森を歩く

少し心が弱っていたこともあったでしょうし、思い入れのある銘柄だったこともあったのですが、

久しぶりに涙がこぼれるようなワインと出会えました。

 
シャトー・ガザン.(Chateau Gazin)1996 

10年以上前に4本購入し定点観測しながら飲んでいた最後の一本でした。

1996年のポムロールは個人的にお気に入りのヴィンテージです。

マンガやドラマ、映画などのソムリエが、海辺でどうこう、森の中をどうこう、といった表現を使うことが多々ございます。

多少の誇張はありますが私はまさにそのように感じることがあるので同意できます。
格好つけているように見えるかもしれませんが、ほんとにそうなのです。

自身の手で育てた、完璧な状態のワイン。これを何年にもわたって定点観測し、ワインを知る。

こういった経験こそがワインを知るうえで大事な知識のひとつです。

コルクを抜き切らないうちから香りが広がりはじめ勝利を確信できました。
なかなかないコンディション。

ミルクチョコ、スミレ(パルフェタムール)、熟れ切ったフルーツ プラムやフランボワーズ(公式だったらカシスというべきだが赤い果実の印象が強い)、鉄、キノコ、下草、シナモン、リコリス。
拡散する軽やかな香りから、重心の低い水を含んだような香りまで。グラスに注いだ瞬間から、のどを落ちるまで、いつまでも次から次へと香りが広がります。

96年というクラシカルなヴィンテージ、今ではみられない堅牢な作り、それらが交錯した一点がこの味わい。
感動的ですらあります。
ほどけたタンニンと酸。その酸味が輪郭を作りまさに厚みのあるシルクのようなしっとりとした口当たり。
上質なアルコール特有の甘さ、果実味のとろりとした甘さが心地よい。
巨大なワインではないのでずしりとくる重さとは無縁だが、余韻もとても長い。

ポムロールで作られたメルロでしか到達できない味わい。

コンセイヤントだともっとエレガントだろうし、アンジェリュスだったらもっと重厚になるはず。
そういったポムロールの頂点にはもう少し届かないけど素晴らしいワインでした。

追記。
3日目に口にした時に全く新しい表情を見せたことに驚いた。さすがにあけた1日目がピークだと思ったら。
より甘いミルクチョコレートのような香りが先に来るようになった。
味わいもふくよかさを増して、開いた印象。
こういう部分を読めないところにまだまだテイスターとしての未熟さをかんじる。