迷いねこ

ようやく秋の気配を感じられるようになってまいりました。
蝉の声はすでに遠く弱く、落ち蝉の乾いた腹が聞かせる幻であるかのようです。
秋の虫へ継がれた楽譜は同じ愛を歌っているにもかかわらず、蝉のそれとは対照的に、月と闇とに抱かれてもの悲しさを湛えているように聞こえてまいります。
わたくし個人といたしましては、彼ら秋の虫の声色の方が筆のさまたげにならない分、その思いを応援してあげたい気持ちになるものです。

いかがお過ごしでございますか。
伊織でございます。

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君さらう 色なき風と 終列車

目を傷めるような陽の強さに閉口する毎日でございますが、そんな陽にどことなく赤味が見て取れるようになると、いくらかは涼しい季節へと近づいているのだろうかと
期待せざるをえません。
いかにして暑を避け涼をとるかは、まだまだ当面の課題であるようです。

先日ちらとお話ししたローズヒップのコーディアルもよろしいですが、この季節にお召し上がりいただくならエルダーフラワーの物もおすすめです。あっさりめの紅茶で割っていただくと、また格別でございます。
いかがお過ごしでしょうか、伊織で御座います。

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太陽に忌まれても

節気すでに立秋をすぎました。
暦は秋だと申しておりますが、信じることがためらわれるような陽気が続いております。
水分の確保が大切なことはわたくしも十分存じておりますが、冷たいものばかり摂って体を冷やされませんように。
ここ数日、自室での水分確保にはローズヒップのコーディアルを贔屓にしている伊織でございます。

残暑という言葉の響きだけをとらえれば、夏の余韻、暑さの名残り、弱まりゆく太陽の光――尻すぼみな暑さを想像させますが、どうも実際の所はこれからが暑さの本番であるようです。
立秋をすぎたつい先日、今夏の最高気温を記録したという知らせが裏付けてくれるようでございます。
そうした知らせを知るほどに、野の花々が世界が白むような陽の下で栄えている姿はまぶしく映り、わたくしはと言えば、日かげに隠れて筆を玩ぶ時間が長くなるのです。

それでも、ふと見上げた窓外に白や紅色のこんぺいとうが宙に舞っているのを見つけたとなれば、この奇妙な光景の所以を確かめようと履物に手を伸ばさざるを得ません。
こんぺいとうが庭に浮いているなんて、遠矢くんの夢でもあるまいし――

もちろん砂糖菓子が宙を舞うはずもなく、近づいて確かめてみますと、こんぺいとうに見えておりましたのは満開の百日紅の花でございました。
強い陽に焼かれてなお白く滑らかな木肌、無邪気さを体現するような小柄で可憐な花弁は、花と知った今でもこんぺいとうを散らしたように可愛らしく見えます。

――案外、百日紅の花は、どんなに酷く暑い夏でも決して溶けることのないこんぺいとう、その物であるのかもしれません。
少しはわたくしも見習いたいものではありますが、しょせん夜蛾は夜蛾。
太陽がわたくしを嫌うのであれば、わたくしから歩み寄ることもないのかもしれません。
さて、日かげに戻ります。
太陽に愛された花を遠目に、相も変わらず筆をなぶって過ごしましょう。
こんぺいとうを相手にやきもちなんて焼けるものですか。

ひまわり

まだ梅雨明け前というのに、夏さながらの毎日が続いております。
吹きつける風が、真綿のような体積を持っているように感じられるのは、ひとえに湿度のなせる業なのでしょう。まとわり付いて、払えどもはらえども拭いきれない湿った風が、流す必要のない汗まで滲ませるようです。

湿度に耐え切れぬ忌まわしいクセ毛を短く刈ってまいりました伊織でございます。

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姫睡蓮

寒暖の起伏激しい日々が続き、幾分梅雨の到来を予感させるような雨も続いております。
急な白雨にお体を冷やされませんよう、十分にお気を付けくださいませ。
伊織でございます。

そろそろ衣替えの時期かと思い立ち、引き出しをひっくり返している最中に突然の雨。
まったく気のおけない毎日でございます。
そんな中、ふと開いた整理箱の中から古い日記帳が出てまいりました。

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待ち人、去る

日にひに温みをまし、街ゆく人々の衣の色も明るみを
まして参りました。
わたくしもようやく、分厚い外套を手放せそうです。

執事歌劇団も順調に舞台の稽古を積み、その成果に
笑みをもらす毎日でございます。
まだまだ望む高みには遠ございますが、公演の日には
きっとご満足いただける仕上がりになっていることでしょう。
少しでもご興味をお持ちいただけたなら、ぜひとも
執事歌劇団のホームページもご覧いただければと存じます。

ファーストフラッシュとの出会いが待ち遠しい、
伊織でございます。

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