少し不器用な私のベストフレンド

もう4月でございます。
お屋敷のフットマンとして仕えるようになってから一年が経ちました。
頼りない私にも自然と後輩が増え、より一層お給仕に精を出さなければと奮起する毎日を過ごしております。
私の持っていない魅力を持つ、たくさんの使用人。彼らの存在は大きく、そして私自身の小ささに打ちひしがれる毎日でした。これからの一年もたくさんの試練、そして素晴らしい思い出を共に過ごしたいと浅葱は新たに決意致しました。
今日は昨日よりも素晴らしい使用人に。明日は今日よりも素晴らしい使用人になれるように。
浅葱はこれからもお嬢様にお仕えしとうございます。

本来であれば滑稽話のひとつやふたつ。
はたまた謎の事件を綴るところではございますが。
なかなか筆が進まず、今月は私自身のことを綴らせてくださいませ。
先日、すこし哀しい出来事がございました。

いつも傍におり、
大きくてごつごつとした、
アホウで、
不器用ながらも優しく、
誰よりも私を理解してくれた存在。
そしてお互いに切磋琢磨した、
私の……ベストフレンド。
彼は急に私の前からいなくなってしまいました。





お茶碗の話でございます。



体だけ大きくて、ゴツゴツとしていて、そしてすこし歪んだアホなところが私の手によく馴染んだお茶碗でございました。
彼が私の前に現れたのは去年の4月。まだ不慣れなお給仕に振り回されていたそんな時、彼は持ち前の明るさと人当たりの良さを発揮して存在感がありました。子どもっぽくもあり、大人っぽくもあり、賢くは……ありませんでしたが、そのアホさが人に好かれる素晴らしいお茶碗です。
最初の頃はお互いに遠慮していたところもございました。少しずつ、少しずつ、距離を詰めていって、軽口を言い合いながら、何も言わなくなくてもお互いの空気感を分かり合えるようになり、気づけばいつも一緒におりました。
彼は私の持ってない魅力を持っていました。
私の持っていないユーモアと優しさ、そしてアホさを。
例えばこんなところでございます。
私はあまり食べる人間ではありませんので、彼がお茶碗いっぱいにご飯を盛って「これぐらい余裕でしょう、浅葱さん」とよく無茶振りをしてきます。私のキャパシティでは到底無理そうな量にタジタジになるのですが、得意げな彼の期待に応えられない自分でいるのは嫌だと、私はその度に必死に頭を捻って対処致しました。時に素っ気なく、時に無茶振りを返して、時にムキになって。
彼はすべてを優しく応えてくれました。
周囲からみて私達の関係はどう見えていたでしょう?
何かと比べられることが多ございました。
私だけを褒められる時もございました。その時、私は少し口惜しい思いを致しました。もっと彼のことを見て欲しいと。
彼だけが褒められることもございました。その時、私は死ぬほど口惜しかったのです。彼には負けたくないと。
素直に馴れ合う関係とは少し違いました。お互いに認め合っていたとは思いますが、どこかで負けたくないと対抗するライバル関係でもあり、私は冷たくあしらっているように見えたかもしれません。ぶつかり合うこともございました。私が彼に怒ることもありましたし、彼が私に怒ることもありました。
犬猿の仲でございました。私が犬でございます。……そういうと「んふふ、また戯言を。私が犬でございます」と彼は言いました。
彼は私の前からサル、もうイヌ。なんちゃって。
「つまらないですねえ」とツッコまれる気がします。

急にいなくなってしまったのは寂しゅうございますが、思い出の中で、そして浅葱の中で彼がいたことは消えません。忘れません。
お嬢様、もしも寂しい思いを致しましたら、私の中に彼を思い出して頂ければと存じます。
浅葱は彼のことを忘れずに歩いて行きます。


そして、最後に。
ありがとう。
今まですごく楽しかった。
君がいてくれたから、浅葱は今ここにおります。
浅葱はここにおります。
またいつか。




それでは、
当月もお嬢様にとって素敵な月であらんことを。

浅葱
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