「さて。年末年始は忙しくて全く部屋の掃除ができなかったからな。」

先日。徐々に春を感じられるようになってきたこの時期になってやっと大掃除を始めました。

「この山を崩すのは何年ぶりだ?さすがに色々でてくるな。ん?・・・この本は。 あぁ。ほんとに懐かしい。あの頃を思い出すな・・・」

キーンコーンカーンコーーーーン♪♪

広々とした敷地内に響く鐘の音。

緑が生い茂る中にそびえる時計塔。そして古めかしく威厳と歴史を感じさせる校舎。

ここはスワロテイル私立・使用人育成学校である。

卒業生の多くは名門中の名門スワロウテイル家での様々な仕事に従事することになる。

フットマンや執事・・・と説明しなかったように、料理、紅茶、園芸、馬の飼育、様々な業務のプロを育成する全寮制学校なのだ。

「Butler of Butlers」「全てを護る者(ロイヤルガード)」と呼ばれ、世界中の執事から敬意を集める藤堂執事や芥川執事もここの卒業生であると噂されている。

生徒は皆。スワロウテイル家で働くことを夢見て、青い蝶をあしらった校章を誇りに日々勉学に励んでいる。

静かだった校内は、先ほどの鐘をきっかけに多くの足音に包まれた。

どうやら終業の合図だったようだ。

「今日の講義もようやく終わりだな! いやー、最後の紅茶学。なかなか大変だったね。

なぁ湯島くん。」

「何言ってるんですか。大河内さんはずっと寝てたじゃないですか!もうレポート手伝いませんからね。」

きっと慣れたことなのだろう。湯島は表情一つ変えずに受け応える。

「そう言わないでくれよ。ほら、一日頑張っておなか空いただろ、僕がご馳走するからカフェテリアで食事でもどうだい? 丁度調理科の連中がパスタを作ってるみたいだしさ」

「・・・スコーンも付けてくださいよ。話はそれからです」

なんとか交渉のテーブルに着いてもらえたことに安堵したのか、大河内は笑顔でカフェテリアへ足をむけた。

「そういえば大河内さん。先日とある書物を手に入れたんですが、是非見てください。すごいですよ」

そういうと湯島は鞄から一冊の古びた本を取り出した。大河内は読み慣れないアルファベットに目を通していく。

「ネクロ・・・ノミコン。 一体なんの本なんだい?」

「ふふ・・・大河内さんは神の存在って信じてますか?」

不敵な笑みを浮かべて湯島は語り始めた。

「この本はですね・・・略」

「へえ」(まずい)

「で、この部分はですね・・・略」

「ふぅん」(この展開は)

「そして、さっき話した内容が・・・略」

「なるほどねー」(夜まで話しが終わらないっっっ!!!)

目の前のパスタは中々減らず、紅茶は冷めてしまっている。

(調理課のみなさん本当にごめんなさい)

湯島の言葉は強い熱を持っているが、単語は聞いたことがないものばかり。

(非常にまずい。紅茶学云々というレベルではないぞ。とにかく寮に帰らねば!!

・・・よしっ、これでこの場を切り抜けよう!!)

「すごいね湯島君!! いやーーー。こんな出会いを待っていたんだよ。まさに人生のバイブルだ!! 是非『自室で』じっくり読んでみたいんだが、貸してはもらえないかな??」

(よし・・・これでとりあえず、この場を切り抜けよう!)

湧き上がった一瞬のひらめきを信じて口からだしてみたが。これがこの後尾を引きずり続けることになるとは思いもしなかったのだった。

「さすが大河内さんです。中等部2年生のような、他人とは違う特別な魅力をわかっていますね!!」

・・・・・・

・・・・

・・・

私と湯島の仲と同じように。そのころから変わることなくほこりを被り古びたままの表紙を閉じて数年振りに思うのだった。

(これ・・・いつ返そうかな)

ookouchi_book

※写真は湯島の私物です。本の内容については湯島に直接聞いてください。懺悔した内容

に偽りなく私は全く読んでおりません!!

多分。「大切なあの人に想いを届けるおまじない♪」などが書かれた本だと思いますので、お嬢様のお役に立つのではないでしょうか。