月見で

お嬢様、お坊ちゃま、奥様、旦那様ご機嫌うるわしゅうございます。
才木でございます。

いよいよ秋到来でございまして、
ようやく涼しさも垣間見えて参りました。

秋といえば、様々ございますが、
書庫管理を仰せつかっている私と致しましては、
やはり「読書の秋」。

朗らかな陽気を楽しみながらもよし。
夜風を楽しみながらの読書もよし。
部屋を少し暗くなさって、小さな明かりの下、文字に寄り添うのもまたよしです。
月見酒をお供になさるのも捨て難いところですね。

というところで、私からのオススメも紹介させて頂きます。

……

「月への梯子」
作 樋口有介

月というワードで、選びましたものの、
内容としては春~初夏のお話です。

樋口有介さんは、実のところ、私が最も好きな作家でして、
様々面白いシリーズなどもあるのですが、
今回はこちらを。

主人公は、「ボクさん」。
何やら不思議な名前ですが、
本名は福田幸男(サチオ)。
知能障害があり、四十になっても、
自らを「僕」と自称するので、
親しみを持って「ボクさん」と呼ばれるのだとか。

死んだ母親が遺したアパートの、管理人(管理技術はプロ並)をし、生活をしている彼。ある時起きた事件が元で、様々な変化が訪れます。

内容としてはミステリー。
ですが樋口有介さんの(私が思う)真骨頂は、
丁寧な情景描写(特に植物に対する描写)、客観的に描かれる細やかな人物の機微。
今作においてもそれは健在で、
事件自体はさほど重要ではなく、
その中で生きるボクさんのお話です。

このボクさんという人物が、とても愛らしい。
自然を愛し、人を愛す。
公園に咲いたツツジを見て三十分は過ごせたり、彼の時間の中でしっかり生きている。
死んだ母親の助言(処世術)により、
「人には親切に」「悪口や愚痴は言うな」
などを地で守る人柄には、何やらほんわかとさせられます。

そんな彼の周りには、
彼の人柄を愛する面々が集まって、
彼自身も「幸せ」を感じ、生きている。

少し辛いところもありますが、
落語のような軽快な語り口で、
滑稽に描ききってしまうところも、
この作者の味であります。

ラスト、悲しさもありながら、
よかったねとも思えてくるのが、
何だか切ないところです。

親しみやすい1作と存じますので、
秋の余暇の予定に、加えて頂ければ幸いです。

……

さて、以上でございます。

私も、丁度1冊読み終わってしまったところですので、
少々書庫を探索して参ります。

本を探す・選ぶ時間というのも楽しゅうございます。
皆様も、1冊読み終える頃には、
是非書庫にお立ち寄りくださいませ。
ご自身で、見つけられた最高の1冊との出会いは、何物にも変え難いものですから。

勿論、お悩みでございましたら
お気軽にお申し付けくださいませ。

それでは。

才木