もどかしい

気に入ったひとつの道具があれば、同等の品はふたつもみっつも必要ないというのが信条です。
唯一無二の気に入りだからこそ、ますます思い入れも強まるというものです。
伊織でございます。

愛用のブックカバーは赤い革製の物でございます。同じ皮革のしおりが縫い付けられているのが気に入りで、しおりを無くすことも、外れてしまうこともないのが最大のポイントです。
いわゆる文庫サイズであり、これまで何ひとつ不満を覚えたことはないのですが、先日わたくしを悩ませる事件が起きました。
事件の真相は至極単純でございます。
本が入らないのです。
皮革の縫い目の分、ほんの1mmほど、文庫本の表紙を射し込む余裕が足らないのです。
湯船に落として濡らそうが、頑として使い続けてきたブックカバーが、とうとう機能を果たせない瞬間に出会ってしまったのです。
恐るべしハ〇カ〇文庫……なぜこの1mmを詰めて製本されなかったのか……。

仕方なく、別に所持していたブックカバーを試したところ、すんなり収まりました。
何を隠そう妹から誕生日プレゼントにもらっていた物なのですが、この妹、何を考えているのか、

『カバーをつけてよく本を読んでいるから、カバーをプレゼントします』

と言って、おおよそ同じスペックの「赤い革製のブックカバー」を贈ってきたのでございます。
赤いカバー使っているところを見てたなら、もう少し考えてよ……とは申せませんで、すなおに受け取ったわけですが、特徴が似ているだけでなく、唯一無二の気に入りを使い続けたいわたくしの性分と相まって、しばらくしまい込まれていた物なのです。

まさに「こんなこともあろうかと」と、先見の明を信じずにはいられない品物の選択でございます。ちなみに妹から贈られたカバーの方が質の良い皮革を使用しており、ありがたいのですが、これまたわたくしに複雑な感情を想起させます。
ともかく現在、この〇ヤ〇ワ文庫の1冊を読み終えるまでは、ありがたくお世話になるつもりでございます。
これでしおりが着いていれば完璧なのですが……文句は申せませんね。
とりあえず湯船に「ちゃぽん」しないように気をつけるばかりです。