狭間にあるもの

敬愛せしお嬢様へ

窓からお庭を眺めると、寒さの残る中にも早咲きの花や淡い緑が垣間見える季節でございます。
朝はまだ冷えますゆえ、お目覚めの紅茶などでお体温めてくださいませ。

紅茶と申しませば、先日影山と共に珍しくエクストラティーのご用意を務めさせていただきました。
シェイクにて仕上げます、カクテルとエクストラティーの中間のような品でございましたが
お楽しみ頂けたなら幸いでございます。

逆に、紅茶やお茶に寄ったカクテルというのも世にはたくさんございまして
アマレットと紅茶で作る「イタリアンアイスティー」や、桃と烏龍茶で作る「レゲエパンチ」などもお手軽でおいしくおすすめでございます。

オリジナルカクテルにおいても、時任は頻繁に茶葉やハーブを材料の一つとして使用いたします。
ジントニックにローズマリーや緑茶の茶葉を少し加えて風味づけをすると大層美味しゅうございますし、ラムやブランデーベースのカクテルをソーダの代わりにディンブラやニルギリなどのアイスティーで割ってもお味が良く合い、優しい風味のお酒を楽しめます。

機があれば、そんなカクテルと紅茶の融合に特化した「エクストラカクテル」を供してみるのも面白そうでございますね。
ぜひ楽しみにお待ちいただければ幸いでございます。

新年のご挨拶

敬愛せしお嬢様へ

新年おめでとうございます、お嬢様。

新しい年を迎えまして、気持ちも新たに勤めさせて頂こうと決意を固めながら
こたつで猫と共にみかん熱燗を作って楽しんでおります。
砂糖醤油でお餅を焼いて、お酒のお供にご用意し
猫たち用にささみのおやつを出してあげたら、もうこたつから一歩も動く気になりませんね。
しっかりお勤めしていく決意とはなんだったのでしょうか
まぁ、7日の開館まではのんびり過ごさせて頂くと致しましょう。

昨年は新たな使用人たちも多数加わり、また新たなお屋敷の時代が築かれつつある印象でございました。
今年は彼らも、日頃の給仕の技量を互いに磨きあっていくのも勿論ですが、
ギフトショップでのスィーツやお屋敷でのケーキやアイス、カクテルやエクストラティーなど
よりお嬢様の笑顔の糧となりますよう、挑戦していく者も多うございましょうから
ぜひ見守ってやってくださいませ。

もちろん新人たちに負けませんよう
ベテランたちも、時任も
これまで通り尽力すると共に、それぞれ新たな挑戦にも挑ませて頂き
よりお嬢様に楽しんで頂けるよう努めさせて頂きます。

使用人たちが待つお屋敷へと、
今年もどうかたくさんお戻りくださいませ。

冬の朝の護身訓練

敬愛せしお嬢様へ。

まるで舞台の幕が切り替わったかのように、すっかり真冬の気候になってまいりましたね。
こうなると何と言っても朝お目覚めの時にお布団から出るのが大変かと思います。

以前にもお嬢様にお薦めさせて頂いたことがございますが、
冬の朝には目覚めたらまずお布団の中でトレーニングするのが私の日課でございます。
軽く腹筋運動をして、寝返って背筋運動、そのまま腕立て伏せ。

さほど回数を重ねなくても、これで十分布団から出れる熱量は得られますので、朝の元気なお目覚めには大変合理的でおすすめでございます。

他に取り入れておりますのが、肘と膝、肩や腕の柔軟運動でございまして。
膝を抱え込むように左右数回ずつ胸元まで膝を上げて下ろす。
右肩に左の肘を近付けられるだけ近づけるつもりで抱えて、右手でそれを抱えて肩の筋を伸ばす。

これを左右数度繰り返すと、体の普段使わない部分がほぐれて大変お体にも良うございます。

最初はあまり無理なさらず、程々の力で行いませんと逆にお体を痛めますのでご注意くださいませ。

さて、この肘や膝を運動させておくと、普段使わぬままでいるより圧倒的に体の稼動性が異なります。
疲労しやすさや肩こりなどの改善にも効果的でございますし、
また、剣呑なお話になってしまいますが、年末年始が近く街に酔いどれが増えてまいりますと、不埒な輩も増えてまいります。

いざという時の護身術というものは貴人として心得ておいでとは存じますが、筋力や体躯に頼らず効率よく相手にダメージを与えるには肘や膝を使った不意打ちが一番有効でございます。

万一不埒者に暴行を受け、逃れ辛いようなら、肘でも膝でも体重を乗せて相手に叩きつけ、そのまま一気に逃げる。
そして然るべきところにすぐ助けを求める。
これが万一の時には一番効率良い自衛法でございます。

心地よいお目覚めのために。
また、万が一の時の護身訓練に。

お布団の魔力に囚われた時は、肘膝の柔軟体操をお試しになってみてくださいませ。

トーナメント

敬愛せしお嬢様へ

瞬く間に秋から冬へと気候が移りゆき、コートはもちろんのことマフラーや手袋のお仕立ても急ぐべき寒さにございます。

お気に入りのものが見つかれば良うございますが、叶わぬようであればいっそお抱えデザイナーたちに命じましてお嬢様用のデザインを作らせた方が早いのかもしれません。
どうかご検討くださいませ。

さて、暦の進みも早いもので、このお手紙が御許に届く頃には年越しも見えてきてる頃でございましょう。
お休みの時期は本家に戻られますか?あるいはご別宅でゆっくり過ごされますか?
いずれにしても、お正月休みというのはお暇を持て余すものでございますから
珍しく時任もおすすめの映画などお伝えしてみることに致しましょう。

他の皆のように映画への造詣がございませんもので、ややライトなものではございますが
20年ほど以前の古き娯楽映画「ロック・ユー!」を此度はお薦めいたします。
中世英国の騎士たちの物語でございまして、当時の騎士たちや貴族たち、平民たちの暮らしも垣間見える楽しい作品でございますが、
一風変わったことに、騎士の物語と言ってもこの映画は戦争映画でもなければドラゴンを倒すお話でもございません。

この映画はスポーツ青春物語でございます。

既に「??」マークがお心に浮かんでいるかと存じますがお聞きください。
中世騎士たちも24時間365日戦争をしていたわけでもドラゴンを狩っていたわけでもございません。そも中世とて平和な時期の方が長かったわけでございまして。
そんな中でも騎士たちは互いの武芸を鍛え、それを競い讃えあうために「トーナメント」という競技を盛んに行っておりました。

英国各地の貴族階級・騎士階級を持つものたちが一堂に集い、試合として武芸を競い合う、
各貴族の名誉を賭けた一大イベントだったようでございます。

小剣や大剣での勝負や、弓や乗馬の技量など様々な種目があったようでございますが、
どれよりも花形と言えるのは、騎兵槍という3メートル前後の長大な槍を持って馬に乗り、
互いに向き合って愛馬を駆けさせ、槍を見事に相手の騎士に命中させようと競う、
そんな勇猛な競技でございました。

と言ってももちろん槍の穂先は刺さらないよう潰され、槍の素材も金属ではなく柔らかい木製とされ、相手の体に命中すると槍が砕けて衝撃を緩めるような仕様ではございましたが
それでも訓練された戦馬同士が駆け、金属の全身鎧を着た騎士が吹き飛ぶようなこの派手な競技は、娯楽が少なかった当時の英国にとってはそれこそ今日のワールドカップのように大人気の催しでもございました。

名誉に憧れ、そんな「トーナメント」へと挑戦した1人の若者。
彼を支える個性溢れすぎる仲間たちや、貴婦人との恋、火花散らす宿命のライバル、生き別れていた肉親との再会など、ちょっとした少年漫画かのような王道の熱い物語がお楽しみ頂けます。

ぜひご覧になってみてくださいませ。

余談ですが、時任個人としてはこの映画に出て参ります「紋章官」という役割の者たちが興味深うございました。
以前から貴族に関する知識の専門家として「紋章官」という存在がある事は知っておりましたが、具体的に何をする人なのか良く解らないままでおりましたので、この映画内にて活躍しておりますのでそちらもご注目くださいませ。

 

どうか、良きお休みをお過ごしいただけますように。

 

 

‥私ども使用人の方は、お休みがあるのかどうか、まだちょっと疑わしいところですが。

潰す

敬愛せしお嬢様へ
暑い暑いと言っていたはずが、いつの間にか紅葉鮮やかに色づき
すっかり秋が深まっておりました。

紅茶が一層美味しく感じられる時期でございますし、
お食事もこの季節ならではの品がたくさんございますから
キュイジニエたちも大層張り切っておりますね。

そんな季節、あれもこれも美味しそうだと、ついつい買い物の手が伸びてしまい
贈り物なども多い時期ですから、果物が余ってしまって困ることなども
多いのではないでしょうか。

そんな時はお料理に使ったりジャムに仕立てたりするのも良うございますが
当家バーテンダーといたしまして
より簡単に美味しく召し上がっていただくおすすめの手法を
いくつかご紹介いたしましょう。

秋ならではの食材ですと、柿などは適当な大きさに切っていただき、先にグラスに入れてから潰していただいて、そこにお好みのお酒を注いで頂くと美味しゅうございます。

日本酒の冷やや熱燗も良うございますし、
柿は意外とウィスキーと合いますので、ウィスキーロックやハイボールもお楽しみ頂けます。

果物を潰す時に「ペストル」という器具があると便利でございますが、
わざわざご用意なさるのもご面倒でしたら、お箸などをひとまとめ束にして逆さに持って頂くと
果物をグラスの中で潰すには便利でございます。
お怪我なさらないよう、お手元を布などで包んでご使用くださいませ。

柿でなくとも、さまざまな果物を同様の手法でお楽しみ頂けます。
また、お酒以外でも。
潰した果実にお茶を注いて頂いてフルーツティーにしたり、
果物を潰して砂糖を振りかけてから炭酸水を注いでフルーツソーダにするのも
季節のお味をお手軽に楽しんで頂くには良いものでございますよ。

他のジュースをお召しになる時に、季節のフルーツを潰していただいて
季節のミックスジュースにするのも良いですね。
柿とオレンジジュース。梨と葡萄ジュース。柚子とグレープフルーツジュースなどは
とても相性が良うございますから、ぜひ一度お試しくださいませ。

今年の秋も短そうでございます。
されどその短い季節を、たっぷり謳歌して頂けたなら幸いでございます。

箱を開かない限り猫が永遠に生きると言う視点ならばある意味同義

敬愛せしお嬢様へ

暦は秋に変われど、まだ汗ばむような日も多うございますね。
水分、塩分はもちろんのこと、甘いものやビタミンも多めにお取りいただき、
体力を損いませぬようどうかお心掛けいただければ幸いにございます。

さて、時任もありがたきことに十数年の時をお屋敷にて過ごしておりますが
ともすると懐かしき旧知からお手紙が届くこともございます。

もとより中世欧州の時代から、フットマンというものは若者が世に出る前の修行期間のような側面もございました。
此処で己を育み、そのままお屋敷に仕え続ける道を選ぶものもあれば、新たな道を見出して羽ばたいていく若者もあり、その繰り返しでお屋敷は紡がれております。

なればこそ、現在に至るお屋敷の一節を担ってくれた者たちが、それぞれに彼ららしく頑張っている知らせが届きますと、つい安堵して目を細めてしまうばかりでございます。

‥それ以上目が細くなるのかですと?
そんなことを仰せになる方にはツェノンの背理について小一時間講義して差し上げましょう。

そんな懐かしいお手紙を書斎の引き出しに仕舞い込み、ティーサロンへ様子を伺いにまいりますと、若々しきフットマンたちが今日もお嬢様方の御為に元気に立ち働いております。

近年特に著しく顔ぶれも変わり、ともすると久々に御帰宅のお嬢様には「知っている顔が1人も居ない」なんて仰せ頂くこともございます。
されど、なかなか有望な若人が多く、早くも一端のフットマンのように生き生きと振る舞い、お屋敷の一端をしっかり担う者もおり、お屋敷の未来も安泰のようでございます。

また一つの世代が形成されつつあるのを眺めながら、
時折、15年前から現在までの様々な世代が笑いさざめき、そして優雅にお仕えしていたティーサロンをその向こうに透かし見てしまうこともございます。

時任が段上からフットマンたちを眺め、目を細めて笑っておりましたら
お屋敷の歴史を透かし観ているのだと思ってくださいませ。

‥それ以上目が細くなるのかですと?

‥‥よろしい。
良いですかお嬢様零と壱の間には分数や小数点以下形式はなんでも結構ですが設定数値を細かく刻み続ける限り零と壱の間には無限個数の数値が存在することとなり永遠に零にならない二次曲線を描くことになり得ます私の目も細めたところで零では無い僅かな数値が存在するからには現状より無限範囲で細めることが可能なわけで五月蝿いとはなんですかそもそも目を閉じていない限り零ではないのですから壱と言うほど開いていなくてもそこに確かに瞳はあるわけで開いてみないとわからないと言うシュレッティンガーの猫の理論とは真逆に位置するのがツェノンの背理でございま起きてくださいお嬢様ここからが良いところなんですからほら目を開けてって閉じてないからセーフですとそんな屁理屈を仰るものじゃありませんまったく。

グリーンカーテン

敬愛せしお嬢様へ

真夏の日々が続いておりますが、お体の調子崩されたりはしておりませんか?
水分や塩分のこまめな補充がとにかく大切でございます。
喉の渇きを覚えてからではなく、なるべくこまめに水分をお取りくださいますようお願いいたします。

古来、暑さを凌ぐ方法はいろいろとございますが
西洋屋敷においては壁を伝う蔓草を育て、屋敷の窓や壁面を覆うのも
暑さを凌ぐに良き対策だったそうでございます。
純粋にカーテンのように日光を防いでくれるのに加えて、葉面などから微弱に水分を放出し排熱する性質が、熱を通さない良き断熱層の役割をこなすようでございますね。

実際どのようなものかと庭師に聞いてみましたところ
通年お屋敷の壁を覆う蔦などとは異なり、暑さをカーテンのように防ぐ目的であれば
壁全てではなく、窓などのみを覆うだけでも効果が得られるため、ご別邸などでお試しいただくなら窓より少し大きいサイズの格子などを外側から窓に立てかけていただいて、その足元に蔓草を植えた植木鉢やプランターをお置き頂けばよろしいようです。

蔓草の類は成長が早いので、夏に向けて育てれば季節中には窓を蔓草が覆いますし、夏が過ぎて日光を窓に取り入れたい季節は格子ごと取り除いていただくか場所を移動していただけばよろしいようで、季節に応じた運用が可能なようでございます。

さて、肝心の植える植物は何が良いのかと調べてみましたところ、面白いものがいくつかございました。
季節にそぐい美しいのはアサガオでございましょうか。
子供の頃に植木鉢で育てた思い出をお持ちの方も多いかと思いますが、大きめのプランターに種も複数撒き、大きな格子を添えてあげることで、子供の頃の思い出よりもさらに広く大きく育つアサガオを楽しんでいただけるかと存じます。

夏の朝に咲き誇るアサガオを愛でて一日を始めるのも素敵でございますね。

ミントも非常に成長が早く、より短期間で窓を覆わせるには最適でございます。
清涼感ある香りゆえ涼けさも一層感じられ、防臭・防虫効果も期待できる優れものでございます。
ただ、ミントの香りそのものがお苦手だとお薦めできませんのと、成長力が強過ぎますため、油断なさいますと窓どころかご別邸の全てにミントが蔓延る事態に陥りますのでご注意くださいませ。
いつのまにか壁の隙間から根を伸ばして繁茂し、ある日ふと天井を見上げたらミントがびっしり生えていたなんて笑えない事例もあるぐらいでございます。

新鮮なフレッシュミントのハーブティーがいつでも飲めるのは素敵でございますが。

ハーブティーと申しますれば、バタプライピーやジャスミンなども日除けの蔓草として有益だそうでございますよ。
窓辺でハーブを育ててのフレッシュハーブティー三昧というのも一興でございますね。

キュウリやゴーヤにも、窓辺で育てられる品種があるそうでございます。
涼しくお過ごし頂きながら自家製のサラダ用野菜を育てられるというのも、なかなか優雅でございますね。

お屋敷本邸の窓も蔓草のカーテンを試してみるべきでしょうか。
庭師やお庭担当の使用人たちに、相談してみることにいたしましょう。