No title

同じ景色を見て
同じ時を過ごし
同じ会話を聞いて
同じものを口にした、
そんな仲間はいつの間にやら
道化の友人だけに。
そんな彼も旅立ちの時が近づいているとは。

誰がこの結末を予想したでしょう?
自分でさえもしておりませんでした。
他の使用人であれば素直に
『次の給仕先でも頑張って!』
と送り出せるものが、
『何故。どうして?こんなにも急に。』
と、呼び止めてしまうのです。

使用人として未熟であり、
『良く出来た使用人』とは言えない私とは対照的に、
彼の持つオーラ、風格、言動には『使用人たる者、ここに習うべき。』
という説得力がございました。

今思えば、羨ましかったのです。
自分には無いもの、出来ないことをやってのける彼が。

そして、彼との会話から生まれる
無限の可能性が日々の給仕に
彩りと向上心を持たせてくれたのも
また事実です。

それが突然、無くなってしまう。
ここ数ヶ月は見送ってばかりです。
それを支えてくれたのも彼だったのに。

しかし大切な言葉も、思い出も、これまでに沢山貰ってきました。
自分には無い感性だからこそ、
得られるもの、
互いに励んだ給仕の質の向上が
今の自分の給仕を作り上げてくれていること。

そして、至高のカクテルを共に作れたこと。

数え切れない多くのものをくれた彼は、
今は自分の中にあるのだと、
気付きました。

やはりこの言葉に行き着きます、

『ありがとう。』

残された少ない日々で
私にできることを
お嬢様方のため、彼のため、
誠心誠意、努めて参ります。

そして、どうか旅立ってからも
彼に幸のあらんことを。

羽瀬