肌色ハロウィン。

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。
的場でございます。

先日大旦那様より呼び出しがございました。

「…どれがバレたのだ…っ!」

心中穏やかではおれず、震えながら大旦那様のおられる大広間へ向かいました。

しかし蓋を開けてみれば意外な事にお叱りではなく、メートルドゥヴァンドゥールとしての新たな使命を頂戴致しました。
私に下された新しい使命とは!

「今年のハロウィンは顔の色を肌色でやりなさい」
との事でございました。

…!!!!!!

「顔を塗らない的場(ハロウィン時のみ)なんて!」

私はショックを隠せませんでした。
肌色のハロウィン的場など、
歌を忘れた百合野!
ダジャレのない隈川!
ノンアルコールの時任の様なものでございます。

私が涙を流して塗りを懇願すると
「どうしてそんなに顔を塗りたいんだ!」
と仰られました。

!!!!!!!!!!!!!!!!!!

…し、至極当然の理由だ…!
理由など、「心が塗れと叫んでいるから」以外の理由がない…。
私はこうべを垂れ、泣く泣く大広間を後にしました。

床に着いた時に少し落ち着き考えました。
大旦那様は私にもっと後輩達の見本になる様に、との想いを託して下さったのでしょう。
今以上の使用人になるには必要な事だと教えて下さったのだと感じました。
自己中心的な考えを恥じ、深く反省を致しました。

お嬢様、そしてカラフル的場ファンの皆様。
今年から的場はドウラン(顔を塗るアイテム)に頼るのをやめに致します。
普通の男の子に戻ります。
少しだけ淋しい気持ちはございますが、ゆるりとハロウィンを楽しむことに致しましょう。

それでは本日はこれにて。

…フフフ。

秋の一日

秋分の日

日本国民の祝日の一つであり、祝日法により天文観測による秋分が起こる秋分日が選定され休日とされる。通例、9月22日から9月23日ごろのいずれか1日。

しばしば昼が短くなって「昼と夜の長さが等しくなる日」といわれるが、実際は昼の方が少し長い。

執事ペディア

「ふむふむなるほど、、、つまりまだお昼の時間が長いのか」
 秋分の日を調べ終えると、明石太郎(あかしたろう)はふかふかの布団に寝ころんだ。
「お昼の時間が長いということは、日が昇り暑い時間帯もまだまだ長いということ、、、」
「最悪ではないか!!!」
「ん?デジャブか!?前にもこんな事があったような、、、」時間は午前一時を回ったところ。

「とは言えこれからは、気温が下がっていくだろう。つまり寒い日に着る服を買わなければならない」
 明石太郎はふと茶棚に目をやった。ガマちゃんは今日もぺちゃんこだった。

「ふっふっふ。想定済みよ!」明石太郎は落ち着いていた。
「こんな事もあろうかと、夏の間にへそくりを貯めておいたのさ!」
「甘いよガマツグ、私を残念がらせようとしたって」

「アリとキリギリスって知ってるかい?遊んで暮らしているだけじゃダメなのさ!今どきの男は冬に向けて準備しているのが格好いいんだ」明石太郎は押入れの奥底からへそくりを取り出した。
「へへへ、8千円もある。これだけあれば洋服以外も買えちゃうぞ!早速明日お勤めが終わったら、買い物に行こうかな」明石太郎は遠足前の小学生の気分を久しぶりに味わっていた。

「なんだかテンションが上がってきたぞ。そうだ、先日染瀬に頂いたお酒を飲もう!」
部屋の隅に置いてあった一升瓶を手元に引き寄せ、小さなガラスのコップに注いだ。

「とても飲みやすい」と言っていたけれど、どうだろうか?
 明石太郎はお酒が得意ではなかったが、ゆっくりと口を近づけた。
「ズズズズズ、、、ん!?ゴクゴク、、、プハ~」
「すごい!水みたいだ。フルーティーな風味でさっぱりとしている一方、味に深いコクがある」どうやら明石太郎は気に入ったようだ。そしてガマツグと酒盛りを始めた。

10分後
「おいガマツグ、今更そんな顔をしてもお金を入れてやらないよ」

1時間後
「いや、実に美味しいお酒だ、、、何?君も何か飲みたいのか?」
「ではこの百円玉をお口に入れてやろう!がはははは(笑)」

2時間後
「君とは何年の付き合いになるだろう、、、今までありがとな。グスン(泣)」
「これからは頑張って君を太らせてやるからな(泣)」

3時間後
「やはり君が悪いんだ!君がもっと固く口を閉じていれば私は浪費せずに済むのだ(怒)」
「明日、貯金箱を買ってきて、君なんてインテリアにしてやる!!」

、、、そして数時間後
「むにゃむにゃ、、、どうやら寝てしまったか」「、、、今何時だ」

「、、、、、13時」「!!!!」

「やばい!遅刻だ!!急がなきゃ!」
 そんな明石太郎をよそ目にガマツグは、ぷっくりと佇み、心なしか笑っていた。

その後、明石太郎はとびっきりの言い訳を考えてお勤め先に臨んだが、真っ赤な顔と酒臭さの前には、どんな言い訳も通用せず、上司の顔を何倍にも膨らませた。

終わり。

※明石太郎と明石は別人でございます。

初めまして

お嬢様、お坊ちゃま。
奥様、旦那様。
新人ヴァンドゥールの才木でございます。

9月より大旦那様にお許し頂きまして、
ギフトショップにてお仕えしております。
まだ慣れぬ点もございますので、
ご迷惑をおかけすることもあるかと存じますが、
今後ともよろしくお願い致します。

……などと申しましても、
疑問符が浮かぶ所ではあるかと存じます。先に申し上げた通りギフトショップでも
皆様のお世話を任せられることになりました。
今一度新人の気持ちを思い出し、
新たな気持ちでお仕え出来ればと考えております。

今までは後輩と考えておりました
赤井・明石ですが、
右も左も分からないギフトショップで
こんなにも頼りになる2人はおりませんでした。
的場も今まで様々な場面で
共にお務めを果たして参りましたが、
改めてギフトショップにて
とても頼りになるということを実感致しました。
桐島もティーサロンにて長く一緒に務めて参りましたが、
見えなかった一面があるなと
感じるところが多くありました。

ということで!
私の独断と偏見によるヴァンドゥール紹介を
させて頂きたく存じます。
どうか生温かい目でご覧くださいませ。

―――

⚫赤井
ギフトショップ的場一家長男赤井にございます。
洗練された焼き菓子や紅茶の知識は
舌を巻くものがございます。

また日頃はあまり意識しなかったのですが、
身長が180ございまして
近寄りますと想像より大柄です。
桐島や的場がおりますので目立ちませんが、
私や明石の隣に立ちますと一目瞭然。
日頃の柔和な喋り口調からは想像出来ないところです。

ギフトショップ愛に関しては
的場に張るものがあると存じます。
日々お嬢様により良いものをお届けする為、
研鑽に励んでおりまして、
私自身も様々なことを教わりました。

特に皆様にお見せするPOPを描く才能は秀逸です。

当月のオススメは
「マロンケーキ」にございます。

⚫明石
私の中で一番イメージの変わった使用人かも知れません。

宿舎などでも言葉を交わすことはございまして、
面白い使用人だとは感じていたのですが、
胸に秘めた熱いパッションを感じとれていませんでした。

皆様と快活にお話する彼の姿を見て、
その話題の広さや使用人としての資質は
素晴らしいものだと感じました。
(私ごときが何をというのはありますが)

このブログも拝見したところ
その文才にも触れまして、
これは何かをやってもらいたい。
出来れば一緒にやってみたい。
そう感じております。
……大旦那様、皆様いかがでしょうか?

当月のオススメは
「ハニーミルククッキー」でございます。

⚫桐島
ギフトショップで見ると何倍にも大きく見えます(物理的にも)。
近頃のバンプアップの成果でもあるかと存じます。

冗談はともかくと致しまして、
桐島は皆様を楽しませようという
奉仕の心が強い使用人でございます。
それは日頃のお給仕や
ギフトショップのお務めにおいても、
発揮されております。
またデザインなどの側面においても
感じられるところにございます。

ティーサロンにて給仕していると、
他の使用人の給仕を横で見ることは
中々難しゅうございますので、
改めて感じたことでありました。

全く話はズレますが
桐島と明石の絵本でもお作りしたら、
面白くなりそう気が致します。

当月のオススメは
「テリーヌショコラ(冷凍スイーツ)」にございます。

⚫的場
ご存知メートゥルドゥ・ヴァンドゥールでございます。
今までフォトブックDVDなど様々な場面で、
会話を交わすことはございましたが日常のお務めを共にするのは初めてのことでございます。

皆様とお話しされている様子を拝見致しますと、
焼き菓子や歌劇団に関する愛情が
よく伝わって参ります。

ギフトショップ愛において、
右に出るものはいないと
自信を持って申し上げられます。
使用人として追いつけ追い越せではないのですが、
的場に1歩でも迫れるよう努力を
していきたい所存です。

当月のオススメは
「和梨のクリームタルト」にございます。

―――

以上メンバー紹介でございました。

ちなみに私の当月のオススメは、
勿論「ペンギンクッキー」でございます。

まだまだヴァンドゥールとしては
新人でございますので、
1日でも早く皆に追いつけるよう、
誠心誠意努めて参ります。

皆様におかれましても
改めてではございますが、
是非ギフトショップにもお立ち寄り頂ければと存じます。
美味しいもの楽しいもの一杯ご用意して、
皆様のお戻りを心よりお待ちしております。

才木

オータムハム

いかがお過ごしでございますか。桐島でございます。

秋。様々な事が活発に行える季節でございます。

私は年がら年中筋トレの秋でございますが、皆様はどの様にお過ごしでございましょうか。

勉学に勤しむもよし、食に奔走するもよし、運動に明け暮れるでもよし…

おや?決めかねていらっしゃいますか?

ではここで富田にアドバイスを頂きましょう。

うん知ってました。

是非とも美味しいものが欲しい時はギフトショップに足を運んで下されば幸いでございます。

それではまたお会い致しましょう。

明石だらけ。

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。
的場でございます。

ここのところ明石の溢れ出る文才が止まりません。
彼はシャイなところがあり、写真や歌や演技が苦手なのでございます。
もっとも実際に歌などを聞いたことがないので自称ではございますが…。

このギフトショップのブログを書くように申したところ
「初めはお嬢様にご挨拶程度のものがよろしいでしょうか」
という温度感だったのにも関わらず、いきなりの「明石太郎」の登場でございます。
私は原稿を持つ手を震わせたものです。

「て、天才だ…!」

独特な世界観は留まることを知らず、容量もどんどん長文になっていきました。
妄想旅行やホラー作品の楽しみ方など、徐々に内容もディープなものに…っ!
遂には他の使用人の提出頻度をはるかに越え、先日の「走れ明石」などは三部作になる始末。
自己表現が苦手(自称)という明石に練習の場を与えるぐらいのつもりが、
とんでもない鬼才を生み出してしまいました。

方向性の違いはあれども、伊織や隈川と同じ長さの才能を感じます。
何か彼のセンスを活かす土俵はないものか…。
如何にすればこのモンスターの能力をのびのびと開花させられるでしょう。

映画が好きな様なので「劇場版 的場の山小屋」を撮らせるか、
それともクルーザーに乗せてマグロを釣るところから捌くところまで動画にするのか?
明石脚本を執事歌劇団が朗読するのもよろしいですね。

夢は広がるばかり。
執事歌劇団にひけを取らない様な活躍をしてほしいものでございます。
これからも明石先生の作品にご期待下さいませ。

それでは本日はこれにて。

怖い話

明田 太郎(仮名)さんの投稿

 これは数ヶ月前の出来事です。

 その日は珍しく仕事が定時で終わり、帰って一杯やろうかと考えていました。ただお酒だけでは物足りないので、「つまみに映画でも」と思い立ち、近所のビデオ屋に寄ることにしました。

 私は映画好きだったこともあり、そのビデオ屋にはよく通っていて、店長とも仲良くなり映画について語り合ったりしていました。

 しかしその日は、いつもレジカウンターにいるはずの店長がおらず、代わりに見たことのない30代後半くらいの男がレジカウンターで俯きながら何か作業をしていました。

「あれ?今日は休みかな」と思いつつも、その男に「店長、いらっしゃいますか?」と聞いてみると、男はゆっくりと顔を上げ、ボソッと「いいえ」とだけ答え、また俯き作業を始めました。普段なら「愛想悪いなぁ」と思うのですが、その時だけは変な違和感を覚えました。

 まずその男の顔ですが、とても特徴のない顔で肌は青白く、目も虚ろで焦点がどこにも合っていない印象を受けました。さらによくよく店内を見回すと他のお客さんが一人もいないのです。

 確かに、このお店は大型チェーン店などとは違い、この地域にしかない小規模なお店でしたが、それでもこの時間帯ならそれなりにお客さんもいるはずなのです。

 何か冷ややかな空気を感じましたが、気にしてもしょうがないので借りる映画を探し始めました。5分くらいして「あっ!そういえば前借りれなかった映画あるかな」と前回の記憶を思い出し、置いてある棚に向かいました。

 見てみると空のケースしか置いておらず、「もしかしてずっと返し忘れてるんじゃ、、」と思い、気は進みませんでしたが、あの店員に聞いてみることにしました。レジカウンターの方へ振り替えると、
私は思わず”ギョッ”としてしまいました。

 そこにはあの店員が、体は正面のまま頭だけが違う方向を向き、一点を凝視していました。その時だけは焦点が合っていたような気がします。

 その光景に一瞬固まってしまいましたが、何を見ているのか興味が湧き、店員が見ている方向に目をやりました。そこには(中古品販売)と書かれた棚に古いDVDが置いてありました。

 私は店員のことなど忘れ、何かに魅入られたようにそこに近づきました。その時点であのDVDを手に取るのは必然だったのかもしれません。

 置いてある品はB級映画や聞いたことのないアーティストのライブ映像など様々ありました。なんとなくその棚を見ていると、一つ奇妙なDVDが目に留まりました。真っ黒なケースに赤い文字で「怖い話」と、書いてありました。

 私は斬新なパッケージに興味を惹かれ、購入することに決めました。レジカウンターに向かうとあの男はまた俯いていました。「すみません。これ下さい」そう言うと店員はゆっくり顔を上げ、「○○円です」とバーコードも読み取らず、ボソッと呟きました。

 その瞬間、「この店員が見ていたのは棚全体ではなく、このDVDだったのではないか」と思い、借りるのを躊躇しましたが、なおさら何が映っているのかという好奇心の方が勝り、会計を済ませました。

 家に帰るとまずお風呂に入り、軽い晩御飯を済ませ、あのDVDを見ることにしました。買ってきたビールを開け、「怖い話、、、ホラーだよな」そう思いながら再生し始めました。私はホラーが苦手ではなかったのですが、ビデオ屋での出来事と相まって、ちょっとビビっていました。

 映像はメニュー画面も何もなく、いきなり本編が始まりました。

 映っていたのはどこかの森の映像、よく見ると真ん中に古い井戸があり、思わず「リ〇〇?」と声を出してしまいました。しかしその有名な映画とは違って、一向に何も起こりません。一応時間は経過しているようで、静止画ではありませんでした。

 5分経っても何も起こらず、気持ちも冷めてしまい、「消そうかな」とリモコンのボタンに手を伸ばした時「ペタ」と何かの音がテレビから聞こえてきました。

 慌ててテレビを見ると井戸の縁に手が掛かっておりました。そして次第に井戸の中から白いワンピースを着た女性が這って出てきたのです。
「うわっ!!!」私は声を荒げてしまいましたが、一旦落ち着いて見届けることにしました。

 女性は少しづつ井戸から出てきており、完全に出ると今度はゆっくりとこちらへ近づいてきます。

「、、、まさかな」

 画面の中の”それ”は、おぼつかない足取りで近づいてきます。一歩、二歩、、、

 残り十歩ほどの所まで来てしまいました。

「まさか、、偽物だよな、、、、」

 九歩、八歩、七歩、、、そのあたりから何か本物めいたものを感じ始めました。

「ま、ま、待ってくれ」しかし”それ”は止まりません。そしてゆっくりと青白い手がこちらに伸び始めました。

「もう無理だ!!!止めよう!!」そう思い、停止ボタンを押そうとした瞬間

「ガガガガガ、、、、」と、テレビから故障音が鳴り出し、そこで画面も止まってしまいました。
「、、、こ、故障?」「それとも、終わった、、、のか?」「何はともあれ助かった」
 
 丁度”それ”が画面に触れるくらいで映像は止まっていました。

 私は落ち着きを取り戻し、気が抜けると、何だか催してきました。「取り合えずトイレに行くか」そうしてビデオをそのままにし、部屋を後にしました。

 帰ってくると映像はまだ井戸の画面で止まったままです。
「ふー。今日はもう寝よう、、、、、、、、あれ?、、あの女性は?」テレビには森と井戸しか映っておらず、あの女性はいませんでした。
「まだ続きがあったのかな?」私は深く考えるのをやめ、眠りにつきました。

 次の日、私は朝早く出社すると、早速同僚のAに昨日の出来事を話しました。
私「本当なんだって!〇〇グみたいな映像でさぁ」
A「どうせ、誰かが作った偽物だろ」
私「まぁそうだけど、本当リアルなんだって!そうだ今日仕事終わったら、うちに見に来いよ!」
 Aは中々首を縦に振りませんでしたが、私の熱弁に負け、泣く泣く承諾しました。

A「わかったよ、終わったら行くから。そのかわり酒でも奢れよ」
私「よし!絶対面白いから、期待しとけ!」昨日の出来事が嘘のようにわくわくとした気持ちで、仕事に取り掛かりました。

 思ったよりも早く仕事が進み、今日も定時くらいで帰れそうでした。
私「A、終わりそうか?」
A「まだもう少し掛かりそうだ。まぁ、切りの良い所で終わらせるから、先帰って準備しててくれ」
私「わかった!酒も買っとくよ!」そう言い残し、会社を後にしました。

 スーパーでお惣菜やビールを買い込み家まで歩いていると、途中あのビデオ屋の近くを通りました。
「そういえば今日は店長いるかな?いたらあのビデオについて聞きたいな」そう思い、立ち寄ろうかと考えましたが、今日はAが来るのでまた時間のある時に寄ることにしました。

「ガチャ」鍵を開け家に入ると、早速買ってきたお惣菜を用意しました。「いやぁー見てたらお腹空いてきたな、、Aには悪いけど先に一杯やろうかな」私はビールを一本取り出し、先に頂くことにしました。

「ゴク、ゴク、ゴク、、ぷはぁ~」「仕事終わりのビールは最高だ!」

「ゴク、ゴク」「ゴク、ゴク」「ペタ」「ゴク、ゴク」「ペタ」

「あれ?」ビールを飲む音の合間に何かが歩いている音が聞こえてきました。その音は隣の部屋から聞こえてきます。そして、こちらへ近づいていました。「ペタ、ペタ」「ペタ、ペタ」「ペタ、ペタ」

「ガチャリ」

 その音は明らかに隣の部屋を開けた音でした。そしてその音と共に汗がブワッと吹き出しました。
「嘘だろ!!、、、まさかあの時」考えたくはありませんでしたが、「昨日画面から女性が消えていたのは、映像が進んだからではなく、画面から出てきたってこと!?」

「ぷつん、、、」そんな事を考えていると今度は部屋の明かりが消えてしまいました。
「うっっっ、、、」いきなりの停電に叫びそうになりましたが、今叫ぶと位置がばれてしまうと思い、声を押し殺し、慌ててテーブルの下に隠れました。

「ガチャリ」今度はこの部屋の扉を開ける音がしました。
 そして「ペタ、ペタ、ペタ」もう、すぐ近くにいるような気がします。「やばい、、逃げないと」しかし足が震えて力が入りません。「くそ、動いてくれ」そう思った刹那

「プルルルル!」近くに落ちていた携帯が鳴り出しました。件名はAと表示されていました。

「A!!」そう喜んだのも束の間、携帯の光に照らされた”あれ”が、目の前に現れたのです。

 真っ赤な口がニヤッッッと笑っており、目は白い部分が無く、真っ黒で穴が開いているようでした。しかし焦点は私と合っているような気がしました。

「うわぁぁぁぁぁ!」私は急いでそこから走り出しました。「早く外へ出なきゃ!!!」体中を壁にぶつけながら、玄関に向かいました。

 ところが玄関に向かっているはずが、違う部屋に辿り着いてしまうのです。
「あれ!?なんでだよっ!」
 寝室、トイレ、洗面所、そして最初にいたリビングと、いつまでたっても着きません。

 さらに「ペタ、ペタ」と、ゆっくりとした足取りのはずの”あれ”が、常にすぐ後ろにいるような気がします。「dzxぇxyあ」と、何か言葉らしきものも聞こえてきました。

「もう、、無理だ、、」そう諦めかけた時、「ピンポーン」と、インターホンが鳴りました。
「ハッ」と、その音で我に返ると、手で何か金属に触れているのに気づきました。それは、玄関のドアノブでした。いつの間にか扉の前まで来ていたのです。

 私は急いで鍵を開け、外へ出ました。
A「どうしたんだよ、部屋も真っ暗で。電話したんだぞ!」
私「A!!あ、あいつが、、あれが、、」「お前の家に泊めてくれ!」「きょ、今日は!!」
 
 その時のAは私が何を言っているのか、さっぱり分からなかったそうですが、私の様子があまりにも変だったので、私を取り合えずAの家に連れていってくれたそうです。(その事は全然覚えていませんでした)

 翌日、私はずっとAの家に居るのも申し訳ないので、あのビデオ屋に行くことにしました。ビデオ屋に着くとその日は店長がいました。

店「あれ、久しぶりじゃない」
私「あの、、今日はお聞きしたいことがあって」私は一昨日ビデオ屋に来てからの事を店長に話しました。

「ん~、おかしいなぁ、そんなDVD置いて無かったと思うが」そう店長は言うのでした。そしてあの時いた30代後半くらいの店員のことも、知らないと言うのです。

 その後、私は店長を連れて自宅へ帰りました。扉を開ける瞬間「あの顔がまた目の前に現れるのでは」と思いましたが、それも杞憂に終わり家には誰もいませんでした。DVDはまだ置いてあり、再生してみましたが、砂嵐の「ザザザ」という画面しか映りませんでした。

店「確かにパッケージには、うちで取り扱ってるマークが刻印されてるな、、、」「取り合えずこれ、近くのお寺に持っててみれば?」私は頷き、お寺で供養してもらうことにしました。
 
 お寺に着きお坊さんに渡し事情を話すと、すごく怪訝な顔をされました。ですが供養が終わると「もう大丈夫です」と言われ、さらに「しかし一年くらいは、あなたが見た”何か”が近寄らないように、これを持っていてください」と、紐の束のような物でできた人形を渡されました。

 それからは人形の効果もあってか、普段通りの生活をしております。

〈追記〉

 そういえば二つほど話してなかったことがあります。

 一つは、あの時Aがすんなり私の事を受け入れてくれた理由ですが。私の様子の他に、私が扉を開け出てきた瞬間、聞いたことのない掠れた女性の声で「で、れ、た」と聞こえ、今私の家に入るのは、まずいと思ったからだそうです。

 そして二つ目は、「何故、数ヶ月前の事を今になって書いているか?」という事ですが。

 最近、あの人形が何処かへ消えてしまいました。そして外を歩いていると、あのビデオ屋の男に似た何者かを目撃する事が多く、必ず真っ黒の目でこちらを見ているからです。

終わり。