、三休に学んだことも多くございました。

「悩みがあったら何でも聞くぜ?」のスタンスは使用人として大事な部分であるなぁと考える次第でございます。

 

また、何回も申し上げるようですが初の自身の楽曲を隈川が作ってくれました!

これは何にも代えがたい喜びでございました。

デモ楽曲から文句の付けどころがない!

能見的場のアホみたいな…ゴホンゴホン。

少年部分を大舞台で演じることができることはこの上ない喜びでございました。

これば本人にも百回以上伝えてはおりますが、感謝してもしきれないことでございます。

 

能見とのシーンもたくさんございましたね。

日替わりの漫才も楽しく作ることができました。

般若湯(作中でも度々出てくるお酒の仏教語)を酌み交わしながら出てきたアイデアは10を越えました。

楽しんでいただけたでしょうか?

 

お化粧やメイクは百合野と隈川が親身になって教えてくれました。

普段から舞台に立つ使用人として、今まで苦心して正解を見つけてきたのだろうな、と感じます。

歌もそうですが二人とも本当に教え方が優しい!

バンドゥールの責任者として見習わなければ!

という学びがたくさんございました。

 

これは度々他のメンバーからも出てくる話ではございますが、古谷、影山の素振りの数は凄い!

私も単純作業や地道な鍛錬が得意な方かな、と思っておりましたが二人のストイックレッスンを見ていると自身が凡人なのだな…と思い知らされました。

稽古が終わってもとにかく自主練習!4時間でも5時間でも!

そりゃあコンサートも盛り上がるわけだ!と私は毎度舌を巻くのでした。

 

本番前には実寸稽古があったり、数日前には小屋入りがございました。

寝泊まりしたわけではございませんが、ほとんどみんなで一緒に過ごしておりましたので、何だか合宿のような、小旅行のような気分でございました。

本番が近づくにつれて緊張感が高まったかと言われれば、もちろんゼロではないにせよ、ほとんど緊張よりは「楽しい!」が勝っておりました。

一人で作っているのだとしたら不安で一杯だったかと存じますが、実力申し分のない心強い仲間が作った作品でございます。

「本番が怖い!」というよりも「早くご覧いただきたい!」が強い気持ちでございました。

 

小屋入りをしてからは舞台・大道具が完成しており、映像をテストで流しているのを拝見しているとまるで本当のゲームのようでございました。

もうここまで来ると衣装着用の機会が格段に増えてまいりますので、稽古の映像を見返すと本当にゲーム画面みたい!ゲームからキャラクターが飛び出してきたみたい!と、ただの「スイートオンユー」のファンのようになってしまいました。

いかんいかん!これからプロのキャラクターとして振る舞わなければ!

 

…いよいよ本番を迎えることとなりました。

ここからは怒涛のように時間が過ぎてゆきました。細かい内容はDVDが出た際にご覧いただくとして、心の動きのみお伝えいたします。

さすがに本番ともなると鼓動が早鳴りいたします。

…ではこれは不安や緊張なのだろうか?もちろんそれもございます。

反対に武者震いであったり楽しみであったり高揚感であったり…。

様々な感情が私のからだ中を駆け巡りました。

本番期間は外界との接触を断たれ、反応は舞台上でしか感じることができないので、何が正解かわからずに迷いながら演じた回もございました。

「桐島がアドリブを入れているから私も変化球を増やしていった方がいいか?」

「もっと変な顔した方がウケるのかなあ」

心に迷いがあると余計なことを考えてしまいがちでございます。

もう舞台が始まった時点で色々な方々が完成させた三休があるわけですから、本来本番で内容を変えるべきではございません。

台本の枠から飛び出したい気持ちを抑えるのが大変な作業でございました。

あとは歌いながら踊るシーンは息が切れました。

平気なフリをするのに神経を使いましたが、疲れが見えないよう、上手にできていたでしょうか?

 

アフターイベントも本番とは違った苦労があって大変でございました。

伊織先生が書き下ろしてくれた三休エンディングの台本を見て私は驚愕いたしました。

…何と愛の言葉を囁く日がやってくるだなんて!

(詳しくは台本にも記載がございますのでちょっと恥かしいのですがそちらをご覧くださいませ。)

私が語るのもおこがましうございますが、こういった芝居はこちら側が照れてしまうと台無しになってしまうのではないか?

と最初に考えました。

初めは台詞を覚えるために山小屋近くの公園で繰り返し唱えるのですが、これには歯が浮いてしまって仕方がございませんでした。

毎日台詞を唱えることによって自分の中で台詞が自然に腑に落ちるよう努めました。

おかげで本番は三休として自然に?演じることができたのではないか?と存じます。

実際どうであったかはお嬢様のご判断にお任せいたします。

 

長くなってしまいましたが、この半年間の私の歌劇団経験の記録を記してまいりました。

私が演じてどうだったのかはお嬢様がご覧になっていただいた通りでございますので、主に心の動きをお伝えいたしました。

秋にはカフェがございますが、一旦私は着物を置いて普通の使用人に戻るといたしましょう。

 

様々な学びを与えてくれた三休にThank youを!

また会う日まで。

それでは本日はこれにて。

 

変身8

 

変身(登場猫物・用語)

 

明石太郎……この物語の主人公。(目覚めし猫)

朝起きると茶トラ猫になっていたが、持ち前の好奇心と前向きさで、アパートの外に飛び出す。その後トンカツやミケと出会い、現在は寅組を助けるため行動している。

 

トンカツ……寅組傘下であるどん吉組所属のハチワレ猫。

指令によりミケを探していたが、途中で敵対勢力である丑組の猫たちに襲われてしまう。が、明石太郎の助太刀により事なきを得る。その後、明石太郎を味方にするという大きな仕事を果たす。

戦いが苦手で好きではないが、意外と勇敢だったりする。

 

どん吉……寅組傘下であるどん吉組の親分。

寅組の幹部でもあり、武力と知力を兼ね備える実力者。寅組の中でも古参であり、虎ノ進親分のおかみさんやミケとも面識がある。現在は、同じく寅組の幹部である蟹丸・ラクレアと共にジャック率いる丑組と交戦中。

大柄で灰色の猫。

 

虎ノ進(とらのしん)……寅組の親分。

通称〝犬喰いの虎ノ進〟猫の世界では広く名が知られており、彼に惹かれて寅組に加入した猫も少なくない。大きな戦いでは自らが最前線に立ち部下たちを指揮する。

大柄なトラ猫。体はがっちりとした筋肉質である。

 

ミケ……寅組所属の三毛猫。(目覚めし猫)

唯一、規律厳しい寅組の中で自由を与えられている猫。その実力はいまだ不明だが、寅組の中ではジャックに対抗できる唯一の猫だと言われている。しかし、明石太郎と出会ったときは、戦いにあまり前向きではなかった。

好物は焼き魚。

 

おかみさん……虎ノ進の妻で現在は亡くなっている。(目覚めし猫)

野犬の群れに襲われていたところを虎ノ進に助けられ、そのことがきっかけで結婚する。そして虎ノ進に恩を返すべく、役立ちそうな人間についての情報を様々伝えた。しかし、野犬に襲われたときの怪我などが原因で結婚した数年後に亡くなった。

 

牛鬼(ぎゅうき)……現在の丑組の親分。

自己中心的な考えで心の中では常に自分さえよければいいと考えている。

武力はあまりないが、悪知恵と先代の血を引いているという理由で丑組の親分に就任した。

牛柄のぶち猫でかなりの大柄だが、ほとんどが脂肪である。

 

ジャック……丑組最強の猫。(目覚めし猫)

所属すれば面倒な食糧集めをしなくても、たらふく食事にありつけるという理由で丑組に加入。部下はいるが普段は一匹で勝手に行動しており、様々な地域に行ってはそこらじゅうの猫たちに喧嘩を売り危害を加えている。

 

神様……人を殺めた人間を猫の姿に変えるという罰を与える猫型の死神。

仙人を猫にしたような話し方や見た目だが、特に罪のない明石太郎を間違えて猫の姿にしてしまうという、いい加減な面も併せ持つ。

真っ白でふわふわもこもこの毛並みは、とても触り心地がよいらしい……

 

 

寅組(とらぐみ)……明石太郎が生活する地域一体を支配する二大猫勢力の一つ。

親分である虎ノ進を中心に幹部クラスから下っ端まできっちりと統制がとれた組織。規律を重視しており、基本的に無駄な他勢力との戦いはしない。

また、今は亡きおかみさんのおかげで、人間社会へもうまく対応し勢力を広げていった。

 

丑組(うしぐみ)……明石太郎が生活する地域一体を支配する二大猫勢力の一つ。

寅組と拮抗していたが、牛鬼が就任してから力が徐々に弱まりはじめる。しかし、組織再建のため行った徴兵政策でジャックが加入したことにより、再び力をつけはじめる。アジト周辺には豊富な食糧や資源があり、それを餌に多くの猫を集めている。兵力の多さでは寅組に大きく差をつけている。

あくどいことも平気で行う。

 

目覚めし猫(めざめしねこ)……数万匹に一匹の割合で存在するという猫。

特徴として人間社会に詳しかったり、猫では考えられない発想を有していたりする。また、熟練度があるらしく、日を追うごとに力を増すといわれている。実は神様によって猫の姿に変えられた人間である。

それ以外にも知られていない事実が存在する。

 

 

10

 

「丑組の件、了解した。お前たちは奴らとの接触を避けながら引き続きミケを探してくれ」

 

「わかりました」

 

太陽はすでに西に傾きつつあったが、寅組は依然としてミケの所在を掴めずにいた。無論、どん吉組のミケ捜索班たちも同じであった。

 

(くそ、ミケのやつどこ行きやがった)

どん吉は焦っていた。

数時間経っても、ボスである虎ノ進親分の指令を達成できていないという理由もあるが、一番は丑組の先鋒隊が寅組の縄張りに進行してきているという通達を、偵察班の部下たちが度々報せに来るからだ。

 

(とっとと見つけねえと。いっそ縄張りの外まで捜索範囲を広げるか?いや、それだと戦力をさらに捜索班に割くことになる。丑組が攻めてきているというのに、それは危険だ。しかし、このまま続けていても無駄に時間が過ぎるばかり……)

いくら考えてもこれといった打開策は思い浮かばなかった。

そうこうしていると、また一匹の部下がどん吉の元へ走ってきた。

 

「どん吉さん報告が」

 

「ん、どうした?ミケが見つかったか?」

 

「あ、いえ……」

 

どん吉は表情を少し曇らせた。

「悪い報せか?」

 

「は、はい。ドングリ野原にて我々寅組と丑組が交戦を始めました。敵の戦力を見るに、今回は少しばかり大きな戦いになりそうです」

 

「ジャックはいるのか?」

 

「いえ、ジャックらしき姿は確認できず」

 

「そうか」

(確かドングリ野原を任されているのは蟹丸だったな。あいつなら援軍は必要ないだろう)

よし、我らは引き続き捜索を……と、伝えようとした刹那。さらにまた別の猫がどん吉の元に走ってきた。

 

(またか……)

ただ今度の猫はかなり険しい表情をしていた。

 

(ん?たしかあいつは蟹丸のところの……)

嫌な予感がした。

 

「どん吉さーん!!!はあ、はあ、大変です。ジャ、ジャックが現れました」

 

「なんだと!!」

それは考えうる中で最悪の報せだった。

 

(まさか奴まで来ているとは)

「ドングリ野原か?」

 

「はい。なので援軍に加わってほしいと蟹丸親分から言伝てを預かってきました」

 

「援軍!?」

どん吉はその言葉に我が耳を疑った。

「あいつ迎え撃つ気か?」

 

「はい。そのようです」

 

「……ばかやろう」

 

「えっ?」

 

ふわりと、どん吉の灰色の毛が逆立った。

「ジャックとの戦闘は避けろとの命を忘れたのか!!」

どん吉の怒号でその場の空気がひりついた。

 

しかし、それでも報せにきた猫は言葉を続けた。

「申し訳ございません!!が、が、しかし。今ジャックは悪魔の爪を装着しておらず、〝俺と近くに陣を張っているラクレア、そしてどん吉の三部隊が合わされば奴を倒せる!〟とのことです」

 

「………」

どん吉は少しの間沈黙し、思考を巡らせた。

 

それは甘いきがする……

 

(ジャックは底が知れない。直接戦ったことはないが、奴の戦闘を見れば分かる。体の大きさ、筋力、俊敏性。そして目覚めし猫だからか、引っ掻きだろうが噛みつきだろうが、こちらがどんな攻撃を仕掛けようが、全ていなされてしまう。恐らく俺たち三部隊だけでは……)

 

しかし、だからといって行動しないのも違う気がした。

事態は急を要している。

 

(それに蟹丸の性格なら我々が合流しなくても、ジャックに挑もうとするだろう。あいつをそんなことで失うのはまずい)

 

「……よし、分かった」

断腸の思いであった。

 

「我々どん吉組も部隊を整えドングリ野原へ向かう。だから、集まるまでは絶対に戦うなと蟹丸に伝えろ!」

 

「はい!!ありがとうございます!!」

その猫はドングリ野原の方向へすぐさま駆けていった。

 

「どん吉さん……ジャックと戦うんですか?」

横で聞いていた部下が尋ねた。

 

「そうなるかもな」

 

「……わかりました。では急ぎ各地に散らばったどん吉組に、ドングリ野原に集合するよう伝えてきます」

 

「頼んだぞ」

「俺は先に向かっている」

 

「わかりました。では、後程!」

 

「ああ」

 

間違った選択をしている………気がする。

それにミケだってまだ見つかっていないというのに……

 

しかし、そんなことを考えても詮無きこと。今は急ぐしかない。

 

そうしてどん吉はドングリ野原へ駆けていった。

 

 

 

 

 

おまけ1

 

お嬢様、今回もご覧いただき誠にありがとうございます。

毎回、そろそろ終わりが近づいてきたかな?と思うのですが、書きはじめると、どうも話が膨らんで中々完結に辿り着けません。これが良いことなのか悪いことなのかは分かりませんが、妥協せずに一歩一歩、完結へと進む所存でございます。なので、ごゆるりとお待ちいただければ幸いでございます。

 

おまけ2

 

最近とても良いことがございました。

私が一番応援しているサッカーの〝鎌田大地選手〟が、とある大会で優勝を果たしたのです。

それはイギリスの〝FAカップ〟と呼ばれるものでございます。

最も歴史があるサッカーの大会としても知られ、決勝戦にはイギリスの王族が観戦するという慣例があるほどでございます。(ちなみに鎌田選手はウィリアム皇太子と握手をし、メダルをかけてもらっておりました)

また、鎌田選手が所属し、今回優勝した〝クリスタル・パレスFC〟は1861年に創設されて以来、初めての主要タイトルでございました。

恐らく、ファンの方々からは永遠に忘れられることのない日本人選手になることでしょう。

 

そしてサッカーの話題をもう一つ。来年はワールドカップイヤーでございます!開幕戦は2026年6月11日予定、つまり約一年後でございます。なので、来年の今頃には、私は変身を書き終え、ワールドカップのブログをきっと書いていることでしょう!

 

ではお嬢様、次回のブログでまたお会いいたしましょう!

 

終わり。

変身7

 

 

明石太郎の居住アパートから一駅ほど離れたところに大きな廃工場がある。

目の前には川が流れており、また、そばの橋を渡った先には民家やら商店街やら、人の住む町が広がっている。

川には魚をはじめとした生き物がわんさか生息しており、さらには人の住む地域のごみ箱を漁れば、猫にとっての食材が豊富に落ちている。

つまりこの人の寄り付かぬ廃工場は猫にとって格好の住処なのである。

そしてそんな楽園とも言える廃工場を住処としているのが〝牛鬼親分〟率いる丑組なのである。

 

開きっぱなしの大きなシャッターから廃工場内に入っていくと、大きく開けた空間が広がっている。天井からは錆びたフックがいくつか垂れ下がっており、三方の壁際にはもう動かないであろう機械が点在していた。機械の周りには機材や鉄材がそこかしこに転がっていた。

そして空間の中央には壊れた平ボディ型のトラックが置かれており、荷台には猫たちが拾ってきたボロいクッションがたっぷりと積まれ、その上に丑組の長〝牛鬼親分〟がふんぞり返って座っていた。

 

ちょうど工場内では丑組の集会が開かれていた。

 

「えー、現在先鋒部隊が寅組の縄張りに進行しており、数か所にて戦いが勃発しております。中でもドングリ野原での戦いが大きく、相手方を率いているのは寅組幹部の一人〝蟹丸〟とのこと」

丑組の下っ端がそう伝えると、牛鬼親分はぶくぶくに太った大きな体をゆっくりと起こし、口を開いた。

 

「ドングリ野原での戦況は?」

 

「やや押されておりますが、そこにはジャックさんが向かっておりますので、到着次第逆転するかと」

 

「よしよし」

「ジャックにはそんな雑魚部隊など早く蹴散らして力を見せつけろと伝えろ!ただし寅組の本陣には攻め入るなよ。あくまで作戦通りにとな」

 

「はっ」

 

さらに牛鬼親分は質問を続けた。

「その他の状況はどうなっておる?」

 

今度は別の下っ端猫が答えた。

「はい。まず手筈通り決戦の噂を各方面に流しており、そちらはほぼほぼ完了したとのこと。さらに戦力の補充に関しては、噂やエサにつられて、かなりの野良猫が丑組に集っております。」

 

その答えに満足したのか、牛鬼親分は醜悪な表情で笑いはじめた。

「ぐっふふふふ。あのくそ忌々しい目の上のたんこぶを、やっとこの手で屠れるわい」

「よし、お前ら!決戦は今日ドングリ野原!日が落ち人間共が寝静まったらじゃ!この戦いで虎ノ進及び寅組を徹底的に潰し、奴らの縄張り一帯を丑組のものとするのじゃ!」

 

「うおーーー!!!」

牛鬼親分の啖呵で工場内に地響きのような歓声が鳴り響いた。

 

 

明石太郎は負傷した猫たちを運べそうなものを探していた。

 

「ええーと、確かこの辺に……おっ!あったあった」

明石太郎はアパートの物置小屋で木製のリヤカーを見つけた。

「あとはこの姿で引っ張れるかどうかだが……」

持ち手の部分に両前足をかけ、バランスを崩しながらもなんとか後ろ足だけで立ち、持ち手を上げた。

「おっとっとっと、難しいけどなんとかなりそうだ」

 

ガラガラとリヤカーを引っ張りながら小屋を出ると、先ほど助けたハチワレ猫に話しかけた。

「おい!そこの猫君よ、倒れている君の友達をこれに乗せたいんだが、手伝ってくれないか?」

 

すると目を大きく見開き驚いた表情でこちらを見ていたハチワレ猫が、ハッとその言葉に気づき、こちらに駆け寄ってきた。

 

「これに……ですか?」

 

「ああ。これなら一度に運べるだろ」

 

「運べるって、どこへです?」

 

明石太郎はリヤカーを一旦置いて答えた。

「君たちは寅組だろ?アジトがあるのではないか?」

 

「えっ!なぜ寅組って知っているんですか!?」

ハチワレ猫は少し警戒した表情で聞いた。

 

「まあちょっとな。おっと、だが勘違いしないでくれ。さっきも言ったけど私は君を助けにきた仲間だ!」

 

ハチワレ猫はその言葉を聞くと俯いた。何かを考えているようだ。

そして、しばらくすると何かを決心したように口を開いた。

 

「あなたはもしや〝目覚めし猫〟ではないですか?」

 

「ん?なんだそれは」

 

「あ、いや……」

ハチワレ猫は当てが外れたのか少し悲しそうな顔をしたが、またすぐキリっとした表情に戻り明石太郎に尋ねた。

「あ、あの僕たちを助けてください!」

 

「あたりまえだ!そう言ったろう」

 

「い、いや違うんです」

そう言うと今何が起きているのかを話しはじめた。

 

今この辺りを支配している二大勢力「寅組」と「丑組」が争っていること。

 

丑組にはジャックという恐ろしい猫がいること。

 

そしてそのジャックに対抗すべく、このハチワレ猫トンカツは〝とある猫〟を探しているという。

 

「なるほど。で、その猫が見つからないから代わりにそのジャックと戦ってくれということか」

 

「は、はい」

 

「そのジャックというのはそんなに強いのか?」

 

「僕も見たことはないのですが、普通の猫では絶対にありえない〝武器〟というのを使ってくるそうです。それで何匹もの寅組の方々がやられてしまったそうで……」

 

「ふむ…」

明石太郎はそうは言っても所詮は猫だからなぁと思い、取り敢えず二つ返事で了承した。

 

「ありがとうございます!」

「ではまず僕たちのアジトにご案内します!」

 

そうして明石太郎とトンカツは、倒れている仲間の猫たちをリヤカーに乗せ、寅組のアジトに歩を進めた。

 

 

 

おまけ

 

明けましておめでとうございます、お嬢様。

久しぶりのブログ、久しぶりの「変身」ということで、よく分からなかったお嬢様もいらっしゃるかと存じます。

そんなお嬢様には是非、変身1〜変身6を見ていただければと存じます。

 

また、続きもなるべく早く書き上げる所存でございます。

 

これからもお楽しみいただければ幸いでございます。

 

終わり。

孤独の登山。

 

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。

あっという間に1月が終わってしまいましたね。

過ぎゆく時間をゆっくりと進ませるには思い出作りが必要なのです。

 

ということで先日はお暇をいただきまして、高尾山に行ってまいりました!

比較的難易度の低い登山コースで、お屋敷のある豊島区からも比較的近うございます。

去年は富士山も登っておりませんし、舞台も控えておりますのでトレーニングにトレッキングはもってこいでございますね!

 

山小屋を降りてから街へ出て鉄の馬車に乗り「高尾山口」という駅までやってまいりました。

 

綺麗な駅でございますね。

登るのは私一人でございますが、一緒におりますのはアクリル能見でございます。

私は未だ自身のアクリルスタンドがございませんので相方に出演していただきました。

ただ、お嬢様には景色をお見せしたいので、今回手元は全部ボケております。

能見さん、ごめんなさい。

 

駅を出ると小さな商店街に出ました。

小規模ながらも整った街並みでございます。

登山シーズンであればもっと活気づく街並みなのでしょうが、現在はちらほらと観光客が訪れるのみでございました。

少し進んでゆきますとケーブルカー乗り場があり、いよいよ高尾山の入り口にさしかかってまいります。

山頂までは徒歩だけでなくケーブルカーでも行けるのですね!便利な世の中でございます。

だが!私は文明の利器に頼りはしない…っ!

身体を鍛えるのが目的のひとつでもございますし、富士山も登頂しておりますので!

そういうわけで登り始めてまいります。

天気は快晴。時刻は10時過ぎでございます。

5分もすると、すぐに息が切れてまいります。

今回も余裕で登れる、というわけにはいかなさそうでございます。

こうした人工の施しがなされているのは誠に有難いことでございます。

日々尽力していらっしゃる地元の方々に感謝でございますね!

 

そうこうしているうちに「稲荷山展望台」に到着いたしました。

開始から30分強でしょうか。

展望台からは既に見晴らしの良い景色が広がっております。

……ヘビなんか出るのか…

そこからずんずんと登ってゆきます。

地面をよく見ると霜なのか昨日降った雪なのかわかりませんが、少し凍っておりました。

1時間ほど経った頃でしょうか。

登山客とはぽつりぽつりとすれ違うぐらいだったのが、にわかに賑わってまいりました。

開けた場所に辿り着くと人が多い!

   

高尾山登頂成功です!

遠くには雪をかぶった富士山も望むことができる眺望でございます。

いやぁ低難度とは聞いてはおりましたが、こんなにも短時間で登頂できるとは思いませんでした。

いい運動になったなあ。

 

………

 

……

 

…ん?

…ほう。奥高尾というものがあるのか。うーむ、陣馬山とやらまで5時間半か。

自分は歩くペースが速いから、日の入りまでには間に合うだろう。

時間もまだ12時を回っておりません。余裕だな。

私は奥高尾へ向かって歩を進めました。

高尾山から少し下って、次の山へ向かって登ってまいります。

先ほどより整備されていない山道になってまいりました。

少しだけ見え隠れしていた霜の割合も増えてきた感じがいたします。

決して多くなかった人通りも更に減ってまいりました。

 

しばらく歩くと再び開けた場所に出てまいりました。

「小仏城山」の山頂でございます。時刻は13時頃。

「こぼとけしろやま」と読むのか…。

写真ではわかりづろうございますが、先ほどより標高が高く気温が低いです。

山頂に天狗様がいらっしゃいました。

背景には夏場は栄えているであろう休憩所がございます。

現在は閑散としており、廃墟さながらでございました。

一通り山頂の様子と絶景を眺めた後、先を進んでまいります。

ここから更に荒れた道でございました。

だんだん歩きづらくなり、進行スピードも落ちてまいります。

少しの距離で体力を削られる行程となってまいりました。

日が当たらない場所は地面が完全に凍っている…!

前人に踏み固められ、所々で足を滑らせてしまいます。

こんな所で転んだらケガしてしまう!あと誰も見ていないけど格好悪い!

少しずつ慎重に登坂してまいります。

 

景信山という山の山頂に達しました!時刻は14時過ぎでございます。

いくつもの峠を越えて、もう何個めの山頂でしょうか。

高尾山からは標高も大分上がり、高尾山から200mほど高い位置におります。

あまり休憩らしい休憩を取っていないのでそろそろ疲れているような気がいたしますが、ひと休みするにも気温が低い!先に進むといたしましょう。

ここまで来ると人影もほとんどございません。

また少し下ってから登っていきます。

 

…先に申し上げておきますと、ここから写真はほとんどございません。

体力が尽きてしまいました。

まだいけると思っていたのですが、急に足が上がらなくなってしまったのです。

自分でも信じられないぐらいに急激に。

下山しようにも周りには人もおらず、静かな木々だけ…。

気が付けば耳が痛くなるような静寂の中にひとりぼっちでございます。

助けを呼ぶこともできません。

さっきの景信山で下山できたのに降りておけばよかった…。

と後悔いたしますが、途中まで来てしまったので戻るも地獄でございます。

標高も高く、気温が低いですし、地面は凍てつき、ぬかるんで足を取られます。

もはや進むしかない…!

私は歩を進めましたが時速1kmほどのスピードしか出ませんでした。

しばらくすると切り株がたくさんある開けた場所に出ました。

ご覧の通り、雪が解けないほどの気温ではございますが、本日は幸い快晴でしたので日光を浴びることはできる!

私はたまらず切り株に座りこんでしまいました。

 

数十分へたり込んでからでしょうか。

図らずも体力が微塵ながら回復したような感じがいたしました。

時刻は16時前。日の入りまでに下山しないと死んでしまうかも…。

何を調子に乗っていたのか…。恥ずかしいやら情けないやらでございます。

足を引きずりながら、少しずつ進んでまいりました。

16時を回った頃。下山道を発見いたしました!

後で知ったのですが、ここは「明王峠」というポイントだったそうでございます。

これも写真だとわかりにくいのですが、人が通る道とは思えないほど急勾配なのです。

もうすぐ日が暮れてしまう!

体力の限界を感じつつも、真っ暗になると余計に危ないので慎重に急ぎます。

元の標高が高いので麓までが長い…。

気が遠くなりそうでしたが1時間ほど降りたところ

人の住処が見えてまいりました!本当によかった!

遭難するかと思ったのでひと安心でございます。

この時点で17時前。日が暮れていたら危なかった…!

 

富士山には登りましたが、5合目から登頂したに過ぎません。

調子に乗ってはいけませんね!

ここからは1時間に1本のバスに乗り、温泉に入ってから山小屋へ帰りました。

 

ゴールの陣馬山に到達するには、あと2時間頑張らないといけないそうです。

私は大変悔しい!いつかはリベンジを果たしとう存じます。

長文の私事になってしまいましたが、久々の遠出でしたのでご容赦くださいませ。

それでは本日はこれにて。