旅立ち

ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様。

榊でございます。

 

この度、私はお屋敷を旅立つ運びとなりましたため、日誌より報告させていただきます。

 

今までありがとうございました。

 

 

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え、早くないかですって?

貴方この間はじめましての挨拶をしたばかりだよねですって??

 

私もそう思います。

いくらなんでも早すぎると強く強くそう思います。

 

このまま何も言わずに旅立っては「何かあったんじゃないか…?」と、お嬢様にご心配をおかけしてしまうかもしれませんね。

そのため、この度は簡単な経緯を綴らせていただければと思います。

 

 

 

私には昔から大変お世話になっている恩師がいるのですが、

その人は自身で小さなお店を営んでおります。

その恩師に災難があったようで、

ある日突然、

「可能であれば助力を願えないか?」という旨を私に伝えてきました。

 

 

 

私はその話を聞いた時に、

 

「え……こ、困りますぅ……」

 

率直にそう思いました。

 

お屋敷に立ってから少し経ち、徐々にお給仕も手に馴染み始めてきたこの頃。

これからどんどん充実していく期間に入るという矢先にこちらでございます。

 

ええ、タイミングが悪いにもほどがあると思いました。

もう即答で断ってしまおうかなとも考えました。

 

ただ、その方は先程も申し上げた通り私にとっては切っても切り離せない恩師。

 

散々悩んだ結果、その話を受けることにしたというのが事の流れでございます。

 

決して、何かが嫌になってお屋敷を去るわけではない。

そのことをお嬢様には知ってもらいたく、この文章を記しております。

 

本当に、本当に色々と悩みました。

 

「こういう紅茶を作ってみたいな…」

「アレとソレを組み合わせたら良い感じのスイーツが出来るんじゃないか…!?」

 

という、様々な構想も少しずつ浮かび上がっておりました。

それらが実現に移せる三歩くらい手前までは多分来ておりました。

 

なぜこのタイミングだったんでしょうね。

 

 

 

しかし、人生は常に選択の連続とも言います。

私の性格上両方を取ってどちらも半端にこなすという選択肢はございません。

 

こうなってしまった以上、私に出来ることは自身の選択に誇りを持って前へ進むことのみでございます。

 

 

 

全てが夢のような時間でした。

 

豪華絢爛なお屋敷の風景。

洗練された使用人たちの立ち振る舞い。

そしてなによりも、敬愛してやまない麗しきお嬢様のお姿。

 

この輝かしい空間の一部にほんの少しの間だけでも私が含まれていたことは私にとって大きな自信へと繋がっております。

 

道は違えてしまいますが、私はこれからもどこか遠い地で同じ空を見上げながらお嬢様の幸せを、お屋敷の明るい未来を心から願い日々を生きることでしょう。

 

私の人生に、かけがえのない大切な思い出をくださり本当にありがとうございました。

 

 

 

それでは、少し長々と続いてしまい誠に申し訳ありませんでした。

 

これにてお別れの報告とご挨拶を〆させていただきます。

 

 

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まあ、まるで今日からもう会えないみたいな雰囲気がこれでもかというくらい出てしまってはおりますが……

 

あの、まだもう少しだけお給仕します、はい、まだ羽ばたきません。

最後の日まで精一杯お世話いたしますので、お早くお戻りくださいね。

 

そ、それでは失礼いたします!

ご挨拶

ご機嫌麗しゅうございますお嬢様、お坊ちゃま。
この度、使用人の末席に加わりました榊と申します。

気温も上昇しまとわりつくような湿気が肌を撫でることが多くなって参りましたが、お屋敷の中では爽やかに、フレッシュに仕えさせていただければと考えております。
これから何卒よろしくお願いいたします。

見上げた空を覆う雲を払うことは不可能であっても、
皆さまの心を覆う雲を払うことは可能である。

そんな使用人に、私はなりとうございます。
これから精進して参ります。

などと決め込んだように書いておりますが、
初めての執筆への緊張のあまり上の文言を考えるのにざっと一時間を要しました。
読んでくださったお嬢様の胸に少しでも響けばこの上ない幸せでございます。

それでは、お早いお戻りを心よりお待ちしております。