秋の味覚はあの場所にかぎる!

浅葱でございます。
いつの間にやら秋でございます。
夏の暑さがおさまり、美味しい食材が旬を迎える素晴らしい季節。お嬢様は如何にお過ごしでしょうか?

私は最近、落ち葉が増えたということで庭師の手伝いに駆り出されることが多ございましす。私の非常に小さい体と心許ない一本の箒で淡々と掃いておりますと、改めて当家の敷地の広大さに驚かされる今日この頃。

そういえばお嬢様に是非とも聞いて頂きたい面白いお話があったのでございます!


庭に居りますとお屋敷に出入りする御客人が往き交う姿をよく見掛けます。アラブの石油王から欧州の貴族まで大行列。
大旦那様が忙しい理由がよく判りました。
いけないとは知りつつも、浅葱は悪い子でございます。その御客人の会話を立ち聞きしてしまいました。面白い話とはその御客人の会話でございます。

話の内容は自慢話でございました。恰幅の良い御客人が以前、出先で起こったことを長身の御客人に話しておりました。
どうやらお弁当を忘れてしまったらしく、恰幅の良い御客人とその使用人達はお腹ぺこぺこで途方に暮れていたのでございました。
「この匂いは何だ?」
恰幅の良い御客人が漂ってくる良い匂いに反応致しました。
すると側にいた使用人が答えます。
「これは庶民が食べる魚、秋刀魚を焼いた匂いでございます。決して旦那様のお口あうものではございません」
「こんなときにそんなことを言ってられるか!」と言い、使用人に秋刀魚を持って来させました。
その秋刀魚は庶民がお昼ご飯に食べようとしていた串焼きでございました。とても身分の高い方が食べるものではございません。
「う、美味い!」
とはいえ、食べてみると脂がのった身、パリパリと少し焦げがつく皮、そしてほんのりと塩を振った秋刀魚は絶品でございました。

それからというもの、恰幅の良い御客人は秋刀魚という魚をいたく気に入り、メロメロなのだと語りました。
しかし、使用人達に秋刀魚をリクエストしますとあの日に食べた秋刀魚とはまったく違う物が出てくるというのです。
恰幅の良い御客人は使用人にどこの秋刀魚か尋ねました。
「9月に旬を迎えます北海道で仕入れた秋刀魚でございます」
すると得心してこう言ったようでございます。
「やはり秋刀魚は群馬県産に限る!」

二人はそのように話を締めてその場から去って行きました。
群馬県産の秋刀魚……?
私の記憶に違いがなければ群馬県には海がないはず。
これはミステリーの予感でございます。
お屋敷探偵浅葱の出番でございますね!

9月は秋刀魚に脂がのり、美味しい季節。
太平洋側の、それも北海道の秋刀魚は9月に旬を迎えて絶品のはず。けれども御客人の口には合わなかった。
ふむ、なるほど!
浅葱には解ってしまいました!

秋刀魚は焼くと多くの脂が出ます。それでは体に良くないと使用人達は脂をすっかり取ってしまいました。そして骨が喉に刺さるといけませんので一本一本抜きます。すると秋刀魚はグズグズになってしまい、原形を留めておりませんでした。
こんな形では出せないので、椀の中に入れてお出ししたのでしょう。

御客人の前に出された秋刀魚は、美味しさがことごとく奪われた後の秋刀魚なのです。

それを食べた後、使用人にどこの秋刀魚を使ったのかと尋ねた彼は以前群馬県で食べた秋刀魚はもっと脂がのり、美味しかったことを思い出しながら言ったのでしょう。
「やはり秋刀魚は群馬県産に限る!」と。

これは世間知らずの御客人と世間知らずの使用人、そして要らぬ配慮が生んだ哀しい事件なのでございました……。

勿論、当家ではそのような事件は起こり得ません。
庶民のことを学ばれているお嬢様、優しさと知識を備えた使用人、いつも美味しい料理を届けてくれるシェフ。
そして秋に旬を迎える、美味しい秋刀魚。

おそらく当家でお出しする秋刀魚は絶品でございましょう。浅葱はそう妄想して少し幸せな気持ちでございます。
そう例えば、バジルなどでマリネしても素晴らしゅうございますね。野菜と合わせて……茄子、トマトなども相性が良いでしょう!
お食事にするならパスタが丁度良いかと。
ふむふむ、ではこのようなお品は如何でございましょう!
名付けて『秋刀魚と茄子のトマトパスタ バジルの香りと共に』。

そのようなお品がありましたら是非ともお嬢様に召し上がって頂きたいものでございます。きっと絶品であると浅葱は確信しております。

そう考えるとお腹がペコペコになってしまう浅葱でございました。
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